アニメコラボはJリーグに何をもたらすのか?FC岐阜の場合
かつては『アニ×サカ!!』なるプロジェクト名を立ち上げ、各コンテンツホルダーとJクラブはあえて“キワモノ”感を醸し出しつつアニメコラボ企画に取り組んでいた。しかしアニメ、ゲーム、ライトノベルといったサブカルチャーが一般にまで浸透していくにつれ、特殊性を主張する必要もなくなり、ごく自然にコラボイベントのひとつとして実施されるようになってきている。そんなアニメコラボの現状はどうなっているのか、そして今後アニメコラボがどのように発展していくのか。人気のライトノベル作家にして熱烈なサポーターである白鳥士郎先生がマイクラブであるFC岐阜の富田弘紀ホームタウン・販売チーム担当を直撃し、アニメコラボの深層を探った。
▼痛ゲーフラのサポーター
こんにちは。ライトノベル作家の白鳥士郎と申します。普段はサッカーの記事ではなくて、ラブコメ小説を書いています。
『のうりん』『りゅうおうのおしごと!』というアニメ化作品を通じて、FC岐阜さんとは5年間にわたってコラボをさせていただいています。
それ以前は、学生時代に陸上競技をやっていたこともあり……どちらかというとサッカーは「陸上競技場の使用権を争う存在!」という認識でした。フィールド競技である走高跳をやっていた者としては、夕方になると『サッカーゴールを出したいから早く終われ圧』がすごくてな……。
その認識が一変したのは、初めてのコラボでスタジアムを訪れた時。
3対0で東京ヴェルディさんに完勝した試合内容が素晴らしかったのはもちろんですが、それ以上に、少しでもコラボを盛り上げようと自作の痛ゲーフラを用意してくれたサッカーファン・サポーターの存在と、一体感のある応援に痺れました。
それ以来、自分の作品のコラボグッズを身に付けてゴール裏で声を張り上げる日々が始まったのです。
アニメ好きサッカーファンとしてコラボそのものが嬉しいのは確かですが、作家としても平均で約6,000人ほどが集まるスタジアムで自作をPRしていただけることによってその恩恵にあずかり、助かっているというのが正直なところです。
アニメ化された作品といえども、常に宣伝に力を入れてもらえるわけではありません。そのため私は普段から自作の将棋駒のコスプレ姿をSNSにアップするなどして、草の根的に宣伝活動を行ってきました(『りゅうおうのおしごと!』は将棋を題材にした作品のため)。
そう、新聞や雑誌、ネット記事などでも度々取り上げていただいているFC岐阜のアニメコラボは、その宣伝効果も大きいと感じられるスケールで展開されるものなのです。
そして何よりも、作品のファンとスタジアムで直に接することができる機会というものは、普段は仕事場に引きこもって仕事を続ける作家にとっては意外に希少かつ貴重なものなのです。
とはいえ、宣伝効果というものはなかなか数字に反映しづらいのも事実です。
サッカーコラボを行ったから本が何冊売れたとか、アニメが何回ダウンロードされたとか、そのあたりはどうしても曖昧になってしまいます。
そこで、クラブ・作品双方がコラボイベントで利益を上げるために重要になってくるのが『グッズ』です。
試合やイベントを優先的に見ることができるコラボチケットも販売しましたが、収益化の柱は間違いなくグッズです。
タオルマフラーやユニフォームといった定番のサッカーグッズに加え、コラボイラストを使用したアクリルスタンドやキーホルダーといったこちらもアニメグッズの定番商品を限定で販売することにより、安定した収益と集客効果を上げることができていました。
ただ……昨年の2018シーズンでは、アニメコラボとはちょっと違ったグッズが売り出されることになったのです。
▼どういうことなの? まさかの展開
「実は、白鳥先生をグッズ化したいと考えています」
ええ……?
絶句する私の不安を感じ取ったのか、FC岐阜の担当者の方は、こう続けました。
「絵柄は2種類あるので、どちらか好きな方を選んでください!」
ええ……?
そこには、将棋駒のコスプレをする私のイラストが本当に描かれていました。しかも2種類。どういうことなの……。
前述の通り、2018年にコラボさせていただいた『りゅうおうのおしごと!』という作品は将棋を題材にしていたため、私は自分で作った段ボールの巨大な将棋駒を使ってSNSなどで作品をPRしていたのですが、それに目を付けたFC岐阜側が「キーホルダーを作って売ろう」と言い出したのです。
そうして出来上がったのがこちら。
最初に思ったのは「デカくて使いづらそうだな」でした。そして思ったよりたくさん作ってしまいました。困惑しかない。
コラボを取り仕切るアニメの製作委員会からも「これはアニメグッズじゃないんで白鳥さんがクラブと直接やり取りしてください」と丸投げされる始末……。
しかし蓋を開けてみれば、グッズの中でこの駒キーホルダーが真っ先に完売してしまいました。どういうことなの……。
いったいFC岐阜はどこへ向かっているのか? というか、このまま任せてたら今年もまた変なグッズを作ろうと言い出すんじゃないのか?
そこで今回は、グッズ担当として、そしてアニメコラボにおけるFC岐阜側の窓口として携わってくださっている富田弘紀さんに、直撃インタビューを敢行しました!
――まず、どんなグッズを作るかは、どうやって決めてるんですか?
富田弘紀:一つは、定番でやらせていただいているタオルマフラー。サッカーの応援アイテムとアニメをコラボするというところです。
――逆に、定番を外れたところだと?
