J論プレミアム

ヴァンフォーレ甲府、アジアの大海原へ(海江田哲朗)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

ヴァンフォーレ甲府が挑むアジアの戦い。残念ながら、JIT リサイクルインク スタジアムがACLの基準となる要件を満たしていないため、国立競技場でホームゲームが開催される。

 

ヴァンフォーレ甲府、アジアの大海原へ(海江田哲朗)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]百十三段目

 

■実質的なJ2からの初挑戦

昇格争い、残留争いともに情勢がはっきりしてきて、今季のJ2の戦いはいよいよ佳境を迎えようとしている。そのなかで壮大な挑戦へと向かうクラブがある。ヴァンフォーレ甲府だ。

15日のJ2第35節、甲府と東京ヴェルディの一戦は1‐1のドローに終わった。試合後の監督会見、東京Vの城福浩監督はメディアとの質疑応答を終えたあと、「ACL、がんばってください」と言って立ち去った。

城福監督にとって、甲府は特別なクラブだ。2012年、監督に就任し、シーズン中盤以降は24戦負けなしで優勝とJ1昇格を達成。このときに達成したJ2無敗記録は現在も破られていない。そして、2シーズンに渡り、甲府をJ1に残留させている。

甲斐の国で過ごした3年間の日々を、「クラブを取り巻く空気感があったかいというのかな。甲府のどこにいっても『応援しています!』と声をかけられ、本当に街ぐるみで支えられているのを感じました」と城福監督は振り返った。ちなみに疲労回復のために周辺の名湯をめぐり、この時期に温冷交代浴の快感に目覚めたそうだ。昨季の天皇杯覇者としてACLの挑む今回、「甲府がこの大会を戦うというのは夢のあること。アジアの舞台で暴れ回ってほしい」と期待を込めて語っている。

僕もまた、以前取材でお世話になった甲府のクラブ関係者が何人かいて、挨拶の際には「がんばってください」と声をかけた。正直なところ、リーグ戦のライバルとしか見ておらず、J2を代表して送り出す気持ちはさらさらない。ただ、そうして相手の顔を見て声に出してみると不思議なもので、本当にがんばってほしいという気持ちになってくる。

J2のクラブがACLに参戦するのは、奇しくも2006年の東京V以来、2例目だ。その点、少しだけ同じ立場の特殊性がわかると言ってもいいだろう。

当時は、AFCが大会の価値向上を図って賞金の増額など制度改革に乗り出す前で、負担の大きさの割りにメリットを見出すのが難しい大会だった。しかも、東京Vはクラブ史上初のJ2降格から1年でのJ1復帰が至上命題とされたシーズンで、パワー分散させる余裕などない切羽詰まった状況にあった。

東京Vが入ったのは蔚山現代(韓国)、アレマ・マラン(インドネシア)、タバコ・モノポリー(タイ)のいるグループF。しかし開幕前、インドネシアとタイから参加予定だった2ヵ国4チームが、書類申請の問題により失格となる。いまでは考えられないアホみたいな話だ。

蔚山現代とのタイマンとなったグループリーグ、東京Vはホームで0‐2と敗れ、アウェーでも0‐1と返り討ちにあった。サポーターの企画したツアーに乗っかった韓国遠征は楽しい思い出となったが、たったの2試合、1回もゴールネットを揺らすことなくアジアの戦いは終わった。じつに中途半端である。

だから、この度の甲府の戦いは実質的にはJ2からの初挑戦と言ってよい。

 

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