攻撃的MFの進化形。中盤天国時代の名残を留める荒木遼太郎の高度なFW的瞬間芸
写真:Shigeki SUGIYAMA
U-23アジアカップ準決勝でイラクを下し、パリ五輪出場を決めた日本。様々な要因が絡んでの好結果だろうが、今季のJリーグで調子のいいアタッカーがチームに勢いをもたらしたという印象が強い。
FC町田ゼルビアの平河悠、藤尾颯太、FC東京の松木玖生、荒木遼太郎の4人である。平河は左右のウイング。藤尾はCF兼右ウイング。松木と荒木は4–3–3のインサイドハーフとして上々のプレーを見せた。松木を除く3人は、この五輪チームの中では常連ではなかった。23人の枠内に最後に飛び込んできた、競馬的に言うならば上がり馬が抜擢に応えた恰好である。
町田の2人がチームとともにJ1昇格をはたしたのに対し、荒木は鹿島から移籍で東京に流れてきた。鹿島では2021年に36試合(先発27試合)に出場したものの、2022年は13試合(先発6試合)、2023年も13試合(先発3試合)と、年々出番を減らしていた。このまま鹿島にいても状況は悪くなるばかりというわけで、移籍に踏み切ったのだろうが、これが大当たりする結果となった。今季これまで6試合に出場し得点5は、得点ランキングの4位に位置する数字である。
伸び悩んだ理由は、プレーの適性に見合ったポジションがなかったことに尽きる。鹿島伝統の4–4–2上には収まる場所がなかった。4–2–3–1の1トップ下ではポジションがやや高い。鹿島が4–3–3を使用するケースは少なかったので、最も適性に近いと思われるそのインサイドハーフでプレーする機会が少なかったことも輪を掛ける。
だがそのインサイドハーフも「攻撃的MF」にとって100%居心地がいい場所ではなくなっている。攻撃と守備の関係は60対40というより50対50に近い。両SBの位置が高くなった分、イメージは攻撃的MFと言うよりセンターハーフに接近した。
こうした流れに荒木は対応できていなかった。その攻撃的MFの概念が古典的なものになっていることに気付けずにいた。3–4–1–2の2トップ下あるいは中盤ボックス型4–4–2=4–2–「2」–2の「2」あたりが攻撃的MFのベストポジションになるが、両布陣ともにほぼ使用されていない現状に照らすと、攻撃的MFは死語になる。
東京のピーター・クラモフスキー監督は、ディエゴ・オリベイラの欠場が続くと、荒木を代役に抜擢。その下=4–2–3–1の1トップ下で構える松木と時にポジションを入れ替えながら0トップ然とプレーした。
攻撃的MFより半列から1列高い9番と10番の中間的なポジションに、きれいに収まる姿を見て、古い概念から荒木が脱却したことを確信した。居場所がなくなりつつあった攻撃的MFのその進化形を、荒木は体現することに成功した。U-23日本代表に招集される可能性は高まった状態にあった。
その変化を見逃さずに招集した大岩監督の選択センスも光るが、一方で逆に、日本サッカー界に不足するパーツになっていることも事実なのだ。
日本サッカーのストロングポイントはあるときまで中盤だった。もっと言えば攻撃的MFだった。荒木のようなタイプの選手は世の中にゴロゴロいた。小野伸二、中村俊輔、中田英寿、藤田俊哉、名波浩、連動保仁、中村憲剛等々、好選手は目白押しだった。なにより日本のファンが、彼らが織りなすパスが繋がるサッカーを好んだ。その一方でCFの人材不足は深刻化していったが、プレッシングの影響が強まると、一方でウイングの重要性が強調され始める。
3–4–1–2、4–2–2–2をメインで戦っていた日本サッカーは4–2–3–1への変更を余儀なくされた。オシム監督の時代、岡田監督の時代(第2期)あたりがその過渡期になる。オシム、岡田監督は遠藤、中村俊、中村憲らを4–2–3–1の3の左右(両ウイング)に据えた。攻撃的MFをサイドアタッカー然と構えさせたが、彼らにその適性がないことは一目瞭然だった。中村俊に至っては、右のウイングとして構える時間は10%にも満たなかった。ポジションを守ることができなかったのだ。プレッシングの概念から大きく外れるプレーをした。
荒木も同様だった。2021年だったと記憶するが、日本代表の練習会に呼ばれたとき、紅白戦で4–2–3–1の左を任された荒木は、しかしその大半の時間、内寄りで構えた。ポジションをカバーすることができなかった。そこに適性がないことが一目瞭然になった。
南野拓実、香川真司もそうした傾向を引き摺る選手だ。香川の場合は2014年ブラジルW杯対コートジボワール戦、南野の場合は2024年アジアカップ対イラク戦において、それが仇となり敗戦に追い込まれている。
遠藤や中村憲、小野がそうであったようにポジションを守備的MFに下げ、新たに活路を見いだした選手もいた。現在のU-23日本代表で言えば、藤田譲瑠チマ、山本理人などがこれに近い選手になる。
その一方で、高い位置でプレーすることができる選手はいなかった。低い位置で構えれば、その分だけプレーに時間的余裕は生まれるが、高い位置になるほど、相手のマークはきつくなる。プレーのエリアも狭くなる。求められるのは瞬間芸だ。
ゴールに近い場所で発揮される高度な技量ほど、相手にとって恐いものはない。お金が取れるプレーでもある。歴代の選手で名前が直ぐに出てくるのは、デルピエーロ、ラウール、ベルカンプになる。
中盤天国時代の名残をとどめる選手。日本人の郷愁を誘う選手と言える。ウイング天国の時代を迎えているいま逆に新鮮に見えるのだ。不足している貴重なパーツといってもいい。イラク戦の前半42分、藤田から受けたダイレクトパスをワンタッチで止めるやシュートに持ち込み、ネットを揺るがせたワンプレーは、簡単そうに見えるが、難易度の高いプレーだ。まさしく超高度な瞬間芸だった。
日本自慢のウイングプレーに、この荒木の中央での技巧が加われば、観戦の楽しみは増幅する。荒木の今後に目を凝らしたい。