富田弘紀:昨シーズンの『りゅうおうのおしごと!』コラボでいくと、掛け軸。
――掛け軸! ありましたねぇ。アニメグッズのメーカーさんでも作らないくらい立派なやつを作っちゃいましたよね(笑)
富田弘紀:ちょっと、まあ……将棋が題材のアニメなので、作品の内容に合わせようかな、と(苦笑)。
――なるほど。サッカーの定番アイテムにアニメをコラボさせるのと、逆にアニメの内容を吟味して、それに合ったグッズを作る。この2つの発想でアイテムを決めているんですね。
富田弘紀:そうですね。
――ペンライトなんていうのは、どうなんでしょう? あれはもともと『のうりん』コラボの時に作って、それがいわば逆輸入的な形で、サッカーの応援グッズとして定着していった感じだったと思うんですけど?
富田弘紀:当時、私はアニメコラボに関わる前だったので詳しくはわからないんですが……それでもあの時、ペンライトが真っ先に完売したということは聞いています。
――Tシャツとか生卵(!)とか、いろいろ売り出した中で、ペンライトが一番人気だったと。
富田弘紀:その後、アニメファン以外の方々から「応援グッズとしても(ペンライトを)出してよ」という声が非常にたくさんありまして。それで定番の商品化に繋がったということは聞いています。
※手前のイラスト入りのものが、FC岐阜で初めて販売されたアニメコラボペンライト。その後販売された一般向けのペンライトは3種類あった。緑に輝くペンライト応援は、鵜飼いと共に岐阜のナイトゲームの風物詩である。
▼アニメの応援がサッカーの応援に波及!
――なるほど! アニメファンの応援の仕方が、サッカーに波及したというか……。
富田弘紀:そういう流れですね。
――コラボグッズというのは、当たり外れは大きいんでしょうか?
富田弘紀:あはははは(笑)。そうですねぇ……タオルマフラーなんかは定番物で、サッカーのファンの方も買っていただけるし、アニメファンの方にも両方買っていただけるので数は出るんですけど……。
――はい。
富田弘紀:でもそういう定番を外れたものになると……。
――掛け軸とかね(笑)
富田弘紀:掛け軸とか(苦笑)。サッカーのファンの方には訴求しないという中で、そこが……本当にアニメのファンの方にとっても必要だったのか? というところで、どうしても左右されてしまう部分はあります。
――客層としてですが、アニメコラボをやると、サッカーには全く興味を持たないアニメそのもののファンの方がスタジアムにいらっしゃるということはあるんですかね?
富田弘紀:もちろんです。それがきっかけでスタジアムに足を運んでくださることもありますし、グッズ売店に立って話を聞いていると「今日は鹿児島から来ました」とか「福島から来ました」とか、アニメコラボのために遠方からわざわざ足を運んでくださる方もいらっしゃるので、そういう方々が集まる切っ掛けになっているのかな、と。
――私もグッズ売り場に立たせていただいて販売のお手伝いをさせていただいたりもするんですが、逆に普通のサッカーファンの方々から拒否反応が出てしまうようなこともあるんじゃないですかね?
富田弘紀:どうなんでしょう? 最初『のうりん』でやった時の反応を、私は体験していないのでわからないのですが……ここ最近のアニメコラボは、もう普通のお客さんにも受け容れられているという印象を、個人的には持っています。
――みんな慣れちゃったと(笑)
富田弘紀:そうですね(笑)。FC岐阜自身がいろいろなイベントをやるようになったので、その一環として捉えていただいているのかもしれません。
――なるほど。
富田弘紀:何もやっていない中で、そこだけ持ち上げるというか、力を入れすぎてしまっていたら「なんでそれだけ……」という印象を抱かれてしまうのかもしれませんが、他にも様々なイベントをやっていますから。
――確かに『白山ダービー』や『木曽川の戦い』など、近年は様々なコラボマッチを行って、その度に記念グッズを作っていますからね!
富田弘紀:はい。
――ところで……アニメファンというのは、客単価として見たら、どうなんでしょう?
富田弘紀:そこがですねぇ……すごく、高いんです。
――やっぱり(笑)
富田弘紀:そこが、コラボグッズを毎回タオルだけで終わらせない理由なんです。やはり限定感のあるグッズを……FC岐阜でしか買うことのできないグッズを、ある種お金に糸目を付けない形でお買い上げいただけるので、たくさんのコラボグッズを出して、できるだけ客単価を上げる努力をしたいなと。
――それは前回の『ぎふマガ!』のインタビューでもおっしゃってましたよね。太いお客様を繋ぎ止めるために、矢継ぎ早にグッズを出していく戦略をとっていくと。
富田弘紀:おっしゃるとおりで、販売的に見るとそういう部分にもマッチした客層なのかなと。
――アウェイでのグッズの売れ行きは、どうなんですかね?
富田弘紀:『アニ×サカ!!』でコラボマッチをさせていただいている水戸さんでの売り上げは……近隣でよく物販に行く京都さんとか金沢さんとか松本さんとかと比べると、倍以上。
――倍以上! それはすごいですね。金沢さんとは白山ダービーのグッズを、松本さんとはギッフィーとガンズくんのマスコットコラボグッズなんかを作りましたが、それと比べてもアニメコラボのグッズはよく売れると?
富田弘紀:ただ最近は水戸さんとしかアニメコラボマッチをしていないので、それが水戸さんだからなのかアニメコラボだからなのかは、はっきりとはわからないんですが。
――なるほどなるほど。水戸のお客さんがヤバい可能性もあると(笑)
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