無料記事:[山下コラム]“絶滅危惧種”日永田祐作、フェニックス横浜を優勝へと導く! [神奈川県リーグ](2017/11/10)
得意の仕掛けから自身この日2点目を決めたフェニックスの♯19日永田。
2位の湘南に勝ち点「2」差をつけて首位決戦に臨んだフェニックス横浜。
気迫の優勝決定戦をプレーで演出した元Fリーガー
失礼を承知でいうが、神奈川県リーグでこんなにも気迫と気迫のぶつかり合いとなるゲームが行われるなんて、思いもよらなかった。Fリーグじゃないから。地域リーグじゃないから。そんなの関係ない。リーグ優勝を懸けた大一番は見応え十分だった。12チームが1回戦総当りで戦う神奈川県フットサルリーグ。9月23日の第8節は、7戦全勝で首位を行くフェニックス横浜と、6勝1分けで2位の湘南フットサルクラブが激突。結果はフェニックスが勝利し勝ち点差が「5」と開いた。リーグはその後、10月22日に第9節を消化し残るは2試合。2位を堅持する湘南(勝ち点22)も優勝の可能性を残しているが、フェニックス(同27)の優位は揺るがない。それほど第8節の湘南戦の勝利は大きかったわけだが、この試合で存在感を発揮したのが知る人ぞ知る元Fリーガー、日永田祐作(ひえだ ゆうさく/28歳)だった。
まとめ◆デジタルピヴォ! 山下
試合開始55秒でフリーキックをヘッドで押し込み先制ゴールを決めた♯11高柳と彼をたたえる日永田。高柳は後半32秒にもこの日2点目をゲット。第9節終了時には得点ランクトップに立った。
試合前に「見ててね」といってピッチに立った♯7喜平。カフリンガから今年移ってきたベテランは攻撃的なチームにあってバランサーとして汗をかいた。
その日永田を止めにいった結果、闘志が絡み合うこんなシーンも。
ベテラン喜平、鶴岡の入団もチームを変えた
それにしても元Fリーガーが何故フェニックス横浜に入ったのか、不思議に思う人もいるだろう。
理由はいたって簡単で、もともと日永田はフットボールカルチャーブランド、LUZ e SOMBRAのビジュアル系プレーヤー集団、LUZ TOP TEAMのメンバー。府中アスレティックFCを退団後、LUZの口利きでLUZがウェア等をサプライするチーム、フェニックス入りが決まった、という次第だ。LUZには活躍してメディアに露出してほしいという思惑があったかもしれないが、入団初年度に昨シーズン5位だったチームを優勝へもう一歩というところへ導くのだからすごい。もちろん現在の順位が彼ひとりの功績だとはいわない。フェニックスには今シーズンから、日永田と時を同じくして、カフリンガ東久留米(関東リーグ1部)から♯7喜平聡、ボンバネグラ(神奈川県リーグ1部)からゴレイロの♯1鶴岡嗣泰の両ベテランが入団。この日の対戦相手、湘南の吉田至孝監督に、“去年までのフェニックスとは違う。今年は攻守のすべてにおいて安定している。だから今の(1位という)ポジションがある”といわせている。そのフェニックスにあって攻撃面で、ボールを持てば絶対といっていいほど仕掛ける日永田の姿勢が仲間を刺激し、チームをけん引していることは間違いない。
日永田の1点目は遅攻からのダイレクトシュート。名手として知られる♯21GK荒井も手が出なかった。
1-1の均衡を破るゴールが決まった。湘南の落胆ぶりからこのゴールの重みがわかる。
不本意な? 1点目
この試合で先制ゴールを決めたのは、フェニックスの♯11高柳。開始55秒のことだった。
そしてその約1分後に今度は湘南の♯12大王が奪い同点とする。大王はこの試合の前まで10ゴールで得点ランキン1位。高柳はその2点差で2位だった。獲るべき人が獲る順当な滑り出しだった。
ところがそこから12分以上、両チーム、ゴールが奪えない。その重苦しい雰囲気を打破したのがフェニックスの♯19日永田だった。
このシーン、フェニックスは遅攻から湘南ゴール前へと押し込み、右サイドのキャプテン♯10照井→縦の♯11高柳→左サイドでフリーの♯19日永田へとパスをつなぐ。タイトな相手ゴール前でのパスワーク。いかにもオフェンシブなアタックが好きなチームらしいボールのつなぎ方だ。そしてフィニッシュは日永田。右足インステップで丁寧にニアへ。ダイレクトシュートがゴールネットを揺らした。試合の流れを引き寄せようかという貴重なゴール。
「あのゴールは、みんながつなげてくれて。口でこそ出してはいなかったですけど、心の中で“出せ! 出せ!”って叫んでました(笑)」
しかし、日永田は納得していなかった。
チームの勝利のためにゴールは欠かせない。だから全力で獲りにいく。だが、このあと2点目のゴールのところで触れるが、「(自分は)ポジショニングしてどうこう(するタイプ)じゃなくて」と語っているとおり、目指すところは違うのだ。では目指す形からのゴールとは…?
