WE Love 女子サッカーマガジン

マイナビ仙台レディースは、なぜホームゲームを東京で開催するのか? 粟井俊介社長に聞く「関心層と未関心層」の壁をぶち破る

2022年3月16日に福島県沖で発生した地震の影響により運転を見合わせていた東北新幹線は福島〜仙台間の安全確保の見通しが立ち、4月14日から全線運転が再開されます。偶然ですが、その3日後の4月17日にマイナビ仙台レディースがホームゲームを東京で開催します。仙台から東京を結ぶ大動脈の復旧は、このビッグマッチ成功への後押しとなりそうです。

マイナビ仙台レディースのホームゲーム東京開催については、多くの期待の声があると同時に疑問の声も起きていました。「なぜ東京開催なの?」「なぜ国立競技場ではなく味の素フィールド西が丘なの?」「せめて近隣の福島とかにならなかったのかな?」……。

何しろ、近年のJリーグでは考えられない、ホームタウンから遠く離れた東京でのホームゲーム開催です。しかし、たとえば、プロ野球では、親会社のソフトバンクが東京にある福岡ソフトバンクホークスが『鷹の祭典』と呼ばれる特別マッチを東京ドームで開催しています。女子サッカーでは、かつて、マイナビ仙台レディースの前身といえる東京電力女子サッカー部マリーゼが、ホームゲームの一部を味の素フィールド西が丘、等々力陸上競技場、柏の葉公園総合競技場等で開催していました。特に2006年9月に等々力陸上競技場で開催されたTASAKIペルーレFC戦は、熱戦が今も語種(かたりぐさ)になっています。観客数は東京電力の職員、取引先職員を中心に、当時としては驚きの約6千人。鮫島彩選手(当時・東京電力女子サッカー部マリーゼ、現・大宮アルディージャVENTUS)、山本絵美選手(当時・TASAKIペルーレFC、現・ちふれASエルフェン埼玉)が大活躍した姿は、筆者の脳裏に鮮明に焼き付いています。

代表取締役社長 粟井俊介さんに聞くこの一戦に賭ける強い思い

#女子サカマガ では、マイナビ仙台レディースが、なぜホームゲーム東京開催に踏み切ったのかを取材しました。代表取締役社長 粟井俊介さんの言葉から見えてきたのは、この一戦に賭ける強い思いと、どうしてもWEリーグを成功させたいが為に選択した具体的なアクションでした。

粟井さんは、東京でのホームゲーム開催までの経緯を、このように話しています。

WEリーグに参入が認められた後の初めての単独オンライン記者会見(2020年10月27日)において、マイナビ本社の中川信行社長(現・会長)より『シーズンのうち1回は東京でホームゲームを開催したい』という方針が発表されていました。

それを踏まえて、その実施時期の検討にあたっては、WEリーグはウインターブレイクを境とした前半、後半があるということもあり、初年度シーズンに実施するにしても後半戦のどこかだろうという考えは早い段階から私の中でありました。チームとして初年度シーズンということもありますし、前半戦は様々な興行企画をまずはホームスタジアムであるユアテックスタジアム仙台、キューアンドエースタジアムみやぎでトライしていきたいという思いもありましたので。

東京での試合開催決定に至るまでのプロセスにおいては私の予想を超えて多くの方々のご尽力をいただきました。考えてみれば当然ですが東京都はチームの数が非常に多い一方で限られた数のスタジアムで利用調整をつけていかなくてはならず、WEリーグ事務局をはじめ東京都サッカー協会、宮城県サッカー協会など各方面のご協力のもと調整が実現したといういきさつになります。」

東京開催のアイデアは、まだマイナビ仙台レディースが立ち上がっていない2020年10月に立ち上がっていました。それから約1年半を経て、ホームタウンでの開催よりも多くの困難をクリアする必要がある東京開催を、なぜ4月に行おうと考えたのでしょうか。

「まず、当クラブの経営母体となる株式会社マイナビの本社が東京にあるという点が大きいということがあります。

マイナビグループは本体だけでなく、多様なグループ会社とともに総合情報サービス企業として経営している側面があり、その各事業に当社が行うプロスポーツチーム運営事業とのコラボレーションを生み出せるポテンシャルがあると私個人は見ています。これらあらゆる事業との協働模索を加速させるべく、マイナビグループ内に強力にアピールしたいという『内的意図』を含んでいます。

