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サッカーのことしか頭になかった(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

サッカーのことしか頭になかった(えのきどいちろう)えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』百八段目

 

 

■サッカーだけが三ツ沢ではない

先日は天皇杯2回戦、最後に1つだけ残っていた横浜FC-いわてグルージャ盛岡を見にニッパツ三ツ沢球技場へ出かけた。グルージャ側のゴール裏に陣取り、知人にキヅールのかぶりものを貸してもらったりして、貴重なひとときを過ごした(試合はグルージャが先制したものの、地力の差はいかんともし難く1対4の敗戦だった)のだが、それは今回の主題ではない。

この日、僕は黄金町の横浜シネマリンで映画を見て、その足で横浜市営地下鉄でスタジアム入りしたのだった。伊勢佐木長者町→三ツ沢上町(所要12分)。普段は横浜駅からバスに乗るけれど、今回は三ツ沢上町駅を利用したほうが経路がずっとシンプルで済む。19時キックオフの平日ナイターだから映画がはねてから時間がたっぷりあった。考えたらこれまで(坂を下る)試合帰りにしか三ツ沢上町を利用したことがなかった。今日はこっちから行ってみようかな。

というわけで坂道を上るアプローチを選んだ。途中、三ツ沢公園入口から木立の茂った遊歩道へ分け入った。いつもキックオフ間際にバス停からダッシュしたりして、公園自体のスケール感がわかっていなかったけど、丘陵地の起伏をそのまま生かした、奥行きも高低差もある大規模公園だ。歴史的には神奈川県護国寺の外苑として整備されたのが起源らしい。市民にとっては桜の名所でもある。戦後、運動公園としての性格を強め、陸上競技場、テニスコート、軟式野球場、馬術練習場などを備える。

そのとき、「あぁ、俺、三ツ沢公園全体のことが見えてなかったなぁ」と思った。馬術練習場があるなんて考えてもみなかった。いつもサッカーだけが念頭にあった。ていうか、「三ツ沢」というのはサッカー場のことだった。僕は以前、横浜市体育協会の仕事をしていて平沼記念体育館の取材をしたこともある。もっとわかっていてよかったはずなのだ。わかってなかった。

三ツ沢の新スタジアム計画の頓挫に頭が行く。横浜FCの親会社、株式会社ONODERA GROUPが提案していた「三ツ沢公園再整備想案における新スタジアムの寄贈提案」が横浜市との協議の結果、取り下げられたのだ。理由について同社は「法整備、事業採算性」の2点を具体的に挙げている。

これは知人のフリエサポも仰天していた。いい計画だったんだけどなぁ。こんなスキームというか、ビジネスモデルがあり得るのかと僕も注目していた。まぁ、方向性としては三ツ沢を新たなランドマークとして(宮下公園のような)「稼げる公園」にしようというイメージだったと思う。最近は「テナントビジネスとしてのサッカースタジアム」という考え方がトレンドになっており、試合のない日も施設にコミュニティ住民を誘導しようと発想する。まぁ、取り下げたということは「(規制もあって)稼げない公園」と同社が判断したのだろう。

このニュースを僕は単に「横浜市はダメだなぁ」くらいに受け取っていた。「今は自治体にお金がないんだから、民間の活力を導入しなきゃ」とか。だけど、丘陵地の遊歩道を歩きながら、少し見え方が変わった。株式会社ONODERA GROUPがとは言わない、自分がだ。自分はサッカーのことしか頭になかった。新スタジアムを建てるスキームとしか考えなかった。だってサッカー好きはサッカーが前提だ。サッカーはどんどん新スタジアム(可能なら専スタ)ができて、発展していくべきだ。いつかワールドカップで優勝して、夢を叶えるんだ。

つまり、サッカー以外のことが見えていない。三ツ沢に20年以上通って、馬術練習場のことなんて考えもしなかったのだ。反省した。サッカーだけが三ツ沢ではないし、サッカーだけが世の中ではない。

 

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