“そのとき”は16分過ぎにやってきた。ルーズボールを相手との競い合いから奪取しすかさずドリブルを仕掛け、寄せてくる相手ディフェンスをかわす。
最後は倒れ込んだがボールは正確にゴレイロの右をかすめゴールネットを揺らした。
ロングヘアーをなびかせて歓喜に沸くベンチへと走る日永田。ドリブルからのシュートという日永田会心のゴールだった。
球際で負けたら小山剛史に笑われる
実は、日永田はFリーグで試合に出ていないし、出ていても、僕自身見る機会がなかったために、どんなタイプの選手なのか知らなかった。日永田自身、「僕、Fリーグで全然出てないないんでね、試合に。あまり表舞台には立たなかったんで。途中でフェードアウトしちゃったんで」と語っている。しかしそのスタイルは試合開始と同時にわかった。とにかく仕掛けるのだ。仕掛けまくるのだ。そしてドリブルに持ち込んでシュート。恐るべき勝負師だ。2点目のゴールがそれを雄弁に語っていた。
日永田自身の2点目はこうだった。距離的には不利に見えたが、鋭い出足で、「こぼれ球を球際で奪って」、そこからドリブル。「ひとりかわして。キーパー出てきて、撃って」。さらりと表現するが写真で示したとおりシュートに至る流れはハンパじゃない。ルーズボールの奪い合いも、ガツン! といって奪い切った。そのことに話が及ぶと、わずかにFのプライドをにじませた。
「府中アスレティックFC出身ですからね、球際で負けたら、小山剛史に笑われちゃいますよ(笑)」
小山剛史。
昨シーズン限りで引退したが、強さとしなやかさを併せ持ったFリーグを代表するピヴォだ。その剛史とトレーニングでバチンバチンやり合ってきたのだ、ここで簡単に負けるわけにはいかない。Fの意地が垣間見えた瞬間だった。
ボールを持ったらとにかく仕掛ける! それが僕のスタイル
とにかく仕掛ける。そのスタイルをいっときも忘れることはなかった。
「仕掛けるのが持ち味なんでね。やっぱ、自分が一番表現できる場所じゃないですけど、今までずっとサッカーしかやってこなかったから」
今日も仕掛けて、相手をチンチンにした。
「そうっすね。あのくらいできればね、試合も自ずとリズムが出てくると思うんで。自分もボール触ってないとリズム出てこないタイプなんで。ポジショニングしてどうこうじゃなくて、自分がボール触っていけば、ああやってチャンスも出てくるし」
今のFリーグは守備ができなければ生きていけない。だからその結果、時として攻撃性が乏しい没個性的なリーグだといわれる。僕も未だにあのリカルジーニョが恋しい。あの個性が懐かしい。華麗なパスワークもいい。スピード感あふれるクアトロからのシュートも見応えがある。だが、勝負によるミスを恐れて横パスに走る逃げのプレーを見ていると、なんだかなぁー、と思ってしまう。
一方で、個で局面を打開するプレーは見ていて痛快だし、フットボールの醍醐味を感じる。やり切る根性がうかがえる。男っ気がにおいたってくるといってもいい。確かに日永田はFからフェードアウトした。それは仕掛けに、ドリブルにこだわってきた結果であるに違いない。だが、こんなプレーヤーがいてこそ競技フットサルに幅が出るというものだ。この“絶滅危惧種”を神奈川県リーグは、フェニックス横浜は大事にしなければいけない。そして神奈川県選抜のメンバーとして全国の舞台に送り出すべきだ。来シーズンもいればの話だが。
高柳のこの日2点目に続いて♯14野崎がチーム5点目を決めベンチとハイタッチ。
4点差をつけられながら湘南はあきらめることなく攻め続け2点を奪った。写真は攻守に奮闘する湘南のキャプテン♯12大王。第9節終了時点で高柳とゴールランキングでトップタイにいる。
追いすがる湘南を突き放し、チームメートと笑顔で喜びを交わし合った。
ロッカーへ引き上げる直前にカメラに向かって両手を突き上げた。喜びが伝わってきた。
とりあえずこのチームを関東リーグに上げたい
試合は終盤に湘南が猛攻を仕掛け、2点を奪うものの、5-3でフェニックスが勝利。試合終了後に、事実上の優勝決定戦ともいうべき大一番を勝ちきった立役者として日永田に率直な気持ちを聞いた。
「いや、もう、疲れました。お互い負けなしの2チームだったから、多少プレッシャーを勝手に感じてたのがあるとは思うんですけど。ほんと、それから解放されてとにかくホッとしてます。よかったです」
“自分がインタビューを受けていいんですか!?”と謙遜していたが、2ゴールはもちろんのこと、存分に気持ちを込めてプレーし、その気持ちを仲間に伝えてチームを牽引していた。もう、文句なしのヒーローだ。
「いやいや。でもそうなれたらいいなとは思いますけどね。そばで見てる選手もね、それで興奮して発奮してやってくれるから。それが一番早い手段ですかね。(口で“頑張れ、頑張れ!“じゃなくて)自分がやって、それについてきてくればいいかなって感じでした」
今日はプレーで“違い”をはっきり示したが、この先、リーグ優勝はもちろんだが、関東リーグでのプレーもイメージとしてあるのか?
「う~ん、まあ、とりあえずこのチームを(関東リーグに)上げたいってのはありますけど。リーグ優勝させて関東へ上げて。ま、そこからは全く決めてないですね。とりあえず、1年で結果がついてくれば、またどこか挑戦するかもしれないし。他のチームもあれば。ま、でも、あまり考えてないです」
日永田にはこのチームをバディランツァーレに続いて関東の舞台に立たせるという大仕事が控えている。でも、それが成就できたら…。
可能性あふれる個性をどこで駆使すれば最もふさわしいか。自らの『表舞台』はどこか。まだ28歳、日永田には明確なイメージが脳裏に像を結んでいるように思えてならない。