J論プレミアム

0‐7の処方箋(海江田哲朗)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

来年、この借りはきっちり返したいところだが、新潟は昇格まで突っ走っちゃいそうである。

 

0‐7の処方箋(海江田哲朗)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]五十五段目

 

■放心して帰る新潟取材

歓喜に沸くオレンジと沈黙の緑。スタジアムに響く盛大な拍手で、耳の奥がぼわんぼわんする。次から次へとゴールネットを揺らし、これほど面白いように得点できればそりゃ楽しいだろう。

3月27日のJ2第5節、東京ヴェルディはアルビレックス新潟のホームに乗り込み、0‐7の木っ端みじんにされた。かつて東京Vで10番を背負った、アカデミー育ちの高木善朗にキャリア初のハットトリックを決められるおまけ付きだ。

ただの大敗ではない。前節、ツエーゲン金沢に2‐4とボコボコにされてからの連敗だ。得点できなくなった一方、失点が倍々ゲームのように増えている。順位は自動降格圏の20位に落ちた。

いくら相手が首位に立つ新潟とはいえ、負け方ってもんがある。久しぶりにガツンときた敗戦だった。自慢じゃないが、J1では6、7失点の惨敗は何度もあった。しかし、J2に降格してからは記憶にない。2007シーズン、7連敗となった水戸ホーリーホック戦の1‐5に匹敵するインパクトである。好きこのんで現地に赴き、ひどい目に遭ったと嘆くのはいかにも勝手な話ではあるのだが。

放心状態でオンラインの取材を終え、ビッグスワンからバスに乗って新潟駅まで。気づいたら駅前の『富寿し』で寿司を食べていた。極度のショック状態は味覚を奪うなんて話もあるが、そんなことはなかった。美味いものは美味い。勝っていればもっと美味かったかもしれないが、そんな仮説は立てるだけ虚しくなる。

もう用はないし、帰るかと駅に向かう。エスカレーターの乗り口で黒い群れと鉢合わせ。目の前に永井秀樹監督がいた。うつむいて歩いていたからまったく気づかなかった。「おつかれさまです」と挨拶し、長いエスカレーターで運ばれていく数十秒の気まずさよ。

土産物の店で時間をつぶし、チケットを予約していた新幹線に乗った。あとは何も考えなくても家まで着ける。

その日は風呂に入って寝るのみだ。いつもはラジオを聴きながら入眠するのを楽しみにしているが、ほぼ即寝、スイッチが切れるように落ちた。

 

■心の切り替えに四苦八苦

明朝、のそのそ起き出して、テレビのワイドショーをぼんやり眺める。気は進まないが、どうせやらなければいけないことだしと、新潟戦の失点シーンをはじめ、気になった部分をDAZNで見直した。ビッグスワンの惨劇が鮮やかに甦り、頭がくらくらして昼寝。日が暮れかけてからマッチレポートを書き出し、四苦八苦しながら仕上げた。

さあ、勝負はここからである。僕は心の腕まくりをした。

新型コロナウイルス禍の日々で培ったセルフマネジメント。いかに感情をコントロールし、気持ちを立て直すか。すべてはこのときのためにあると言っていい。0‐7はちと予想外だったが、なんのこれしき素早くリカバーしてみせるわと。

手始めに、エンタメに逃避した。Netflix、Amazonプライムを起動し、目をつけていた映画を観始めるが、全然ストーリーが頭に入ってこない。観る側のパワーを要するドキュメンタリーはもっとダメ。ゲームに手を伸ばしたが、これまた集中力を欠き、すぐにコントローラーを放り投げた。

外に出て、たまたま定食屋で会った知り合いの緑者は「もう何も信じられなくなりました」と、いい泣きを入れていた。ほれぼれするような文句なし100点の泣きである。以前は近所に住むサポーターと集まって、「きっついゲームでしたね~」とうさを晴らせたが、いまのご時世でその手は使えない。ここにいけば誰かいるという場所を持つ人は幸せである。

 

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