J論プレミアム

「いわきよ、これがJ1だ!」とはいかなかったけれど(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

「いわきよ、これがJ1だ!」とはいかなかったけれど(えのきどいちろう)えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』百二十八段目

 

 

■ルヴァンカップ新制度によるJ1効果

今月はハワスタに行ってきました。ハワイアンスタジアムいわき。ネーミングライツが付く前の名称は「いわきグリーンフィールド」ですね。言わずと知れたいわきFCの本拠地です。

いわきはずいぶん昔、まだ20代でミュージックマガジンやJ‐WAVEの仕事をしていた頃、ご縁があったんです。その頃、どういうツテだったか忘れたけれど『タウンマガジンいわき』の編集者と知り合って、連載を持つことになったんですよ。地元いわきの月刊情報誌です。僕は連載を持つまでいわきを訪れたことがなかったので、GWのタイミングに常磐道を駆って出かけた。小名浜港の、今は「ら・ら・ミュウ」という観光施設が建ってる辺りに魚市場があって、そこの2階の市場食堂(一般客も入れた)が最高でした。もちろん宿は湯本温泉。あの連載は3、4年続いたのかなぁ。東京のメディア情報を書くことが多かったけれど、ちょくちょくいわきを訪ねて「いわき市平、大黒様の宝くじ売り場(高額当選で有名)の謎」みたいなコラムを書いた記憶があります。

今回のハワスタ行はその追憶の旅のようなところがありました。若くて気楽だった頃、まだ映画『フラガール』もなくて、スパリゾート・ハワイアンズが「常磐ハワイアンセンター」だった時代への旅。当時親しかった編集者は会社を辞められたみたいで連絡がつかない。街もだいぶ変わってしまった。何しろ、間に東日本大震災と復興の日々がはさまっているのです。もちろん震災の翌年(2012年)創設のいわきFCは当時ありません。もし、当時あったらたぶん僕は『タウンマガジンいわき』で取り上げていたでしょう。

 

 

Jリーグ史的に考えると、今回のハワスタ行はルヴァンカップのレギュレーション変更の成果(?)のひとつといえるでしょう。今年断行されたレギュレーション変更は、これまでJ1クラブのみの参加となっていたルヴァンカップをJ2、J3に開放した。現在、ノックアウト方式による1stラウンドが進行中ですが、もう1回戦からジャイアントキリングの連続です。折よくレミノで無料配信が始まったもんだから、非・スカパー契約者のサッカーファンも各地の熱戦を見られることになった。これは大会のバリューを爆上げしたと思います。

ルヴァンカップは基本、平日開催であり、かつ若手主体のチーム編成(ターンオーバー制)が敷かれることから、従来は地味というかあんまり話題にならなかった。天皇杯と違ってNHK-BS中継もありません。それがアップセット&ジャイキリの続出で話題沸騰ですよ。J3チームが本気のスタメンでJ2を食いに来るので、そうそうメンバーが落とせなくなった。1回戦では沼津が仙台を破り、北九州が大分を負かし、鹿児島が千葉を黙らせ、琉球が藤枝を倒しました。しかも、会場が「下位カテゴリーチームの本拠地」なので大変盛り上がった。

J1チームが登場した2回戦も同様に、琉球がガンバを潰し、長野が京都を食い、富山が清水を負かしすようなアップセットはありました。ただそれ以上に話題となったのは「J1効果」です。鳥取にレッズサポが大挙押しかけて、これまで見たこともない応援の熱気をぶつける。また町じゅうのホテルを満室にし、サッカーの持つ経済効果を示す。これは(程度の差こそあれ)各地で起きたことです。観客動員に悩む下位カテゴリーの本拠地に「J1効果」をデモンストレーションした。琉球のように「ジャイキリ&デモンストレーション」が両方起きたケースなんか最高です。「このスタジアムにJ1を迎えるのは今日が初めてです」と言ってたそばから「勝った。勝ちました。J1に勝ちました!」と大騒ぎできるわけです。

で、そういう意味では僕の話も「J1効果」みたいなもんなのかもしれません。僕はJ1アルビレックス新潟のオフィシャル記者として、いわきを再訪したんです。震災の後、ずっと心に引っかかっていたいわきです。震災直後は知り合いと連絡がつかず顔色を失い、あまりにも変わってしまった風景に凹み、気を取り直し募金の呼びかけに奔走した、いわきの街。たとえば小名浜港の岸壁に立ったら、こんなに日が経ってても気持ちがダウンするのはわかっていました。あんこう鍋とメヒカリのから揚げと温泉の、僕のお気に入りの街だったんです。

 

 

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