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WEリーグ 岡島喜久子チェアインタビュー後篇 女子サッカーのプロ化は世界の流れ

「女子初のプロリーグの初代代表理事(チェア)に米在住の岡島喜久子氏が就任。」このニュースは、スポーツメディアに限らず、一般紙、経済誌をはじめ、多くのメディアで報じられました。発表された202079日から約3ヶ月が経過。この間、女子サッカー界は新たな取り組みをスタートさせています。

●日本サッカー協会指導者養成事業「Associate-Pro(A-Pro)コーチ養成講習会」
日本サッカー協会とWEリーグが共催
この講習会で取得できる「A-Proライセンス」はS級コーチに準ずる指導者ライセンスです。S級コーチのみならず、「A-Proライセンス」を保有した指導者がWEリーグで監督として指揮を執ることができます。2010914日に「2020/2021年度Associate-ProA-Pro)コーチ養成講習会」が開講。13名が受講しました。

●スポーツ界をけん引する女性役員/経営人材を養成する「女性リーダーシップ・プログラム」
日本サッカー協会とWEリーグが共催
組織での経営人材を志す女性に向けたプログラム。「ジェンダーと自己理解」「マインド改革」「形成リテラシーの獲得」を柱としています。

二つは両輪の働きとなり、女性活躍のための舞台が整えられていきます。

 WEリーグの設立と、こうした取り組みは、どのような関係性があるのでしょうか。今回の岡島チェアのインタビューを通して、少し理解が進むかもしれません。また、この後篇では、米国を生活拠点とし、厳しい金融業界で生きてこられた岡島チェアのご経験と、WEリーグ設立に向けたアツい想いも、読者の皆さんにお届けします。

今回は岡島喜久子チェアインタビューの後篇をお届けします。前篇は、こちらからご覧ください。

一般紙掲載による大きな反響

岡島20年くらい連絡のなかった方、高校の同級生からもたくさんの応援メッセージをいただきました。朝日新聞、日本経済新聞の記事はインパクトが大きかったですね。朝日新聞の記事(岡島喜久子さん 日本初の女子プロサッカー「WEリーグ」の初代チェア)はスポーツ面ではなくて2面(総合)の「ひと」の欄に掲載されたので以前からの知り合いからのコンタクトが一番多かったです。

日本経済新聞には(Jリーグを草創期から取材されている)武智幸徳編集委員がいらっしゃいます。また、私はワシントン支局の記者の方に取材していただき、女性面の「折れないキャリア」で記事を掲載していただきました。私たちはWEリーグをサッカーの面とビジネスの面の両方から見ていただきたいと思っているのでありがたいです。

—2面(総合)の「ひと」(朝日新聞)、女性面の「折れないキャリア」(日本経済新聞)に掲載されるということは、新聞社に「WEリーグのニュースはスポーツの範囲にとどまらない」という意図がありますね。

岡島そうです。私たちは、サッカーそのものだけではなく「日本の女性活躍社会をけん引する」と声高に言っています。「広く女子が活躍する姿を見てほしい」という意図があります。このような記事の掲載は喜ばしいことだと思っています。

SDGs(エスディージーズ)の取り組みとサッカー

日経大丸有エリアSDGsフェスが2020831日〜95日まで開催されました(大丸有とは「大手町」「丸の内」「有楽町」のこと)。6日間のプログラムのうち94日は日経 ウーマンエンパワーメントプロジェクト『ジェンダーギャップ会議』~多様性のある組織が勝つ! 女性リーダーを増やす企業の戦略~。8名の登壇者の最後、大トリを飾ったのが岡島チェアでした。

講演テーマは「なでしこの日本と、赤いひまわりのアメリカ」

簡単に岡島チェアの講演内容をご紹介します。米国の証券会社で、岡島チェアが経験されてきたジェンダーギャップ(男女の不平等)の問題点や解決法について具体例を挙げて説明。その上で、WEリーグの理念、ビジョン、意義を提示し「WEリーグは、女子サッカーの枠を越えて日本の女性全体の活躍を進めていくことを目指している。」「日本の社会全体が、ジェンダーフリーでみんなが輝けるようになることを目指している。」と力説されました。最後に、岡島チェアから参加者に2つのお願いをしてまとめた濃厚な30分間の講演でした。そのお願いとは「スポーツには感動や元気を与える力がある。ぜひ、皆さんにスポーツで元気になってほしい。」「ぜひ2021年はWEリーグを見に来てほしい。」。

イベントタイトルに含まれるSDGsについても、少し触れておきましょう。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」。持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。目標5は「ジェンダー平等を実現しよう」。目標10は「人や国の不平等をなくそう」です。

SDGs17目標リスト

 

行政(自治体)、企業、団体が、それぞれからSDGs達成を目標に活動しています。例えば、ラグビーワールドカップの会場となった岩手県釜石市はいち早くSDGsに取り組み、持続可能な観光の実現を目指しました。釜石市は国際基準GSTCに日本の自治体では初めて認証され、SDGsの国内最先端都市として国内外から注目を集めています。人口は3万人。全国的に有名な観光地があるわけではない三陸の小さな自治体が、SDGsにより観光の世界でトップランナーとなって活動しているのです。

日本サッカー協会は2009年に国連グローバル・コンパクトへ世界で初めて登録されたスポーツ統括団体です。SDGsの達成に、スポーツを通じて貢献していきたいと考え、以前から活動を続けて来ました。日本サッカー協会は2019910日に「JFA SDGs推進チーム」設置を発表しました。

 

—どのような経緯で、今回の講演は実現したのでしょうか?

