【短期集中連載】2021年サガン鳥栖のサッカー その3 攻撃の基本
2021年、鳥栖はなぜ7位という成績を残すことが出来たのか。それは鳥栖の戦術が有効だったからに他なりません。金明輝前監督がどのように戦っていたか、分析しておくことは今後につながると思います。
鳥栖には大物外国籍ストライカーがいたわけではありません。選手の特長を見極めながらポジションを変え、システムと考え方を練り上げることで点を奪っていましたが、ややもすると攻撃がスピード不足になってしまうボールをつなぐスタイルでした。それでもリーグ11位の得点を挙げたのは、いくつものパターンを選手が理解し、しっかりと実行していったことが理由と言えるでしょう。
それではどんなパターンを持っていたか。守備ライン深くでボールを持ったときからフィニッシュまでのよく見られたパターンを検証することで金監督の狙いが明らかになります。
※第4回(最終回)は18日11:00に公開の予定です。
【攻撃のベースは『弱点を逆手に取った攻め』】
2021年の鳥栖の攻撃は不思議な特徴を持っていました。左サイドでボールを握っているように見えて、その実攻撃回数は右の方が多かったのです。今回は鳥栖がどのように攻めていたかについての分析になります。
もし鳥栖に、縦の長いパスを出せる選手がいたらきっと攻撃の形は違っていたでしょう。ですが別の特長を持つ選手が多かったことと、足下の技術に優れたGKがいたので、それを生かす攻めに変えていました。
まず、相手が4バックのとき、鳥栖の守備ラインがボールを持つと、最初はこういう形になります。
そこから後期型の鳥栖は片方のセンターバックを上げ逆サイドのサイドハーフを下げて4バックの形になり、さらにサイドハーフが中央に移動してボランチを2枚にします。そして両サイドバックはやや高めの位置を取ります。
もしこの時点のセンターバックから、たとえば両アウトサイドへの長くて正確なパスが出てくるのなら相手はきっとサイドをもっと締めてくるでしょう。ところがそうではないので、両センターバックにどんどんプレスをかけてきます。
ところがこれが誘い水でした。足下の技術があり、運動量も豊富なGKがいるのでGKまで使って守備ラインの数的優位性を保ちます。4バックに見せかけて、GKまで入れた3バックを形成していました。そのため、相手は一度引かざるを得ません。これで鳥栖は落ち着いてもう一度やり直すことが出来ます。もっともここまでは朴一圭の存在があれば、当然相手も分かっていたと思います。
(ケース1)
それでもしつこく守備ラインでボールを回している間に、相手FWがつい片方に寄ってしまうことがあります。そんなときは素早く空いたほうのCBにパスをします。
するとそのボールが入るタイミングで3人の選手が浮いたスペースに走り込み、パスコースを作ってボールを前に運び、次のステップに進みます。
(ケース2)
相手FWがなかなかタイトに守備をしてくるとき、鳥栖は2人のボランチを一度に低い位置まで下げていました。1人を下げるだけなら相手の中盤が1人だけくっついてくればいいのですが、2人も下がることで、相手MFは自分たちが上がってスペースが出来ることを恐れついてこれません。もしもついてきたときは、鳥栖はそのままFWにボールを入れ、収めさせればよくなります。
そしてここでボランチにパスが入った瞬間の少し前に2人または3人の選手がパスコースを作る動きを始めていました。
つまりこのやり方がチームとして共通理解だったのだと思います。
(フィニッシュの考え方)
ミドルサードではできる限り手間を掛けずにアタッキングサードを目指し、鳥栖がよく作る形はこうなっていました。鳥栖は左サイドに偏りを作り、特にペナルティエリアの左外の場所を何度も狙います。この図でもボール保持者はそのエリアに対してのパスを何度も通しました。そのため、一見すると鳥栖の攻めは左が多いような印象になります。
ところが、そこで偏りを作ったことで右サイドにスペースが生まれます。左を何度もしつこく狙いつつ、そしてそこが攻略できればそのままゴールに迫るのと同時に、鳥栖は右サイドに出来るスペースを生かそうとしていました。そのため、ボール保持者は常に左右のどちらでも狙えるようなボールの持ち方をして、なおかつ右サイドの選手は穴が出来たときにその場所を使うことを意識していました。
当然フリーな選手は右サイドのほうが出来やすく、そのため鳥栖は左で攻撃をし続けているように見えながら、その実、右からの攻撃が多いというデータが残るようになります。
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