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なでしこジャパンは育成しながら勝利する ワールドカップ出場決定!池田太監督の柔軟采配

2022 Asian Football Confederation (AFC)

池田太監督は「熱血監督」と呼ばれてきました。監督として優勝したFIFA U-20女子ワールドカップフランス2018では、当時、キャプテンだった南萌華選手が「熱男」と紹介し、そのイメージがサッカー関係者に定着したといわれます。

しかし、今大会の池田監督は極めてクール。記者会見で感情をあらわにすることがありません。大勝が続いたこともあり、終始余裕があり「熱男」のイメージはありません。そして、その采配は冷静で柔軟。選手の個性が伸び伸びと発揮されています。対戦相手とピッチ上の状況に合わせて選手の配置は変化し「自分たちのサッカー」を固定化しません。ただし「奪う」といったキーになるプレーは明確に示してきました。池田監督は、選手とどのようなコミュニケーションをとり、どのような采配で勝ち進んできたのでしょう。記者会見での発言から見てみましょう。

常に労いの言葉から始まる公式会見

「勝利してワールドカップの出場権を獲得することを第一に考えていました。気温が高い中で選手たちはハードワークしてくれました。自分たちがボールを持つ時間を長くして相手の隙を突こうと考えました。」

いつものように静かに、選手たちを労う言葉から、池田太監督の公式会見が始まりました。なでしこジャパン(日本女子代表)は、7−0でタイ女子代表を破り、FIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023の出場権を獲得しました。

コロナ禍の影響で事前合宿が中止となり、コンビネーションを磨く時間をほとんど取れなかったチームは、本大会に入り、中2日で戦いながら強さを増してきました。

池田監督は、暑さの中、選手に守備の強度とトランジション(切り替え)の速さを求めてきました。コンセプトとした「奪う」守備には獰猛さを加えています。初戦では、コースを限定するだけだった最初の守備者のアプローチが、次第に自分で「奪う」迫力を帯びてきました。球際の踏み込む深さが相手に脅威を与えています。池田監督は、大会を通じて「奪う」守備の部分に最も手応えを感じているとのこと。池田監督は、この手応えを「習慣づいてきた」と表現します。

良好な関係が見えた菅澤選手への囁き

タイ女子代表はFIFA女子ワールドカップに2度出場。日本から派遣された岡本三代監督がチームを指揮(この試合は轟奈都子ゴールキーパーコーチが指揮)する力のあるチームです。このチームに隙を与えず大勝し、選手は自信を持つことができたに違いありません。

長野風花選手、隅田凜選手、宮澤ひなたのマイナビ仙台レディース3選手による杜の都トライアングルをつなぎ、グラウンダーのクロスをニアサイドの点で合わせた菅澤優衣香選手の先制点は、実に美しいゴールでした。

試合後の公式記者会見は英語で質問があり、通訳が日本語に訳し、監督、選手が日本語で答え、それを通訳が英語に訳す流れで進められます。そこでちょっとしたハプニングがありました。菅澤選手に「自分より年齢の若い選手についての質問」があり菅澤選手は「自分は評論する立場ではない」前置きをした上で回答しました。その回答を通訳が英語に訳して読み上げているときに池田監督が菅澤選手に「私も若いって言おう」と囁き、菅澤選手が「それは言えません(笑)」と返しました。この声がマイクに拾われてしまい、公式会見に参加したプレスに聞こえてきました。意図せず、このチームの監督と選手の良い関係が伝わってきた一幕でした。

イメージを共有できるように、シンプルに伝えるコミュニケーション 

池田監督の記者会見には無駄がありません。説明はシンプル。言葉は短くわかりやすい。余計なことは発言しません。そして、通訳を介する記者会見のときは、さらに表現がシンプルになります。シチュエーションに合わせた適切なコミュニケーションが、池田監督の魅力なのではないかと筆者は考えました。

では、選手とは、どのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。

「選手がなるべく疑問を持たずにピッチに入れるように、順番や情報量をコーチングスタッフと相談しながらシンプルに伝えようと思っています。短くポイントを絞ります。映像をどのように使用するかも、テクニカルスタッフの協力、準備をしっかりして進められるようにしています。」

この説明の中で使用された「準備」という単語も、池田監督を語る上で重要なキーワード。

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