WE Love 女子サッカーマガジン

漠然と良いことだと思っていたプロ化が、高瀬選手(I神戸)の言葉で実感を持って伝わってきた 1年間WEリーグを追いかけてきた邨田直人さん(サンスポ)

日本では、プロ・アマ、様々なスポーツが行われています。サッカーだけでも、Jリーグ(J1、J2、J3)、JFL、WEリーグ、なでしこリーグ、高校サッカー、大学サッカー等、多数のリーグ、大会が行われています。

スポーツ新聞は紙面が限られています。デジタル版には紙面という概念はありませんが、記者の数は無限ではないため、おのずと掲載できる試合に限界が生じます。従来型のスポーツメディアは、紙、デジタル版を問わず中高年層の男性読者が多いため、以前から、あまり女子サッカーの扱いが大きくありませんでした。

今回はスポーツ新聞から見たWEリーグを取材現場視点でお聞きします。INAC神戸レオネッサがWEリーグの初代女王の座に就きました。関西のスポーツ新聞は、どのように1年目のWEリーグを報じてきたのでしょうか。サンケイスポーツ(関西)のサッカー担当をされている邨田直人(むらたなおと)さんにお時間を頂戴しました。邨田さんは2018年に入社。2019年からサッカー担当になりました。WEリーグだけではなく、Jリーグ、高校サッカーを含む関西のサッカー全般をご担当されています。

サンケイスポーツ(関西)のサッカー担当 邨田直人さん 提供:邨田直人さん

丁寧に説明してくださる星川敬監督

—1年目のWEリーグを振り返ってみていかがでしたか?

邨田–星川敬監督(当時)が就任されたチームは開幕戦から無失点が続き、強いチームだと感じていました。ずっと勝っているのだけれど、星川監督と選手が試合後に「まだまだですね」という雰囲気を出していたのが面白かったです。いつも「勝っても満足しない様子」を記事にしていた気がします。星川監督が「女子のチームだから女子のチームを目標にする必要はない」としてチェルシーやマンチェスターシティの名を挙げ、日頃から(男女を問わず海外のチームから)アイデアをもらっていると話をされていたので、星川監督の理想が高いところにあると感じていました。

星川監督は何でもはっきりと説明してくれる、記者にとってありがたい監督です。質問に対して、いつも2つ、3つと返してくださって「なるほど、こういうことなのか」と理解することができました。星川監督は、後半戦の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦(2022年4月3日 第16節)が大きな山場でだと考えていました。その試合を3−1で勝利して乗り越えた後日、練習の取材に行くと(練習場が)わきあいあいとしていました。「あれ?こんな練習をするチームだっけ?」と思ったのですが、どうやら、星川監督は、日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦の後はプレッシャーを和らげてモチベーションを維持する練習方法にシフトしていたようです。メンタルコントロールも意識され、視野の広い印象を受けました。

—1年目のWEリーグですから、読者の中には、あまり女子サッカーをご存知ない方も多くいらっしゃったわけで、星川監督のような丁寧に説明してくださる監督は助かったのではないでしょうか?

邨田–そうですね。僕としても男子と比較するのではなく、今のWEリーグの中で起きていることを普通に書きたいと思っていましたから、星川監督のように、たくさんお話ししてくださる監督がいらしたことは助かりました。

普通にサッカーの試合として扱おうと考えた

WEリーグのスタート時に、どのような方針を立てられたのでしょうか。

邨田–Yogibo WEリーグ優勝トロフィー「ガラスの天井」の動画を見て、開幕戦の記事ではWEリーグの理念説明を盛り込みたいと考えました。開幕戦の記事(終面)はスポーツ新聞各紙の中で一番大きな記事になりました。INAC神戸レオネッサのファーストゴールを起点に、岡島チェアが「日本のジェンダー平等を前に進める覚悟のリーグです」という話をされていたことを盛り込みました。これまで、女子サッカーを大きく扱ってこなかったので、ホームタウンを示した日本地図も用意する必要があると考えました。

節以降のシーズン中の記事は、試合以外の部分でセンサリールームの話に触れることはありましたが、普通にサッカーの試合として扱おうと考えていました。

開幕戦の記事の反響はいかがでしたか?

邨田–社内では「押えるところは押さえられた記事」という反応だったと思います。INAC神戸レオネッサの広報の方に「終面ですよ」とお渡ししたら喜んでいただけました(笑)。

プロ化を実感できた開幕戦の取材

—特に思い出深い取材を挙げていただけますか?

邨田–開幕戦です。高瀬愛実選手が「職業欄にプロサッカー選手と書けるようになった」と話をされていたのが響きました。漠然と良いことだと思っていたプロ化が、高瀬選手の言葉で実感を持って伝わってきました。「WEリーグが始まってよかった」と印象に残った言葉です。

余談ですが、高瀬選手のコメントは、Jリーグが開幕したときの水沼貴史さんのコメントと、ほぼ一緒です。私は、高瀬選手の記事を読んで男子も女子も「一緒だ」と思いました。

邨田–プロ化して何が変わるのか?で?という反応が、周囲に少しはあったと思います。でも、そういう反応に対する回答が、現場の声として最初の試合で聞けたのがよかったです。

—開幕のタイミングで、これが記事になったことに意義があったと思いますね。

INAC神戸レオネッサから盛り上げようという思いが伝わって来る

—INAC神戸レオネッサは広報のご担当者、安本卓史社長が様々な工夫をされて情報発信しているのではないでしょうか?

邨田–話題作りを定期的にしてくださるのはありがたいです。2022年3月4日に「2022年新加入選手会見」がありました。その場で国立競技場でのホームゲーム(三菱重工浦和レッズレディース戦 2022年5月14日 第21節)開催が発表されました。記者が集まったタイミングで発表していただくと、こちらは記事に取り上げやすいです。その場で、社長にお話を直接聞けるのもありがたいです。INAC神戸レオネッサは、いつも、こちらのことも気にかけてタイミングを図ってくださいます。

INAC神戸レオネッサがホームゲームを開催した国立競技場 

—新加入選手にも注目が集まって、良いやり方ですね。安本社長が、国立競技場で開催する経緯、意図を丁寧に説明されていましたね。

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