WE Love 女子サッカーマガジン

WEリーグ空白地帯・中京圏から見える課題と未来 スポーツライター/カメラマン 山田智子さんインタビュー

2021年9月21日にWEリーグが開幕しました。10時1分にキックオフされたノエビアスタジアム神戸での開幕戦(I神戸―大宮V)、13時30分にキックオフされた味の素フィールド西が丘での試合(東京NB―浦和)はテレビで生中継されました。しかし、それぞれ、関西ローカル、関東ローカルでの放送。全国放送はありませんでした……というよりも、日本全国の中でごく一部の地域だけでWEリーグのテレビ放送が行われているのが現実です(ダゾーンにより全国どこからでも試合を見ることは出来ますが)。

首都圏、関西圏に次ぐ、第3の経済圏である中京圏にはWEリーグチームがありません。ですから、日本有数の大都市といえる名古屋市でも開幕戦のテレビ放送はありませんでした。テレビ放送がなく、チームのホームタウンになっていない地域から眺めるWEリーグは、どのように見えるのでしょうか。今回は、中京圏で活躍する、スポーツライターでカメラマンの山田智子さんに、お話をお聞きしました。

山田智子さん 提供:山田智子さん 

FIFA女子ワールドカップ ドイツ2011に帯同経験を持つ山田さん

山田さんと女子サッカーの関わりは2003年頃に始まりました。伊賀市で女子サッカーチームが活動していることを知り、練習や試合の写真撮影に通ったのです。当時の伊賀FCくノ一(現・伊賀FCくノ一三重)は、なでしこリーグ上位争いの実力を持ち、宮本ともみさんら日本女子代表選手が活躍していました。

山田さんは、2010年から日本サッカー協会に勤務し、FIFA女子ワールドカップ ドイツ2011にスタッフとして帯同。事前合宿から優勝までの軌跡を動画コンテンツ『JFA TV』で発信しました。

日本サッカー協会を退職後、山田さんは拠点を中京圏に戻し、スポーツライター・カメラマンとして活動。サッカー、バスケットボールを中心に取材し、スポーツグラフィック誌『Stanndard愛知』、あいちのスポーツリージョナルマガジン『aispo!』、『名駅経済新聞』等で執筆しています。

名古屋市の中心街

伊賀FCくノ一三重が優勝しても、WEリーグが開幕しても、話題になりにくい中京圏のメディア事情

山田伊賀FCくノ一三重が2021プレナスなでしこリーグ1部を優勝しましたが、大きな話題にはなりませんでした。三重県内のメディアやケーブルテレビは、これを報じてくださっています。しかし、東海エリアの、いわゆる準キー局といわれるテレビ局、新聞社の本社は名古屋市にあります。なかなか伊賀市までコンスタントに取材に動いていただけないことが要因としてあると思います。

中京圏特有のもどかしさがありますね。中京圏は大きな経済圏なので、どうしても話題が名古屋中心になってしまいます。名古屋市よりも近畿地方と関係が深い伊賀市の地理的な特徴もあり中京圏全体の話題として伊賀FCくノ一三重の優勝をとり上げていただきにくいように感じます。

山田ニュースの取り扱いの偏りは、どうしても出てしまいますね。

—WEリーグチームがない中京圏で、WEリーグは、どのように話題になっているのでしょうか?

山田中京圏のマスメディアからは、WEリーグの情報がほとんど伝わってこないのが実情です。試合結果の報道も目立ちません。SNSでは中京圏の女子サッカーファンの方たちがWEリーグを話題にはしていましたが、それ以外の多くの方はWEリーグが開幕したことすらご存知ないと思います。中京圏に一つでもチームがあれば、もしくは中京圏で開幕戦の放送があれば、状況は違ったのかもしれません。少し寂しいですね。

東京でも、東京中日スポーツは、スポーツ新聞の中で最も記事の面積が小さかったですね。 

山田新聞社の記者は限られた人数で中京圏のあらゆる競技をカバーしています。ほとんどのスポーツは開催日が土日に集中するので、やはり記者が取材したいと思う魅力や話題性が必要になります。

地域で試合が開催されていない、テレビ放送もないとなると、番組や記事で取り扱ったとしても、視聴者(読者)がスタジアムに見に行くといった次のアクションを起こせないのがネックになりますね。

NGUラブリッジ名古屋が牽引し、発展を続ける愛知県の女子サッカー

—WEリーグのチームがない中京圏の女子サッカーは?

