WEリーグは試合の開催されない343日間に何をできるか(前篇) 「単純接触の原理」にどのように適合するか
茨城未来デザインプロジェクトに掲載された「スポーツ×地域 水戸ホーリーホック企業インタビュー」によると、Jリーグ・水戸ホーリーホックが行った地域貢献活動は、その数なんと年間865回。コロナ禍前の2017年シーズンの記録ではありますが、並々ならぬ意気込みと努力が伝わる数字です。水戸ホーリーホックの1試合あたりの平均観客数は2017年シーズンに4千931人でしたが、2019年シーズンに6千87人となり飛躍的に増加しました、
イングランド女子FAスーパーリーグの有力チームはカップ戦やUEFA女子チャンピオンズリーグを勝ち進むと年間で40試合以上をこなします。週に2試合の厳しい日程が続きます。しかし、WEリーグのホームゲームは年間で10試合。ホーム&アウェイで合計22試合しかありません。単純計算すると(しなくても)女子サッカーそのものの価値だけでは、ホームとアウェイを合わせて年間に22日しかファンを楽しませることができないことになります。つまり、年間で343日は選手がWEリーグの試合をしない日なのです。
認知度を向上させたマイナビ仙台レディースの広報活動
マイナビ仙台レディースの選手・監督は2021−22 YogiboWEリーグ開幕直前の2021年9月、多くのテレビ番組に出演しました。出演テレビ番組は、仙台放送「スポルたん!NEO」、KHB東日本放送「もえスポ」、tbc東北放送「ONE SWITCH CAFE」、仙台放送「Live NEWS イット」、tbc東北放送「サタデーウォッチン!」、宮城テレビ放送「ミヤテレスタジアム」、tbc東北放送「Nスタみやぎ」……毎日のようにマイナビブルーのユニフォームがテレビに映りました。また、ウェブ・メディアにも多くの選手が登場しています。
年間22試合で「単純接触の原理」にどのように適合するか
同じ人や物に接する回数が増えるほど、その対象に対して好印象を持つようになる効果を「ザイオンス効果」といいます。 1968年に、アメリカの心理学者ロバート・ザイオンスが広めました。別名で「単純接触の原理」と呼ばれています。
マイナビ仙台レディースはWEリーグ開幕前に認知を向上し、「ザイオンス効果」で好印象を高めました。生まれ変わった新クラブであるのにもかかわらず、宮城県内では地域で愛されるクラブとしてのポジションを固めつつあります。では、他のエンターテイメントでは、どのような方法をとっているのでしょうか。あの大ヒット作品の例を調べてみました。
『鬼滅の刃』大ヒットの影に「単純接触」の最大化あり
実は、ここ数年で日本のコンテンツプロモーションの流れが大きく変わっています。よりタイアップ実施のハードルを下げて露出を増やすことを優先するのがエンターテイメント成功の方程式とされています。
あの『鬼滅の刃』が大ヒットした要因の一つが「単純接触の原理」でした。ファンの熱量が冷めないよう、作品と接する機会を継続することを心掛け、常にどこかでタイアップ展開もしくは番組の放送(配信)を行ってきたのです。この手のコンテンツ産業では、従来は、高額な権利料を支払った限られた企業に特権を与えタイアップする「短期的な収益」の確保が王道でした。しかし、『鬼滅の刃』は、それとは全く異なり、「単純接触」の数と期間、業種の幅を広げることに全力を注ぎ、作品とファンの「単純接触」を最大化。放送(配信)も複数のプラットフォーム(テレビ局やネット)で実施し様々な方法で視聴できるようにし、日本のコンテンツプロモーションに革命を起こしました。
- ローソン:限定クリアファイルプレゼント
- 東京ヴェルディ:スタジアムで声優トークショー、限定グッズ販売
- ロフト:東京、大阪など5都市でポップアップストア
- スイーツパラダイス:コラボカフェ
- バンダイ:キャラの髪色になるワックス発売
- Marisol(女性誌):チケットホルダー付録
- ANNA SUI:かんざし、ネックレス、イヤークリップ発売
- バンダイ:リラクシングウェア発売
- 極楽湯(温浴施設):コラボメニュー、グッズ販売
- 丸美屋食品:「鬼滅の刃 カレー」発売
- ハニーズ:アパレル商品発売
- 高田織物:畳発売
- JR九州:ラッピングトレイン
- JR東日本:無限列車大作戦(SLイベント)
- 京都南座:歌舞伎体験イベント
- ANA:「鬼滅の刃 じぇっと–弐–」特別デザインの機体が就航
さらに、2022年7月には野村萬斎さんにより能 狂⾔『⻤滅の刃』が上演されます。ここに紹介したのは無数のタイアップのごく一部です。畳発売、歌舞伎体験イベント、J2の東京ヴェルディと声優トークショー等のタイアップをしているところから、『鬼滅の刃』が、メジャー、マイナーにとらわれず、いかに「単純接触」の数と期間、業種の幅を広げることが大切だと考えているかをご理解いただけると思います。WEリーグに例えれば、試合のない日に、選手や素材、コンテンツをフル活用してファン・サポーターとの接点を作り続け、ウィンターブレイク中も試合開催日への興味を継続させてきたようなやり方です。
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