サッカー番長 杉山茂樹が行く

久保建英。トップ下より右ウイングの方が「ファンタジスタ」に見えるという現実

写真:Shigeki SUGIYAMA

 チャンピオンズリーグ(CL)、ヨーロッパリーグ(EL)を軸とする欧州サッカーを眺めていると、ウイングの時代を迎えていることを実感する。サイドアタッカーがウイングバックのみの、5バックになりやすい3バックが占める割合は全体の3割弱。サイドアタッカーを両サイドに各2人、置いて戦うチームは7割強を占める。その中で目に止まるのは、サイドバック(SB)ではないサイドアタッカーが、サイドハーフと言うよりウイング然と構えるケースだ。

 

 日本のメディアは41の3の両サイドをサイドハーフと称する傾向が強いが、実際はウイングと言った方が適切なケースが多い。そのドリブル&フェイントあるいは折り返しが、試合を動かす直接的な要素になるケースも同様に顕著となっている。

 

 最強のウイングを競うコンテスト。CL、ELではそう言いたくなるほど多種多様な個性的ウイングが存在感を輝かせている。

 

 その一方で、いわゆるゲームメーカータイプの中盤選手は数を減らしている。司令塔と言う表現がよく似合う攻撃的MF。10番、トップ下、ファンタジスタ……などとも言われた選手たちである。

 

 アンドレス・イニエスタはその代表格の選手になる。同じ時期、バルサの中盤を構成したチャビ・エルナンデス、セスク・ファブレガス、デコなどもそのタイプに含まれるが、当時、スペイン界隈にはその手の選手がゴロゴロしていた。リオネル・メッシもアルゼンチン代表に戻れば、10番然と構えたものだが、筆頭格は、同じくアルゼンチン代表でビジャレアルをCL準決勝まで導いたロマン・リケルメだろう。コロンビアの怪人、バルデラマの流れを汲む、いまとなっては古典的と言うべき選手である。

 

 小野伸二、中村俊輔、中田英寿、名波浩、藤田俊哉、遠藤保仁、中村憲剛……日本にも名の知れた選手が枚挙にいとまがないほどずらりと並ぶ。

 彼らの居場所がなくなった理由はプレッシングの流れが加速したことと大きな関係がある。かつてはトップ下と言えば1トップ下ではなく2トップ下だった。32、中盤ダイヤモンド型42の2トップ下こそが彼らのベストポジションだった。日本で流行っていたブラジル式の42では2トップ下は2人いたことになるが、これらは時代の流れに逆行する高い位置からプレスを掛けて行きにくい布陣として知られる。

 

 41にも居場所は見つけにくくなっている。相手ボールに転じると42あるいは24に変容して対峙するため、41の1トップ下もゲームメーカー然と構えるわけにはいかなくなった。相手ボールに転じると、1トップと並ぶように高いポジションを取る。MFと言うよりFW的に構えることになった。

 

 43ではインサイドハーフが最適解になるが、このポジションは逆に以前より中盤化している。攻撃的MFと言うより攻守が5050の関係にある中盤フラット型42のセンターハーフに近い役割になっている。マイボールに転じると両SBが高い位置を取り、その分、守備的MF(アンカー)が両CBの間まで降りるスタイルが一般化したことと、それは深く連動している。

 

 デニス・ベルカンプ、アレッサンドロ・デルピエーロがFW化した走りの10番で、フランチェスコ・トッティは下がり目のCF=0トップで構える先進的な選手として話題を集めた。

 

 中盤で増えているのはセンターハーフ系のオールラウンダーだ。イングランド代表のかつての名センターハーフといえば、スティーブン・ジェラード、フランク・ランパードを想起するが、彼らは43に落とし込むならアンカーと言うよりインサイドハーフだろう。

 

 イングランド代表の有望株、ジュード・ベリンガムは今季移籍したレアル・マドリードで、MFと言うよりトッティ的な0トップで構える時間が長い。

 

 マンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデスは、41なら、その1トップ下を定位置にするが、3の左右もこなせば、その下もこなす。先のリバプール戦ではポジション移動を繰り返し、終盤は最終ラインでプレーする、オールラウンダーぶりをいかんなく発揮した。

 

 バルセロナのフランキー・デヨングも高い位置から低い位置まで幅広くこなすセンターハーフ的な選手だ。同じくバルサに所属するペドリは言うならば攻撃的MFだ。イニエスタ、チャビ型の選手である。現代にあっては逆に貴重な存在に見えるほどだ。しかしポジションの最適解はどこなのか、43の布陣の中で見えにくくなっている。43のインサイドハーフでプレーする機会より、左ウイングでプレーする機会の方が多いのは、守備力を考えてのものだが、左ウイングを任されると居心地が悪いのか、適性から外れるからか、内に寄って構えてしまう。対峙する相手の右SBにプレスが掛かりにくい状態になる。穴が生じる結果となっている。

 

 アジアカップ第2戦、対イラク戦に南野拓実が左ウイングで先発した時と同じ傾向に陥った。かつての香川真司も全く同じだった。左ウイングを任されてもポジションを守ることができなかった。内で構えてしまったため、相手ボールに転じた際、穴を作ることになった。

 

 荒木遼太郎も同様な癖を持つ。今季、FC東京に移籍し41の1トップ下として活躍しているが、それまでは最適なポジションを見つけられずにいた。サイドには適性がない。43のインサイドハーフも難しそう。41の1トップ下としてはアタック能力に欠けると見ていたが、今季はそこでゴールを量産している。FW化しつつあると言えるのかも知れない。FW同然のポジションとなった1トップ下で、このまま一皮向けたプレーを見せ続けることができるのか。

 

 もう1人注視したい選手は久保建英だ。適性は右ウイングにあることは今季のレアル・ソシエダのプレーを見れば一目瞭然だ。しかし日本代表では最近、1トップ下で起用される機会が目立つ。右ウイングに伊東純也、堂安律など人材が多くいることが1番の原因だが、久保はかつてテレビのインタビューに「一番好きなのは真ん中だ」と答えていた。

 

 41に落とし込めばそれは1トップ下になる。代表での現在のポジションと重なるが、左利きがキツいため、真ん中だと相手に動きを読まれやすい傾向がある。プレーする位置も41の1トップ下にしては低くなる。いわゆる攻撃的MF化する。古いタイプの10番に見える。

 

 レアル・ソシエダではウイングの時代に相応しいプレーを披露しているにもかかわらず、日本代表では半ば司令塔然とプレーする。ファンタジスタと言うイタリア語は、かつては2トップ下付近で構える技巧的なゲームメーカーを指した。だが、いまやドリブル&フェイントから切れ味鋭い折り返しを披露するウイングプレーにこそフィットする言葉に聞こえる。

 

 ウイングがファンタジスタと化すいま、日本に戻ると旧式のファンタジスタに変身しようとする久保。時代に逆行する姿に見えて仕方がない。1トップ下より右ウイングの方が真のファンタジスタに見える現実に、久保もベンチも気付くべきである。

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