岡島日本経済新聞社 常務執行役員の塩崎祐子さん、日経xwoman総編集長の羽生祥子さんとお話しする機会があり、今回のお話をいただきました。

—私は、主催者から岡島チェアへのご期待が大きかったのではないかと思いました。なぜなら、そうそうたる顔ぶれの方がお話しされる中での大トリで登場。これは凄いことだなと思いました。

岡島大和証券グループ、千葉銀行、花王、アフラック生命保険、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス・・・経営者、役員が登壇されました。このようなイベントですので、事前に参加者がどのような方で、私に何を望んでいらっしゃるのかを主催者にお聞きしました。「米国の経験をお話ししてほしい」「スポーツの話をしてほしい」とのことでした。参加者は男女が半々くらい、経営者・役員が25%くらいでしたので経営に近い方をイメージしてお話ししました。

来年、再来年・・・もしかして、パートナー(WEリーグのスポンサー)になってくださる企業の方がいらっしゃるかもしれない。ですから、講演の最後に「一度、試合を見に来てください」と、どうしても言いたかったです。

—2020910日に「SDGs達成に向けた取り組みを推進『環境に優しいことを示すオリジナルマーク』の制定と『女性リーダーシップ・プログラム』開講」が一緒に日本サッカー協会から発表されました。「女性リーダーシッププログラム」について教えてください。

SDGs達成に向けた取り組みを推進『環境に優しいことを示すオリジナルマーク』

岡島女性リーダーシッププログラムは日本サッカー協会とWEリーグが共催で取り組みます。女性のリーダーを育成していくプロジェクトです。例えば、Jリーグでは女性の経営者は1人です(20209月現在、V・ファーレン長崎 髙田春奈社長)。女子サッカーのクラブでも、女性の経営者やフロントオフィスの女性リーダーが台頭できるように変えていかなければならないと日本サッカー協会は考えていました。WEリーグは「運営にあたる法人を構成する役職員の50%以上を女性とする」「意思決定に関わる者のうち、少なくとも1人は女性とすること。(取締役以上が望ましい)」と定めました。そして、これまでの、女子サッカー選手の中には「指導者にならないと仕事が見つからない」という人もいました。女性リーダーを育成し、WEリーグクラブに女性の仕事が増えることは、選手の引退後の仕事の提供にもつながります。

 

「女性リーダーシップ・プログラム」

目的:サッカー界、スポーツ界をけん引する女性役員/経営人材を養成する
主催:日本サッカー協会、日本女子プロサッカーリーグ
受講資格:次の事項のいずれかを満たし、今後、組織での経営人材を志す女性
19地域/4都道府県サッカー協会において、副会長以上の役職に就く者
2WEリーグ参入予定クラブの経営人材候補者
3)その他、サッカーおよびスポーツ関連団体における経営人材候補者
内容:「ジェンダーと自己理解」「マインド改革」「形成リテラシーの獲得」を柱とし、研修や課題、オンライン講座等でプログラムを実施する

 

SDGsの問題提起をWEリーグが行っていくことに意義がある

岡島東日本大震災で社会が暗く沈んでいたときに、なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップ2011ドイツ大会に優勝したニュースで元気になれましたよね、スポーツには力があります。私は「WEリーグが光の当たる楽しい場所」となり、その「光が暗い場所に分けられていく」イメージをしています。SDGsはわかりにくい、でも、日本にとって、とても大切だと思います。日本には資源が豊富にあるわけではない、GAFA(グーグル、アップル、 フェイスブック、アマゾン)のようなIT巨大企業があるわけではないですが、SDGsを推進する立場から世界に大きく貢献していくことができると思います。

—スポーツの持っている寛容性や尊厳の促進が上手にミックスしていくと、女子スポーツがSDGsに取り組む意義が出てきますね。

岡島私は「困難な立場にいる女性を助けたい」という意識を選手に持ってほしいと思っています。SDGs17目標リストの1番目は「貧困をなくす」です。日本ではシングルマザー等の貧困女性が目につかないように感じます。実際には存在するけれど光が当たらない人たちに光が当たるようにしたいです。そのためには、光が当たっているスポーツ選手が(自分の)光を分けてあげるような形にできないかなと思っています。例えば「今日はシングルマザーの問題を考える日」と決める。光が当たると多くの方が問題を認識してくださる。だって、なかなか聞く機会がないですよね、日本に貧困女性がいるということを意識するようなお話。