また、一般の方向けには、マイナビ仙台レディースが展開するサッカーを、東京をはじめとする首都圏の方に一度見ていただきたいという思いもあります。女子プロサッカーが面白く、魅力的と思ってもらえるような新しいきっかけづくりの1つという狙いもあります。月は新入生・新入社員をはじめとした多くの方が新たなキャリア、新たな一歩をスタートさせる時期でもあります。そういった方々の『新しい挑戦』を後押しするという意味でも月の東京開催ホームゲームがふさわしいのではないかと考えました。これは、私がマイナビで長く新卒領域のキャリア支援・新卒採用支援の事業に携わってきたことからくる思いと重なっています。」

女子サッカーに関心を持つ方を「みんな(=WE)」で増やしていきたい

マイナビ仙台レディースは2021−22 YogiboWEリーグが開幕する前に、クラブの興行企画を考える上での基本方針を定めました。

WEリーグ理念に沿い、「プロサッカー選手」の職業選択肢をアピールする。
→観る人に「女子サッカー選手ってカッコイイ!」と思ってもらうための工夫を凝らす。

・私たちがターゲットとするのは「サッカー観戦入門者」が多く含まれるはず。
→スポーツ観戦の楽しさに加え、女子サッカーが観戦するに「やさしい」スポーツというブランディングを確立したい(ガイダンス等事前情報の充実を図る)。

・スタジアム来場を通じて「学び」「楽しみ」を提供する。
→例えば、SDG sについての学びを深められる「フィールドワーク」としての機能できる企画など コロナ禍で外出が制限されている現在の情勢を踏まえて、プラスアルファの価値提供を意識したい。

WEリーグはウィンターブレイクを挟み、試合開催の認知不足や観客数低迷の課題が顕在化しています。そのような状況の中で、マイナビ仙台レディースが「自助努力」により新たな顧客層へのアプローチを加速さていることに注目すべきだと筆者は考えます。マイナビ仙台レディースは「初年度シーズンを通じて1度でも魅力に触れた方が、まだ見ぬ『未関心層(注:あえてこのように表現します)』に対して働きかけていきながら、女子サッカーに関心を持つ方を『みんな(=WE)』で増やしていきたい」と考えているのです。

粟井さんは「『関心層と未関心層』の壁をぶち破る取り組みを新しく発想して行うべきだ」と言います。サッカーはメジャースポーツとされていますが、WEリーグを通じて女の子やその親に「競技としての魅力」「子どもたちの成長においてサッカーに取り組むメリット」を地道に伝え続け「関心層のすそ野を広げていくこと」に尽力していきたいと思っているのです。

交通広告と屋外広告の大規模出稿で未関心層にアプローチ 

WEリーグの存在、サッカーの魅力、ホームゲーム東京開催を未関心層に伝えるために、マイナビ仙台レディースは従来のWEリーグのプロモーションとは異なるチャネルで積極的に告知活動を展開しています。

これまで、WEリーグは、サッカーに関心を持つ層に到達するネット上での発信を軸に、試合の広報活動を展開してきました。マイナビ仙台レディースは、それとは異なる「未関心層とWEリーグの接点づくり」に挑んだのです。交通広告と屋外広告による大規模なプロモーションを行いました。

東京メトロ全線で中吊り広告

1日あたり延べ742万人が利用する東京メトロ全線で中吊り広告を展開(4月10日まで)。概ね2車両に1枚(ワイドサイズ)の割合で掲出しました。地下鉄車内で多くの人の目に触れることに加えて、女子サッカーファンがこれを写真撮影しSNSで拡散しました。

有楽町線の中吊り広告

東京メトロ主要駅とラフォーレ原宿前で動画を上映

東京メトロ主要駅のコンコースに設置したメトロコンコースビジョンへの広告出稿を4月17日まで展開。19駅29エリアで、632面のフルスペックハイビジョン対応液晶ディスプレイに動画を上映しています。

ラフォーレ原宿の斜向かい、明治通りと表参道が交差する神宮交差点に設置されているマイナビビジョンでも動画を上映。マイナビビジョンの視認範囲内歩行者は1日に15万5千人です。22歳までの若い年代の女性層を中心に、通行量の多い交差点でWEリーグの存在を知らしめました。

マイナビビジョン

東北地方でも試合を開催していきたい

ホームゲーム東京開催が発表されると「ホームタウンを大切にしてほしい」「東北地方で、もっと試合を開催してほしい」という声も上がりました。東北地方各所でホームゲームを開催する考えはあるのでしょうか。

「ベガルタ仙台レディース時代も東北地方各所で試合開催を行ってきた実績はありましたが、WEリーグが定めるリーグ戦のスタジアム基準を満たせる会場がなかったという点で、東北地方各所でのリーグ戦の開催を断念したという経緯があります。

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