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J1クラブの戦術ホンネ対談①「セレッソの戦い方は日本一美しい?」「広島優勝の鍵は前半戦にあり?」「浦和レッズに残された時間は…」

開幕から数試合を終えてJ1の戦局が徐々に見えてきた。優勝争いに加わりそうなクラブ、どちらに転ぶかわからないクラブ、残留争いに巻き込まれそうなクラブ……。戦術に精通する西部謙司氏と河治良幸氏という識者のお二人にJ1主要クラブの戦術的特徴、強みと弱み、株を上げた選手を徹底分析してもらった。3回に分けてお届けします。

第1回目はJ1全体の傾向と分析、そしてセレッソ大阪、サンフレッチェ広島、浦和レッズをアナライズ!

【主な内容】
・いまJリーグで一番美しいフットボールを魅せるセレッソ大阪
・サンフレッチェ広島が優勝するための鍵は前半戦にあり
・浦和レッズ、課題だらけでも優勝の可能性もゼロではない?

※対談はJ1第4節終了時の3月下旬に行いました。

【全3本】
J1クラブの戦術ホンネ対談①「セレッソの戦い方は日本一美しい?」「広島優勝の鍵は前半戦にあり?」「浦和レッズに残された時間は…」

J1クラブの戦術ホンネ対談②「だから、町田の独り勝ちは続く…」「今季の鹿島が苦手そうな相手」「いい意味でのマリノスの変わらなさ」

J1クラブの戦術ホンネ対談③「もったいない名古屋」「降格もありうる川崎F」「FC東京はモヤモヤが強み?」「ジュビロはロープレの主人公」

 

―J1クラブを中心に第4節終えての戦術的な特徴、そのチームの強みと弱みを徹底診断いただければと思います。あとは開幕してから赤丸急上昇なイチオシの選手を挙げていただきます。
まずは全体的な傾向からお願いします。

西部 昨季と変わらず強度の強いチームが上位に来ています。2019年の横浜F・マリノスが優勝しからの傾向であるんですが、昨年はヴィッセル神戸が優勝して、今年は町田ゼルビアが首位でサンフレッチェ広島、神戸、鹿島アントラーズと強度を前面に出したチームが上位ですよね。セレッソ大阪だけ少し違いますが。

―強度の強いチームが有利という傾向は続きそうだと。

西部 第4節でやった神戸と広島の試合は双方とも強度型同士でインテンシティ丸出しみたいな試合でした。すごい緊迫感と迫力があってプレミアリーグみたいでしたね。パスの本数は少ないし、成功率も低いし、シュートも少ない。

―球際でバチバチですね。

西部 局面の当たりとかはすごいんだけど、これがメインになったら、どんどんラグビーに近づいてくのかなと。

―もとは同じ「フットボール」。

西部 あの試合を好きな人はラグビーも好きなんじゃないかと思いますね。いわゆるファイトボールですね。

―ちょうど同じ頃にイングランドのFAカップでマンチェスター・ユナイテッドとリバプールの試合がありましたが、すさまじい強度と迫力で攻め続けていました。激しく戦うという点では同じかもしれませんが、ちょっと次元が違うというか、エンターテイメントという点でJリーグはどうやったら追いつけるのかなと感じました。

西部 Jリーグの強度は高いんですよ。ただ体格が違う。

―フィジカルの差ということですか。

西部 Jリーグはスピードはあるけども、プレミアとは重さが違うということですね。そこはどうしても難しい。単純にプレミア上位勢とズドンとぶち当たったら吹き飛ばれると思います。

河治 強度の意味をどう考えるか。いわゆるバチンと当たる強さもあるけれど、思考の速さと連続性の強度もありますね。よどみなく攻守における強度の高いプレーをどれだけ続けられるか。日本はそこが一発一発になってしまっているところがちょっとあるんです。

