地方創生の切り札になるスポーツ「行政×女子サッカー(+世田谷)」 3年後のなでしこリーグ2部入りを目指すスフィーダ備後府中
広島県府中市は広島県の南東部に位置し福山市のベッドタウンの役割も担っています。かつては備後国を治める国府があり、神社や道路、地割など、今もなお当時の名残が息づき、石州街道出口通りには、まるでタイムスリップしたかのような街並みも残されています。
そんな山間の街から、女子サッカーのニュースが届きました。府中市と一般社団法人備後府中スポーツクラブ及び特定非営利活動法人スフィーダ(なでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCを運営)は、2022年2月18日にスポーツによるまちづくりを目的として連携協力協定を締結したのです。
同時に発足した、一般社団法人備後府中スポーツクラブが運営する女子サッカーチーム・スフィーダ備後府中FCは3年後のなでしこリーグ2部入りを目指して始動しました。特定非営利活動法人スフィーダはこれに協力していきます。
2つの女子サッカークラブと1つの行政
世田谷区と府中市(といっても東京都の府中市ではない)の取り合わせに、筆者は興味が湧きました。2つのクラブは府中市で何をしていくのでしょう。そして府中市は2つの女子サッカークラブに何を期待しているのでしょう。
府中市はスフィーダ備後府中FCの活動展開やサッカーをはじめとするスポーツを通じて、地域の賑わいや市民の健康増進、子どもの健全育成などの各分野で相互に協力し、協働した取組などを行なっていくと発表しました。スポーツ分野を中心とした連携協力に関する協定は、府中市にとって初めての取り組みです。
少子高齢化が進む地方都市ならではの連携協力協定
人口減少は府中市にとって深刻な問題です。府中市長の小野申人さんは、人を集め、賑わいを生み出し、地域づくりに活きるスポーツの持つ力を高く評価しています。東京2020大会のパラリンピックメキシコ選手団の事前合宿を受け入れ、市内でのマラソン大会を10数年ぶりに復活しました。市民プール・芝生グラウンドなどスポーツ施設の充実などを通じて、スポーツを活用した地域の賑わいづくりを積極的に進めています。
さらに、府中市はサンフレッチェ広島とも連携協定を結びました。スポーツを活用した地域のにぎわい創出や市民の健康づくりなどに取り組むものです。今後、市内でサッカー教室を開催するほか、選手との交流会、試合観戦などのイベントを開くとしています。サンフレッチェ広島が広島県内の自治体と地方創生に関する協定を結ぶのは初めてのことです。
「選ばれる府中市」の切り札になるスポーツ
一般社団法人備後府中スポーツクラブ及び特定非営利活動法人スフィーダとの協定を進めたのは府中市総務部地域振興課「選ばれる府中市」推進チーム。定住推進施策とスポーツ・文化振興を担当している部署です。
連携事業の内容として4項目が挙げられています。
1.「スフィーダ備後府中」を通じたスポーツの振興に関すること
2.「スフィーダ備後府中」を通じた市民の健康増進、子どもの健全育成に関すること
3.「スフィーダ備後府中」を通じたシティプロモーションに関すること
4.その他、地方創生の推進に関すること
少し具体的に説明すると、府中市は女子サッカーの環境整備等の支援をすることで「市民の機運醸成」や「選手・指導者の交流による移住促進」、そして市内での雇用創出を目指していきます。府中市に、なでしこリーグを目指す女子サッカーチームがあることが、他の自治体との違いを生み出し、人を集め、誇りを育て「選ばれる府中市」を後押しするという考えです。
選手たちが府中市に帰ってくる場所を作る
では、女子サッカーチーム側の考えはどうでしょう。今回はスフィーダ備後府中FCの監督と一般社団法人備後府中スポーツクラブの理事を務める森岡博昭さんに、お話をお聞きしました。森岡さんのお話から、何が府中市を動かしたのか、分かるかもしれません。
森岡さんは19歳のときに、FIFAワールドカップUSA1994開催直前のアメリカに渡り大学へ進学。アジア、北米、南米、多種多様なルーツを持つ学生が集まるサッカーチームのキャプテンを務めました。そのとき、初めて女子サッカー選手を見たのだそうです。
府中市に帰った森岡さんは母校の小学校チームで指導。その後、府中市で女子チームを立ち上げる話が持ち上がり、そちらも指導することに。女子サッカーとの関わりが生まれました。
森岡さんは2019年に備後府中サッカー協会の一般社団法人化に尽力。体制づくりを行い、続いて、以前から活動しているサッカーチームを母体に一般社団法人備後府中スポーツクラブを設立しました。次世代のプレーヤーがサッカーを楽しめる環境を着々と整えています。
森岡さんは、スフィーダ備後府中の設立意義について、このように言います。
「府中市は、育てた選手を他の地域に出している地域でした。僕は15年間、ここで指導して『選手が帰ってくる場所がない』ことに気がつきました。今回の一般社団法人化と新チーム設立は、選手たちが府中市に帰ってくる場所づくりです。」
人口減少の時代に府中市に若い世代が帰ってくる……それが、府中市にとっても森岡さんにとっても重要なポイントであることは間違えありません。
森岡—僕は、地方と関東のギャップを埋めたいと思っています。僕は、初めて関東でプレーしたときに、これまでが「井の中の蛙」だったことに気がつきました。関東の選手たちを見て、これまで自分が地方で「お山の大将」をやっていたことが解りました。こうしたギャップを埋めていきたいです。
—府中市でプレーしている選手にも、試合を通じて違う世界を伝えてあげたいですね。府中市上下町にある上下多目的運動場の人工芝グラウンド化を府中市が行うことが決まりましたね。
森岡—実は「市のグラウンドの土地を借りて一般社団法人備後府中サッカー協会の理事である僕たちが借金をしてでも人工芝のグラウンドを作る」と意気込んでいました。その熱意は府中市に伝わったかもしれません。最終的には、府中市が予算を組んでくれて人工芝グラウンド化が実現しました。
それから、協力者がたくさん集まりました。選手も協力してくれました。以前に僕の指導した選手の保護者が何名か一般社団法人備後府中スポーツクラブの理事になってくださいました。
「地元に応援できるチームが生まれた」と言ってくださる人がいます。これまでは、地元チームがある他の地域を羨ましいと思ったことがあったのだそうです。府中市には大学もないので、応援できるチームがなかったのです。
府中市で世田谷を意識して挑戦を続けたい
—1年目の目標をどこに置いていますか?
森岡—広島県女子サッカーリーグの優勝を目標にしています。同時に、来シーズン以降のことを考えて選手をピックアップする年にもなります。そして、育成年代の選手を中心に関東のチームとの交流もしようと考えています。
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