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WEリーグ、選手、クラブの距離感の正体 1/28 WEリーグ理事会後メディアブリーフィングを終えて

1/28 WEリーグ理事会後メディアブリーフィングがリモートで開催されました。前半はプレシーズンマッチの開催について説明があり、後半はWEリーグの準備状況等に関する質疑応答が行われました。待望のプレシーズンマッチは4月24日から6月5日まで全22試合の開催が発表されました。

ここ数日のこと、急にWEリーグへの苦言や強い意見がネット上に表面化し、サッカー界の中でのWEリーグへの風向きというか風の強さが変わったような印象を受けます。それともう一つ感じるのは参入クラブの足並みが、まだ揃っていないということです。「プロリーグ準備室長」「WEリーグ準備室長」といった新しい部署、肩書きを背負った方がメディアの最前線に飛び出して組織的にWEリーグ開幕の準備をされているクラブ、プロ化を前提として社長を外部から迎え入れ、トップが陣頭指揮しているクラブ……様々です。たかが組織名、たかが部署名と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、そうしたところに、各クラブの取り組みの進捗具合や、WEリーグをどのようなプロジェクトと捉えているかが浮かび上がってきます。

記者会見でも2人の選手の発言が話題になりました

菅澤優衣香選手(浦和)、岩渕真奈選手(I神戸からアストン・ヴィラLFCへ移籍)2人の日本女子代表選手がネットを賑わせました。菅澤優衣香選手のツイート、岩渕真奈選手のインタビュー記事、いずれも、日本の女子サッカーを背負ってきた代表選手として、後輩選手たちにより良い環境を提供したい想いが伝わってきます。

そして、このような意見もあります。スペインで6シーズン目の山本摩也選手(エスパニョール)のツイートです。

山本摩也選手のツイートは選手の権利について触れ「文句じゃなくて議論」を呼びかけています。また、以前に千葉望愛選手(アラベス)にインタビューした筆者は、このように書いています。

スペインの女子サッカーリーグのプロ化と、日本の女子サッカーリーグのプロ化とはベクトルが逆な感じがします。下から選手の力で労働規約(協定)を勝ち取ったスペインに対して「どこか上の方でプロ化が決まって、私たちにとってどのようなプロなのか、具体的にはまだ分からない」という選手の声が聞こえてくる日本という印象を受けます。

こうした声にWEリーグの対応は早く、1/28 WEリーグ理事会後メディアブリーフィングで岡島喜久子チェアは、2021年2月1日から新部署で選手に対応することを明言されました。新設される部署は選手教育・女性活躍理念推進の部署で、研修項目には菅澤優衣香選手のツイートされた税務や契約を含みます。これは選手にとって朗報だと思います。

ひとまず、不安の一部は解消される見込みが立ちましたが、菅澤優衣香選手、岩渕真奈選手、山本摩也選手のような意見が生まれた原因は何なのか? 今後は、どうすれば更に改善できるのか? 更なる改善の日は近いのか? 筆者なりに情報を整理して解説していきます。

原因はコミュニケーションの量なのか?

このような状況が発生した場合に、まず思いつくのは「コミュニケーションが少ないのではないか?」「現場の意見を吸い上げられていないのではないか?」ということです。具体的には「WEリーグ事務局の人は、もっと参入クラブを訪問すべきだ」「選手の意見を聞く場を創るべきだ」ということが考えられます。特に、選手本意で考えた場合、不安や不満を持つ選手たちを救済する方法として的を射るように感じます。

また「WEリーグから選手へのアナウンスが少ないのではないか」という考えも成立します。実際に、一部の選手の声や発信側の声からも「コミュニケーションの量が十分とは言えない」と考えているらしきことが感じられます。

ただ、冷静に考えてみると、ここまでの出来事に疑問も生じます。例えば、WEリーグ参入クラブの多くはJリーグクラブです。ノウハウも知識もあるクラブと選手の間で疑問を解消できることが多いような気がします。同時に、杓子定規に考えると、2月1日以降にならなければ、選手はWEリーグの選手としての契約がスタートしないので、致し方ないとも考えられます。

 Jリーグはなぜ成功したのか組織作りから考える

今回は、モデルケースとしてJリーグの開幕前を振り返ります。1989年(平成元年)は日本女子サッカーリーグ(現・プレナスなでしこリーグ)がスタートした年です。そして、Jリーグ設立に向けて、日本サッカー協会内にプロリーグ準備検討委員会が設置された年でもあります。それまで日本サッカーリーグ(JSL)内に設置されていた「JSL活性化委員会」に代わって日本サッカー協会内に委員会を設置したのは、のちにJリーグ初代チェアマンとなる川淵三郎さんの発案であったと伝えられています。日本サッカー協会内に設置した理由は、それまで日本サッカーリーグ内で「アマとしてできることはやったのか?」「プロ化は時期尚早である」という声を何度も受け続けてきたからです。

Jリーグは「下から作られる組織」

「アマとしてできることはやったのか?」「プロ化は時期尚早である」……何やら、女子サッカー界でも似たような声を何度も聞いたような気がします。そして、2020年に日本サッカー協会内にWEリーグの設立準備室を設置したのも、1989年の(Jリーグ)プロリーグ準備検討委員会の経験を生かしてのことと思われます。ただし、一つ、決定的な違いがあります。それは(Jリーグ)プロリーグ準備検討委員会のメンバーや懇談をしていたメンバーの大半が、日本サッカーリーグに参加する企業の社員だったということです。川淵三郎さん・古河電工、木之本興三さん・古河電工、小倉純二さん・古河電工、森健兒さん・三菱重工業、藤口光紀さん・三菱重工業、佐々木一樹さん・日産自動車、高林敏夫さん・日立製作所……。つまり、設置場所は日本サッカー協会内でしたが、選手に近い、日本サッカーリーグを運営するメンバーがオールスターで集まった「下から作られる組織」だったといえます。

WEリーグは「上から作られる組織」

さて、現在のWEリーグの準備を進める組織はどうでしょう。プレナスなでしこリーグとは離れた位置にあり、多くのメンバーは下からではなく上から集まっている印象の組織です。それに加えて、参入が決定したクラブが、まだ遠い位置にいる印象です。(Jリーグ)プロリーグ準備検討委員会は、日本サッカー協会、リーグ、チーム(企業のちに参入クラブ)が一体になっていた印象がありました。WEリーグの準備で起きている現象は、組織の作り方によるところが大きいと言って良いでしょう。下の模式図をご覧ください。

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