山田愛知県に関しては、先ほどお話した通り他県に比べてメディアが多いという強みがあります。2014年に『Stanndard愛知』という愛知県のスポーツを取り上げる雑誌が創刊し、私も創刊当初は編集に関わっていました。当時はまだ2011年の世界一から日が浅く、女子サッカーブームが残っていましたので、編集会議で「女子サッカーも取り扱うべきだ」と主張して、その年の皇后杯予選や当時東海女子サッカーリーグ1部で戦っていたNGU名古屋FCレディース(現・NGUラブリッジ名古屋、プレナスなでしこリーグ1部)を取材しました。その後も『Stanndard愛知』ではサッカー特集では、必ず女子も取り上げるということが定着しています。定期的に発信できる場があるのは大きいです。

NGUラブリッジ名古屋(当時はNGU名古屋FCレディース)はその頃から「東京2020までに伊賀FCくノ一三重に追いつき追い越す」くらいの意気込みで、すごく頑張っていました。私が見てきたこの6、7年の間にも、チームが少しずつ強くなり、スポンサーも増え、選手の働く環境も改善するなど、地道にクラブの基盤強化が進んでいます。愛知県の女子サッカーは、NGUラブリッジ名古屋を先頭に、今も発展し続けているという印象を持っています。

撮影:山田智子さん

愛知県の女子サッカーの環境整備が進んでいることが分かる事例はありますか。

山田今年の皇后杯の愛知県予選大会には、初めて冠スポンサーがつきました。「2021年度GH GROUP CUP 第45回愛知県女子サッカー選手権大会 supported by GH GROUP トヨタカローラ名古屋・ネッツトヨタ中部・トヨタカローラ愛知 兼 第43回皇后杯 JFA 全日本女子サッカー選手権大会 愛知県大会」として、パンフレットや副賞なども用意され、全国大会レベルの立派な大会になりました。選手には大きな励みになったと思います。

撮影:山田智子さん

撮影:山田智子さん

他には、愛知県サッカー協会クラブ連携「あいちフットボールフレンズ」プロジェクトが立ち上がり、愛知県サッカー協会に所属する名古屋グランパス(男子サッカー)・名古屋オーシャンズ(男子フットサル)・NGUラブリッジ名古屋(女子サッカー)・ユニアオレディース(女子フットサル)の4クラブのボランティアスタッフが連携を始めました。男子の競技のファンが女子の競技を見に行く動きが出始めています。

高校生年代では、豊川高等学校が全国インターハイへ初出場しました。これまで愛知の高校女子サッカーを牽引してきた聖カピタニオ女子高等学校の一強の状況が変わったことは、育成年代の底上げが進んでいる表れではないでしょうか。

撮影:山田智子さん

愛知県以外はどうですか?

三重県でも2017年に開校した神村学園高等部 伊賀が創部3年で全国高等学校女子サッカー選手権大会に出場しましたし、ヴィアティン三重レディースが2021プレナスなでしこリーグ2部入れ替え戦予選大会を勝ち抜き、入れ替え戦本戦へ出場を決めました。三重県の女子サッカーも、草の根レベルから発展してきていると感じています。

岐阜県はやや遅れている部分があるので、私も何かできることがあれば協力したいと考えています。

名古屋駅前 

ホームタウンで結果を出していただきWEリーグの魅力を全国に広げてほしい

—WEリーグの理念を全国に浸透していくための視点で考えると「チームが存在しない地域では注目されない」というのは、大きな問題だと感じます。中京圏で活躍する山田さんから見て、どのように感じますか?

山田伊賀FCくノ一三重もNGUラブリッジ名古屋も、将来的にはWEリーグ入りを目指しているので、他人ごとというわけではないですが、やはり少し遠いというか…。やはり理念を伝えるだけでは、WEリーグの魅力は伝わりにくいですよね。

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