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【森雅史の視点】2023年9月15日 J1リーグ第27節 横浜F・マリノスvsサガン鳥栖

J1リーグ第27節 横浜FM 1(0-0)1 鳥栖
19:33キックオフ ニッパツ三ツ沢球技場 入場者数7,771人
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雷の影響で30分遅れのスタートとなったゲームは、2位vs13位という順位を感じさせない展開となった。ホームの横浜F・マリノスはギアがセカンド以上になかなか上がらない。対するサガン鳥栖は試合開始からトップギアにいれ横浜FMに迫った。その鳥栖の攻撃を巧みにさばきながら反撃の機会を待っていた横浜FMだったが、70分、ゴール前を横切るボールに思わず富樫敬真のユニフォームを引っ張りPKを与えてしまう。

ところがこのPKを富樫が左ポストに当て外してしまった。鳥栖はそれでも気落ちすることなくゴールに迫り、87分、長沼洋一がミドルシュートを決めてついに先制点を奪った。これでやっと目を覚ました横浜FMは本来のパスワークが始まる。そして90分、吉尾海夏がエウベルとのワンツーでフリーとなり、流し込んで同点に。その勢いのまま横浜FMが攻め続け、アディショナルタイムは7分あったが結局崩しきれず、両者痛み分けという形でゲームは終わった。

両チームとも激しく戦ったが、勝敗を除くと後味はいい試合になった。その要因はいくつもあるのだが、3つだけ書いておきたい。

1つは鳥栖の選手の足がつりそうになり、味方がボールをタッチラインに蹴り出した場面。そのボールが出た位置は鳥栖のペナルティエリアの横で、横浜FMにとっては攻撃の起点として使える場所だった。足が痙攣していた鳥栖の選手はボールが出るときにまだ立っていたし、それでもあえて蹴り出したので、横浜FMがスローインから攻撃につなげてもおかしくない状況だった。鳥栖は横浜FMがつないでくるだろうとサッとマークに付く。ところが横浜FMのエウベルは鳥栖の選手を手で制して、鳥栖GKに軟らかいボールを返した。

2つ目はオンフィールドレビューで横浜FMがPKを取られた場面。主審が耳に手を当てVARと交信しているとき、両チームの選手は誰も主審に近寄らなかった。ときに大勢で主審を囲むチームがある一方、どちらもチームも審判や判定に対するリスペクトを無言で示していた。3つ目は度々あった接触プレーの場面。もつれたあと、必ずお互いに手や肩をたたき合って悪意がないことを示していた。特に喜田拓也はチャンスの前の自分が潰された場面でも、相手とコミュニケーションを取っている。

勝負事なので、見ているほうも勝てばうれしいだろうし、勝てなければモヤモヤした感情はあるだろう。だがサッカーの美しい場面も、また別の楽しみとしてあっていいと思う。

 

 

 

森雅史(もり・まさふみ)
佐賀県有田町生まれ、久留米大学附設高校、上智大学出身。多くのサッカー誌編集に関わり、2009年本格的に独立。日本代表の取材で海外に毎年飛んでおり、2011年にはフリーランスのジャーナリストとしては1人だけ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の日本戦取材を許された。Jリーグ公認の登録フリーランス記者、日本蹴球合同会社代表。2019年11月より有料WEBマガジン「森マガ」をスタート

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