―確かにプレミア上位勢は強度の高いプレーが途切れない印象です。

河治 西部さんの仰る通りで、町田なんかは強度型に振り切れているところがありますけど、そこにクオリティベースを求めていく側が負けてしまっている。相手がそうくるなら、こうやって上回ってという裏返しがあったりするんですけどそこまでいっていない。町田は攻撃のときはやることがはっきりしているので、それを超えた対策が対戦相手はまだできていない印象です。

―確かに町田のやり方自体はとてもはっきりしています。

河治 神戸が他(の強度型)と少し違うのは、落ち着いて1回後ろでボールを回してペースダウンさせる時間帯を作っているところ。もともとつなぎ型だったこともあって、自陣で回せる技術はあるので、うまく一息入れながらやろうとしているところは昨年よりバージョンアップしている印象がありますね。

西部 今、河治さんがおっしゃった通り、ゲーム展開や攻守の切り替えが速くなる中での(ボール保持型の)判断力とか技術がどこまであるかといったら、まだまだ弱い。だから、町田、神戸、広島みたいにプレスを仕掛けられると上回れない。そして強度を前面に押し出してる同士の神戸と広島の試合がどうなったかというと、これはインテンシティを高くしてハイプレスするチームはみんなそうだけど60分、70分で絶対に強度が落ちてくる。

―ハイプレス型のチームによくある「60分息切れ問題」ですね。西部さんはよくコラムで書かれていますね。

西部 両方とも強度が落ちたときに、広島と神戸は何ができたかというと、両方ともほぼ何もできてない。そのまま縦に速い攻めをして失敗を繰り返してトランジション合戦になってるっていう状態です。サッカーの戦術は、攻撃と守備の相克なんです。ある時期は攻撃有利だとしても、ある時期はそれを守備が上回り、それをまた攻撃が上回るということを繰り返してきている。Jリーグも川崎フロンターレとマリノスが優勝しているときはポゼッションしたチームが有利だったけども、その後にそれを封じる勢力がどんどん増してきて強度型が有利になった。

―まさに生物でいうところの「共進化」ですね。

西部 ずっとそうです。そうじゃなきゃ、サッカーはもうハンドボールかラグビーになってると思います。

―サッカーの面白いところですね。ということは、今は強度型が勢力拡大中だけれど…

西部 強度型をひっくり返せるチームが出てくれば一人勝ちできる可能性もある。

―プレスを外す技術なのか、方法なのか。あるいは、どちらも備えたチームなのか。

西部 それが今季出てくるのかどうなのか。

―異質で言うと、はっきりとしたボール保持型はアルビレックス新潟ぐらいでしょうか。

西部 セレッソやマリノスもそうですね。

河治 あと川崎もですね。アルビレックス新潟やセレッソは自分たちが活きるところと相手の良さを消すところ、バランスよくできている感じはするんですけど、川崎はバランスに苦しんでる感じですね。アンカーで使われることもある山本悠樹は守備に改善の余地がまだまだある。ちょっとボールを見てしまうところがあります。3連覇しているときの川崎は攻撃で相手を圧倒して、奪われても即時奪回で守備の機会を少なくして、ピンチのときも谷口とジェジエウで跳ね返すサイクルができていた。今は攻撃がうまくいかないので悪循環になって後手後手になるシーンが目立ちますね。

西部 後述しますけど、ボール保持を基本としながらバランスよくやる4-3-3のサッカーで言えば、マリノス、浦和レッズ、川崎、FC東京、新潟で、今季からセレッソが加わった感じですね。新潟は仰る通りバランスの取り方が手慣れている印象です。

河治 神戸については前半逃げ切り型という昨季からのスタイルは変わっていないです。大迫勇也という絶対的な選手がスタートから出ているので、先に点を取らないとなかなか下げられない。それでも後ろがしっかりしているので弱くはないんですけど、前半に得点をとって後半突き放すのが勝ちパターン。宮代も頑張ってはいますけど、大迫の代えは利かない。