 

日本のシングルマザー(母子家庭)の貧困率は5割を越え、就労による収入は平均181万円です。これは子どもがいる他の世帯に比べて400万円低く、その5割以上が非正規雇用。仕事を掛け持ちして暮らしている人も少なくありません。

NHK「子どもクライシス」より https://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/2700/186798.html

スポーツでもっと楽しく、社会に光を

国連サミットで採択された「持続可能な発展のための2030アジェンダ」には、このように書かれています。

「スポーツも持続可能な発展にとって重要です。我々は、寛容やリスペクトを促進し、女性や若者のエンパワーメントや個人、コミュニティーに寄与するスポーツの貢献が、健康や教育、社会的包摂の目標と同様に、発展と平和の具現化に寄与すると認識しています。」

誰もが自由にスポーツを楽しみ、健康でいることができる環境が整うことで、この社会はもっと楽しく、もっと暮らしやすくなります。WEリーグが生まれ、女子サッカー選手が女の子たちの憧れの対象となることで、この社会は変わるかもしれません。

ただ気になるのはCOVID-19(新型コロナウイウルス感染症)の行く末です。2020プレナスなでしこリーグ1部、2020プレナスなでしこリーグ2部、2020プレナスチャレンジリーグでは、各リーグ第3節以降にお客様をお迎えして開催できるようになりました。しかし、入場者数は最大でも開放する観客席の50%までとする等「日本女子サッカーリーグ 新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」に基づく、制限付きの試合開催をしています(20209月末現在)。

WEリーグは世界の流れに乗ってスタートできる

—20219月にWEリーグ開幕が予定されています。コロナ禍のスタートでハンディキャップがあるタイミングとなった感じがしますが、いかがですか?

岡島開幕が1年遅れると、例えば、なでしこジャパンの強化にも影響が出てきます。FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会のベスト8に残ったチームは米国女子代表を除くと、いずれも欧州勢。その多くはプロ化を進めています。WEリーグのスタートが1年間遅れ(先送りになる)ると、欧州勢と力の差が広がってしまう。日本サッカー協会全体で20219月にWEリーグ開幕を決定したのは当然だと思います。

以前の女子のスポーツは「second-class citizen(差別を受けている人々の意味)」の位置づけでしたが、今はFIFAが(男女の平等を)推進している。その後押しを受けて欧州各国で女子プロリーグが誕生してきています。その流れが日本にやってきました。流れに逆らうとリスクがあると思いますが、今は世界的な流れに乗っています。ですから、WEリーグ(女子サッカーのプロ化)が上手くいくと確信しています。

—「一緒に船に乗り込んで世界の流れに乗りましょう」という1年間ですね。本日はありがとうございました。

(インタビュー:2020915日 石井和裕)

――

いかがでしたか。岡島チェアのインタビューを前篇・後篇に分けてお届けしました。前篇の最初に書いたように岡島チェアには2つの顔があるように感じます。一つは日本の女子サッカー創世記にいち早くプレーされた「元選手の顔」。そしてもう一つは米国で活躍されている「ビジネスパーソンの顔」です。この後篇では、主に「ビジネスパーソンの顔」を感じさせるSDGsへの取り組みや、日本経済新聞をはじめとする一般紙掲載について、お聞きしたお話を紹介しました。SDGsへの取り組み等で、もしかすると、中には「WEリーグ・・・ちょっと小難しいぞ」と感じていた方もいらっしゃるかもしれません。でも、ご安心ください。

岡島最後に、どうしても言っておきたいことがあります。「さよなら私のクラマー(月刊少年マガジンコミックス)」が20214月に映画化とTVアニメ化をします。作者の新川直司先生には、ぜひ、登場人物が成長してWEリーグの選手になった姿を描いてほしいと思っています。ぜひ、WEリーグとコラボしてほしいと、私は思っています!

やはり岡島チェアは元選手。熱をこめて「さよなら私のクラマー」へのリクエストを語っていただきインタビューは終了しました。

岡島チェアは選手として、ビジネスパーソンとして、多くの経験をされてきました。今回のインタビューは約1時間。表現の随所からリアリズムを感じました。しかし、それ以上に、ZOOMの画面から伝わってきたのは、岡島チェアの持つ熱量でした。岡島チェアが女子サッカーを愛する想いは、これから徐々にサッカーファミリーに伝播していくと思います。

いよいよ、女子サッカー界は大きく動きます。岡島チェアの想いは確かな具体策となってWEリーグに反映され、20219月の開幕を迎えるはずです。さあ、読者の皆さん、日本の女子サッカー史に残る歴史的な船出です。プロ化の大海を渡り、水平線の向こうの、まだ見ぬ世界を、皆で目指そうではありませんか。

#女子サカマガでは、これから、20219月のWEリーグ開幕に向け、サッカーファミリーに必要な情報を共有してきます。お楽しみに。

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