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【田村修一の視点】2023年11月4日 ルヴァンカップ決勝 アビスパ福岡vs浦和レッズ

ルヴァンカップ決勝 福岡 2(2-0)1 浦和
13:12キックオフ 国立競技場 入場者数61,683人
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ルヴァンカップ史上屈指の熱のこもった好ゲームだった。

自らの戦い方とプレースタイルをキッチリと構築し、チーム全体が相手に「ひるむことなく」(長谷部監督)試合開始から全面的に展開した福岡のアグレッシブさに浦和は完全にペースを握られた。前半の浦和は福岡のプレースピードに攻守にわたり対応できず、後半14分に福岡が得たPKをGK西川が阻止しなかったら、福岡が意図した通りの展開のまま試合は終わっていたかも知れない。

だが、ここから浦和の反撃が始まった。選手交代によりチーム全体の動きが活性化し、次第に福岡を追い込んでいく。22
分に明本が反撃の狼煙となるゴールをあげると、個のプレー強度で福岡を圧倒した。同点に追いついてもおかしくなかったが、最後は福岡が守りきり初優勝を成し遂げた。

福岡は素晴らしかった。トランジションの速さと正確さで際立ち、プレスも的確で後半なかばまで浦和にサッカーをさせなかった。構築したプレースタイルと戦い方に迷いがないのに加え、初タイトル獲得は今後に向けてのブレークスルーになるだろう。

浦和が後半途中から底力を発揮したのは流石だが、気になったことがひとつ。それは自分たちの明確なプレースタイルを追求しているように見えないことである。ACLに優勝した後の記者会見で、酒井主将は「(決勝から得たものは)何もなかった」と語った。自分たちのやりたいサッカーを犠牲にして、結果を得るための戦いであったと。その後、浦和は攻撃スタイルを志向した。だが、アンジェ・ポステゴグルーの横浜FMや風間八宏の川崎がそうであったように、勝ち負けを超えて自分たちのスタイルを追求していく姿勢は今の浦和にはない。それでは確固としたサッカーを確立することはできない。正念場を迎えているといえる。

 

 

 

田村修一(たむら・しゅういち)
1958年千葉県千葉市生まれ。早稲田大学院経済学研究科博士課程中退。1995年からフランス・フットボール誌通信員、2007年から同誌バロンドール選考(投票)委員。現在は中国・体育週報アジア最優秀選手賞投票委員も務める。

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