―神戸、広島を筆頭とした強度型、ハイプレス型の勢力を上回るチームが出てくるのかが今季のポイントということですね。ここから各クラブの分析を根掘り葉掘りお願いできればと思います。まず先ほど出たセレッソ大阪から。開幕から4試合を終えた段階(対談時)ですが好調です。

 

■【セレッソ大阪】いまJリーグで一番美しいフットボール

河治 田中駿汰の補強がとにかく大きい。アンカーのポジションを全うできる選手って日本代表でもなかなかいないですから。遠藤航ぐらい。あと岩田智輝もですが、ちょっとタイプは違います。

―ちょうど1年前にこのタグマ!でやっていただいたお二人の対談では、田中駿汰は日本の逸材で札幌ではCBで使われているが本人はアンカーを希望していて適性もあると指摘されていました。

河治 札幌からしたら(移籍は)本当に痛かった。特殊な札幌のサッカーだとCBでしたけど、そこでも成長はできるし、やりがいもあったとは思うんですけど、五輪代表や海外でのプレーを考えたら、ひとつ前のポジションでやりたかったはずです。

―遠藤航も湘南でCBをやって、中盤でプレーするようになりました。

河治 サイズがあって、攻撃も守備もハイレベルで、展開力もある。

―展開力とは?

河治 精度の高いボールを蹴ることができる。あとパスだけじゃなく、ちゃんと自分でボールを持ち出せる。

―西部さんも前から田中駿汰イチオシでしたね。

西部 田中駿汰を獲得できたのはものすごく大きいと思いますね。アンカーは全体を俯瞰してプレーすることが高いレベルで求められるので、それをクリアできる選手はJリーグにもそんなにいないです。

―360度の視野と高い技術も求められる。

西部 田中駿汰はボールを見なくてもしっかり扱える。つまり、ボールから目を離せる時間を作れるので、周囲を見る余裕ができるんですよね。

―セレッソの技術委員長を務める風間八宏さんがよく言う、「ボールを見ない技術」ですね。

西部 彼がアンカーに入ることで去年までボランチをやっていた香川真司と奥埜博亮を一つ前で使えるようになった。

河治 奥埜、香川との中盤3枚は絶妙なバランスになっていますよね。

西部 町田や広島と違うのは、セレッソは一点突破型ではないところですね。バランスを重視しているように見えます。5レーンにすごく忠実なサッカーをやっている。

―バランスですか?

西部 要は5レーンの上下動を忠実にやっている。5レーンの4-3-3ってバランスが一番いいんです。攻撃も守備もそのままやるので、(ポジションが)ぐちゃぐちゃにならない。いわゆるオランダ由来の4-3-3で、これにトライして成功したチームはJリーグではないです。

―マリノスや川崎は?

西部 4-3-3のシステム自体は成功させています。神戸も4-3-3にトライした時期はありました。ただいずれもオランダ式ではない。

―なぜ成功しないのでしょうか?

西部 オランダ式の4-3-3の要諦というのは、グラウンドを広く使って、それによって相手のプレッシングを揺れ動かして隙を作るっていうサッカー。1人ひとりの距離が遠くなるので、日本の選手がやるには難しい。だから、日本でオランダ式を成功させようと思ったら距離感を調整する必要があるのですが、セレッソの場合はそれを登里享平がやっています。

―左SBの登里ですね。

西部 左サイドバックなんだけど、ビルドアップするときはほとんど田中駿汰と並んでます。

―攻撃時はボランチになる。

西部 登里がうまく選手間の距離を調整することで、奥埜はもう一歩前に出てプレーできる。あとオランダ式で決定的なのがウイングが強くないと機能しないということ。ボールの動かし方が基本的に外回りで、片方のサイドから逆サイドにボールを持っていってプレスを回避するという流れになるので、そこで勝負できるウイングがいないと、一度戻してまたやり直してということになってしまう。

