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岩政大樹が語る【監督業のリアル③】「鹿島の監督時代はあまり眠れなかった」それでも挑戦を続ける理由

鹿島アントラーズの監督時代は「ほとんど眠れなかった」と言う。古巣での監督経験を経て、サッカー観や監督観はどのように変化したのか。卓越した思考力と言語化能力を持つ岩政大樹氏に「監督1年目の教科書」を聞きたいと思った。

1月、ベトナムのハノイFCで新たな挑戦を始めた「深く考え抜く人」は鹿島退任後初のインタビューでその胸の内を明かしてくれた。【主な内容】
・プロの監督をやってより鮮明になったサッカー観
・ほとんど眠れなかった鹿島の監督時代
・自信と反省がいいバランスになった鹿島での経験

【全3本】
岩政大樹が語る【監督業のリアル①】「鹿島で5位という成績は僕が思っている以上に周りは評価してくれた」【無料公開】

岩政大樹が語る【監督業のリアル②】「クラブや選手に優しすぎていけない」監督1年目で得た苦い教訓

岩政大樹が語る【監督業のリアル③】「鹿島の監督時代はあまり眠れなかった」それでも挑戦を続ける理由

 

■プロの監督をやってより鮮明になったサッカー観

―プロの監督をやってみて、サッカー観に変化はありましたか?

変化というよりは、自分がどういうサッカーを実現したいのか、わかってきた感じですね。そこが明確になると、このやり方だと良くなかったなというのもわかってきます。たとえば、昨年の鹿島の配置だと大きなベースは変わらないにしても、この方法だと行き詰まるなとか、そうしないためには元々こういうチームを作っておかなきゃいけないなとか。整理がついた感じですかね。これは監督なら誰もが通る道なのかもしれない。

―まさにトライ&エラーですね。

肝となるエッセンスみたいなものはそれぞれの監督さんにあって、僕の場合は「流動性をデザインする」と言っているんですけど、流動的に選手が動きながらも、ある法則のもとに動いている。でも、流動的なので相手チームは対応しづらい。そういう状況を意図的に作り出したい。そのために鹿島の場合は4-2-2-2にして、2トップ2シャドーで、そこにオーバーロードをかけて選手たちが流動的に動くことで、相手が対応できないような形を作ろうとした。仲間隼斗とか垣田とかがフリーランニングをかけることで優磨がフリーになってというような仕組みをやりましたけど、そうするとどうなるかってことですよね。

―どうなるんでしょうか?

やりたいのは、選手たちが流動的に動いたときにもバランスが整ったまま攻撃ができて、カウンタープレス(即時奪回)で釘付けにして、ずっと相手陣内に敵を押し込んだままにするサッカー。そういうプレーモデルを自分は作りたい。鹿島でもこの大枠は変わっていないんですけど、この配置だと作れないからこういう配置でやって…みたいなことをして、最後の方はだいぶ見えてきたので、もし鹿島に残るんだったら翌年はそれをやりたいと思っていました。最終節の横浜FC戦でちょっとやったんですけどね。それで結構良かったので、同じシステムではないですけどハノイでもやろうとしています。ここの選手に合わせた形にして2、3週間やってみて、やっぱりこれだわという感触を得ていますね。

 

ほとんど眠れなかった鹿島の監督時代

―ハノイFCの会見では「相手を圧倒するサッカーがしたい」「自分はタイトルを常に欲している」と仰っていて、またハードルを上げすぎていないかなと少し心配になりました。というのもハノイFCは今季で岩政さんが4人目の監督ですよね?

実際には2人目です。

―そうなんですか?

日本の報道がちょっと足りていないんですけど、昨年からやっていた監督がACLでレッズに0-6で負けてクビになって、そこからは実質監督不在だったようです。チーム内のベトナム人で回しながら日本人監督を探していたのが事実です。

―なるほど。すぐにクビになるかもという心配はなかったのかなと。

ない……というのか、ベトナムでは僕は外国人監督ですからね。クビにならないようにとか、仕事をずっと続けられるようにという考えで海外には行きません。自分の色をどんどん出しながら、選手たちをマネジメントして、サッカーを作って。そのやり方が合わないクラブだったら自分が追い出されるだけです。そのくらいの覚悟がなければわざわざここに来ませんよ。自分の色がしっかり明確になっていれば、そして、それを表現できれば、違うところに行くだけ。とにかく、それをまず自分で作ることが大事なんじゃないかと思っています。

―鹿島の監督をやっていて、眠れない夜はありましたか?

ほとんど眠れないですよ。

―ほとんどですか。

シーズン中は特に。いまJリーグのチームはどこもキャンプをやっていると思いますけどキャンプ中はみんな楽しいんじゃないですか。美味しい九州料理とかを食べて、練習試合をしても課題の抽出とかチーム作りの確認をしてる段階なのでいいですけど、やっぱ勝ち負けが入ってくると……うん。

―プレッシャーがかかってくるわけですね。

いろんな人の声がどんどん届いてくる。今の選手たちはSNSをやっているので余計に。僕らが選手の時代はSNSがなかったので、周りの声なんか気にせずやってましたけど、今はすごい影響力ですよね。意識しないようにしても目にしてしまうとみんな気にしてしまう。昨年の鹿島のサッカーはピッチ脇で見ていて面白かったですよ。優勝がなくなるまでは。選手たちも躍動していた。しかし、優勝がなくなった瞬間、色々な声が聞こえてきた。それで、何もかもなかったような風潮ができあがった。もったいなかったですね。なぜ僕たちがあの順位にいたのか。外に出ているデータやわかりやすい形では見えないものを作り出していましたから。

―ただ、人はわかりにくいもの、理解できないものを批判したがる傾向にあります。一体、何がやりたいんだ、と。

 

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