前田大然、伊藤涼太郎の原点は水戸にあり。「通過点クラブ」に学ぶ次々と欧州に選手が引き抜かれる時代のJクラブの生存戦略
年々加速する有望な若手の海外移籍。選手個人のキャリアアップ、日本サッカーの成長という意味では良い面も多いが、急速な人材流出はJクラブの死活問題で、供給が追い付かず、リーグの魅力低下にもつながりかねない。いま、Jクラブができる対策は何なのか?選手、クラブ、リーグ、ファンの利益を一致させる方法はあるのか?
かつてドイツで日本人選手の海外移籍に携わり、現在は水戸ホーリーホックのフロントで経営企画室のメンバーとして事業戦略を担う瀬田元吾氏を直撃した。取材・構成/木崎伸也
【目次】
・「選手の海外流出=Jリーグのレベルが下がる」は間違い
・「0円移籍」でもJクラブが利益を得るウルトラCとは?
・スター選手が海外移籍してもクラブの人気は上げられる
・Jクラブが欧州からの引き抜きを阻止するための奥の手
・J1クラブは期限付き移籍へのスタンスを変えるべき
・なぜドイツに移籍するJリーガーが減ったのか?
・前田大然、伊藤涼太郎の原点は水戸にあり。「最高の通過点クラブ」を目指す理由
・水戸が親会社を持たないクラブのモデルになる日
■「選手の海外流出=Jリーグのレベルが下がる」は間違い
もはやこの流れを食い止めることはできないのだろうか? Jリーグのスター選手やタレント候補が、次々にヨーロッパから引き抜かれている。
たとえば2022年は田川亨介、瀬古歩夢、上田綺世、本間至恩、田中聡、三竿健斗、小林友希らが、2023年は相馬勇紀、鈴木唯人、小田裕太郎らがヨーロッパのクラブへ移籍した。
また、高校年代では神村学園の福田師王がボルシアMGのセカンドチームへ、サガン鳥栖の福井太智がバイエルンのセカンドチームへ加入している。
このまま人材流出が続けば、Jリーグの魅力が損なわれかねない。何かしらの対策が不可欠だ。
このテーマを訊くのに最適な人物がJリーグにいる。
ドイツのフォルトゥナ・デュッセルドルフの元日本デスク担当で、現在は水戸ホーリーホックの経営企画室で事業戦略やグローバル戦略を担う瀬田元吾だ。
瀬田はデュッセルドルフ時代に大前元紀、金城ジャスティン俊樹、宇佐美貴史、原口元気の獲得に尽力して国際移籍に精通しており、今は水戸の経営企画室の一人としてJクラブの経営に従事している。つまり日欧両方の視点を持っているのだ。
デュッセルドルフに12年間勤めた元欧州組に「タレント流出の処方箋」について話を聞いた。
――瀬田さんはかつてJリーグからタレントを引き抜く側だったわけですが、今はタレントを育てる側にいます。日本人選手の海外流出を止めるために、Jクラブはどうしたらいいと思いますか?
「私は流出を止める必要はないと思っていて、選手がどんどん日本から海外へ出るべきだと考えています」
――え、そうなんですか! いきなり期待したのとは違う答えが返ってきました(笑)。
「そもそもの大前提として、日本サッカーに携わる人たちの多くは、日本代表がW杯で優勝する姿を見たいですよね?
それを実現するには、たくさんの日本人選手がヨーロッパのトップリーグでプレーしなければならない。私は選手がヨーロッパへ出ていくことをポジティブに捉えています」
――確かに日本代表にとってはメリットかもしれませんが、Jリーグのレベルが下がって人気が落ちる可能性があります。それについてはどう考えていますか?
「その見立てについては、2つの点で違う見解を持っています。まず1つ目は『選手が流出するとJリーグのレベルが下がる』という見立てです」
――どういうことでしょうか?
「クロアチアはロシアW杯で準優勝し、カタールW杯では3位になったサッカー強豪国です。でも人口は400万人に満たないんですよ。ほかにもオランダは人口1700万人で、ベルギーは1200万人ですが、同様にW杯やFIFAランクでトップクラスの成績を収めています。
日本の人口は1億2500万人で、サッカー人口はおよそ440万人と言われています。こういう数字を考えると、選手が海外へ出ていっても不安になる必要はありませんよね?
人口がクロアチアの31倍、ベルギーの10倍いるわけですから。タレントの卵の大きな人材プールが日本にはあります」
■「0円移籍」でもJクラブが利益を得るウルトラCとは?
――つまり人材流出の処方箋は、育成力を上げるということでしょうか?
「そうですね。そのために大事なのは、選手のヨーロッパ移籍で得た利益をメディカルやインフラの整備にしっかり投資することだと思います」
――ちょっと待ってください。Jリーグからヨーロッパへ行く場合、移籍金がかからない「0円移籍」がほとんどで、移籍金を得られたとしても1億円前後ではないでしょうか。
「ベルギーへの移籍はだいたい50万ユーロ(約7000万円)で、高くても80万ユーロ(約1億1200万円)くらいですね」
――後釜となる選手の補強にお金がかかりますし、この規模の金額だとメディカルやインフラの整備に回せる資金は限られているのではないでしょうか。
「最初の移籍ではそうかもしれませんが、次の移籍でより大きな金額を手にできる可能性があります。
どういうことかと言うと、日本からベルギーのクラブへ移籍した際に7000万円しかもらえなかったとしても、契約書の中に『次の移籍で得られる移籍金の20%をもらえる』といった条項を入れておくんですよ。
仮に水戸の選手Aがセルティックに移籍し、その条件を契約に盛り込んだとしましょう。選手Aが30億円でプレミアリーグのクラブへ移籍したら、水戸に6億円が入ってきます。
現在欧州リーグで活躍している選手の中には、次の移籍金が30億円以上になると言われている選手もいます。Jリーグ在籍時のクラブがどんな契約を結んでいるかはわからないですが、今後『次の移籍で何%もらえる』という条項を盛り込むケースが増えれば、日本サッカー界に入ってくるお金が確実に増えます。
ここ10年、20年はヨーロッパのクラブが一方的に得するケースが多かったかもしれませんが、日本サッカー界としても苦い経験を繰り返してノウハウを蓄積してきました。これからはより賢く、ヨーロッパからお金を取れるようになっていくと思います」
■スター選手が海外移籍してもクラブの人気は上げられる
――人材流出の見立てについて違う見解が2つあるということでしたが、もう1つは何ですか?
必ずしも「『人材流出したらJリーグの人気を保てない』ということではないと思います。選手がヨーロッパへ移籍しても、クラブの人気は上げられると思います」
――そんなことが可能ですか?!
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