―サイドアタッカーが生命線。

西部 その点セレッソは、ルーカス・フェルナンデスを取ったのも大きくて、カピシャーバもものすごく速い。あと重要なのはバックアップがちゃんといるということ。ジョルディ・クルークス。ルーカス・フェルナンデスの代わりに彼が出ても遜色ない。

―セレッソはウイングも強いわけですね。

西部 全体的な技術レベルも高くてバランスも良い。あとはセンターフォワードですね。浦和はオランダ式に挑戦してます。開幕からそのままやってます。今はちょっと調整していますけど、出だしは苦労していました。

―オランダ式の4-3-3が日本で成功しないのは単純にキックの力が足りないからですか?

西部 昔はそうでした。オランダ式はポジションを固定してあんまり動かさない。グラウンドをめいっぱいに使いたいから。選手各々がプレーするスペースを大きくしたいわけです。そうすると1人ひとりの距離が遠いから孤立しちゃう。オランダがそれで大丈夫なのはパスが速いから。たとえば、多少距離が遠くてもFWが相手のマークを外した瞬間にボールを届けられる。しかし、強く正確に蹴れないと時間がかかってマークが間に合ってしまう。それが日本の選手には難しかった。今の日本の選手はそこまでキックが弱くないので技術的にはだいたい問題ない。それよりも考え方やプレーの仕方のところ。遠い距離でやるということに慣れていない。そこで距離を調整する必要が出てきます。例えばマリノスは偽SBを両方使います。ビルドアップのときに後ろ5枚で距離感を短くして、早く回して前に運ぶということをやる。フロンターレも右SBが中に入る。この前の試合では右SBの橘田がボランチのようになっていた。そういう調整役がどうしても必要になってくる。セレッソは登里がそれをうまくやっている。

河治 登里は本当にチームのハンドルですね。相手の出方を見ながら、どうチームを動かすか考えてプレーできています。

―香川のインサイドハーフははまっているんでしょうか?

西部 元々ドルトムント時代もやってたしね。今の少しアジリティとかスピードが落ちた状態だったら、一番いいポジションかもしれない。ただやっぱりこのポジションはタスクが多いんですよ。

―強度も求められますよね。

西部 だから、奥埜とかと同時に替えちゃうんだよね。ただ、ここもヴィトール・ブエノという選手が控えていて、相当クオリティは高いと思います。今のところ、ちょこちょことしか出てないけどパスの精度はなかなかすごいものがあります。なのでセレッソは補強を的確にやった印象です。

河治 心配なのは、登里と田中駿太が欠けるとこのクオリティを保つのが難しいかもしれない。田中がいないときは思い切って昨年のサッカーに戻すのも手でしょうね。

西部 あとはインテンシティ、強度の部分は町田や広島みたいに特化型じゃないからちょっとマイルドなので、強度型のチームに飲まれちゃわないかという懸念はあります。ただすごくバランスのいい綺麗なサッカーをしますね。

―優勝候補でしょうか?

西部 充分あると思いますよ。

 

■【サンフレッチェ広島】優勝するための鍵は前半戦にあり

―続いてサンフレッチェ広島。補強も必要最低限な感じでしたが、ここまで好調なスタートをきっています。

河治 開幕から基本的なメンバーは同じで、そこに大橋という強力な選手が加わった。やり方も昨季から変わらず、伸びしろがどこまであるかはわからないけど、逆に言えば相手の対策も変わらないので読みやすい。大崩れせず安定して強いので、前半戦で勝ち点をしっかり稼げれば逃げ切りも可能なぐらいの力は持っていますね。

―スタメン盤石というイメージが強いです。

河治 昨年は途中、満田誠が不運なファウルでケガをしていなくなった時期に停滞しましたけど、満田がいるときの広島の勝率は神戸より高かったはずです。

―争奪戦だった大橋祐紀は海外希望という噂もありましたが、彼は海外でも活躍できそうでしょうか?

 

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