西部謙司 フットボール・ラボ

教養としてのW杯。Jクラブの手本になりうるのはアルゼンチンでもクロアチアでもなく……

白熱した戦いが繰り広げられたワールドカップ。Jリーグ視点で見た場合、戦術的に参考になりそうな代表チームはどこだったのか?

イニエスタ擁するヴィッセル神戸はアルゼンチンになれるか? 

カタールワールドカップはアルゼンチンの優勝となりました。今回はワールドカップにおける代表チームからみたJ1クラブという視点で考えてみたいと思います。

まずは優勝のアルゼンチン。35歳のベテラン、リオネル・メッシを全員で押し立てていくスタイルでした。メッシがチームを牽引するのと同時に、メッシにトロフィーを獲らせてあげたいということでチームと国が団結していたという稀有なケースになりました。

ヴィッセル神戸とアンドレス・イニエスタの関係がこれに近いかなと思います。

イニエスタはメッシと同じく図抜けた技術と攻撃力を持っていますが、年齢的にピークを越えているので運動量は極端に少ないです。こういう選手をどう使うかというと、アルゼンチンみたいにトップに置くしかないでしょうね。1トップは無理なので、基本的には2トップでしょう。前線からポジションを下げてしまうと守備に穴ができちゃいますから、守備の勘定には入れない方針になります。

このアルゼンチン方式でのポイントは、イニエスタ以外のフィールドプレーヤー9人になります。めちゃめちゃハードワークが要求されます。守備のシステムは実質4-4-1ですから、前からのプレスはまずできません。どうしても引き込んで守る形にならざるをえない。そこでまず頑張ってボールを奪う作業がある。そして奪ったボールは皆で敵陣へ運んでイニエスタ(メッシ)に渡さなければなりません。実質1人少ない状態で互角に戦わなければならないから大変です。アルゼンチン優勝のヒーローはメッシですが、1人少なくても戦えるチームになっていたことが真の勝因でしょう。

神戸は「バルサ化」を掲げてきたわけですが、今にして思えばそれは無理な目標だったかもしれません。だってイニエスタがいたらできないですよ。9人はハードワーカーになりますから。唯一、シャビ、イニエスタ、ブスケツ、メッシがいたころのバルサのように圧倒的にボール保持する以外にはない。7~8割は保持していて、ほぼ守備がない状態でプレーするしかありません。神戸がイニエスタを獲った時点で、最上級のバルサかアルゼンチンかという選択しかなかったということです。

神戸にとって難題なのは、ワールドカップと違ってJリーグは長期戦ということ。イニエスタありきでチームを作っても、イニエスタがフル稼働するとは考えられないわけで。仮にワールドカップが年間の総当たり戦だったとしたら、たとえメッシがフル稼働したとしてもたぶんアルゼンチンは優勝していないと思います。一発勝負だからあの集中力と献身性が出るわけで、緒戦はサウジアラビアに負けていますからね。

イニエスタありきで考えると神戸はアルゼンチンになるしかないのですが、そうなったとしても長期のリーグ戦向きではないという問題が出てきてしまうのは頭の痛いところです。

川崎フロンターレ、柏レイソル、鹿島アントラーズ、ガンバ大阪、セレッソ大阪あたりはモロッコ型が参考になる理由 

アルゼンチンはメッシ+10人というかなり特殊なチームでしたが、準優勝のフランスもキリアン・エンバペを擁して、エンバペありきのスタイルではありました。左右が非対称で右のウスマン・デンベレは守備ラインに入りますが、左のエンバペは前残りします。エンバペとオリビエ・ジルーが前残りなので、そのぶんはアントワーヌ・グリーズマンが守備面を補うパッチワークでした。エンバペという特殊兵器がありますから、それを生かすことを前提にチームを組み立てているのはアルゼンチンと同じでやはり特殊なケースといえるでしょう。

クロアチアはモドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチのMF三傑の存在が大きく、チームの形として特殊性はありませんがこれも簡単に真似できるものではないです。

ベスト4では唯一、モロッコが汎用性高いのかなと思いました。

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