森マガ

川崎に手も足も出なかったり浦和に勝ったりと、なかなか分かりづらい(かもしれない)鳥栖の今

5月10日の浦和vs鳥栖を見たある報道陣の方からこんな質問を受けました。

「鳥栖ってもっと相手陣内に蹴り込んでくるんじゃなかったっけ?」

J1に昇格したのが2012年シーズンですから、11年が経過しているのですが、やはり最初の尹晶煥監督のサッカーの印象は強いようです。当時は前線の豊田陽平をめがけて右から水沼宏太が、左から金民友がアーリークロスを入れて1点を奪い、最後は5バックにして逃げ切るという必勝パターンがありました。

ですが2015年の森下仁志監督時代から少しずつパスサッカーに移行し、2016年のマッシモ・フィッカデンティ監督になってからはポゼッションを重視するようになっています。2018年途中に金明輝監督になってからは(2019年は5月までルイス・カレーラス監督が率いましたが、方向性がハッキリする前に解任)、一層戦術色が強いサッカーをしていました。

2022年に川井健太監督が就任すると、前年度の主力9人を抜かれているという状況の中、大胆にも攻撃側にチームを振るという大胆な采配で前半戦を乗り切り、後半戦は落ちたものの、「筆頭降格候補」の前評判を見事にはねのけています。

そして迎えた2023年、またしても主力選手が移籍してしまう中、5月7日の川崎戦を前に9試合を戦って3勝2分4敗、得点9失点13で15位と低迷しました。特に初戦のホーム・湘南戦で1-5という衝撃の大敗を喫してしまったのが大きく響きました。2022年が得点45失点44だったので、このままの割合で失点すると、例年ならば失点の危険水域である50失点が見えてきてしまいます。ちなみに、2021年は20チーム構成であったにもかかわらず失点35で、リーグ3位という堅守を誇っていました。大きなスタイルチェンジがあったのは失点数でよく分かります。

そして迎えた5月7日のアウェイ川崎戦、結果こそ0-1でしたがプレー内容について不安になる要素がたくさんありました。まず決定機はゼロ。攻撃がバラバラで得点のニオイがしない。突破力を発揮できる選手が本田風智と岩崎悠人ぐらい。タテに付けるボールが少ないか、早すぎてターンオーバーを招く。

川崎はケガ人が復帰して復調気味、しかも大雨でよりボールコントロールの正確性が求められる中での試合ということで苦戦は必至だったのかもしれませんが、それでもかなり厳しい内容だったと思います。

もっとも守備に関して言えば「ニセ4バック」というか、左SBに見せかけた菊地泰智が山根視来を抑えに行き、家長昭博には山﨑浩介が、宮代大聖に対しては田代雅也が着いて、川崎のリズムを作るサイドを崩していました。それでも家長のパスが宮代に寄せた田代の裏に抜け、攻守に活躍していた河原創が外してしまった脇坂泰斗に決められてしまったというのは、やはり差と言うしかありません。

脇坂はこの試合のMVPではないかと思うほど活躍していたので、決勝点を奪ったのは必然とも言えました。脇坂がゴールの前に腕でボールコントロールしたのではないかという意見もあると思いますが、VARが様々な角度の映像で確認しているはずですから、そこは問題ないと思います。

試合後、鳥栖の選手はそれぞれこんな話をしていました。

【小野裕二】

「そうですね、前半は結構守備の部分でも攻撃の部分でも、最後のところっていうのはちょっと合わない部分はあったんですけど、割と自分たちが思い描いてたゲームプランというか、できてたんじゃないかなと個人的には思います。まだ試合映像とかで見えてないんで、今自分のその終わった後の体感ではあるんですけど。後半ちょっと外から見て川崎がやっぱりやり方を変えていくと、どんどん前にリスクを冒して出てくるっていうところで、そこでうまくはめられて、2次攻撃、3次攻撃っていうのが、多かったのかなと思います。そこを跳ね返す何かっていうのが、課題かなと思います。

あとは、もうちょっと前半なんか特に川崎の守備のブロックを一つくぐった後のそっからのスピードというか、相手は結構シンプルに、マルシーニョ選手に入ったらスピードアップするっていうのがすごい迫力がある攻撃ですけど、それはうちはそこまでは行けるけど、それから行くときの、行かないときはもちろんありますけど、行くときのその迫力っていうのをもうちょっとチームとして出せれば、もっともっと圧がかけられていい形ができんのかなと。

今日のゲームっていうのはもう終わってしまったので取り消すことはできないんですけど、2日後に試合があるっていうのは、サッカー選手やってる僕らにはすごい幸せなことですし、浦和も昨日ACL戦って優勝して、やっぱアジアの一番ですごいことだと思いますし、そういう素晴らしいチームと、あのスタジアムでやれるっていうことはすごいいいことだと思うんで、そこでどれだけ自分たちが、自分たちのサッカーをできるかっていうところが大事になってくると思いますし、本当にしっかり回復して、体の部分もそうですけど、メンタルのところというのをしっかり整理して次に向かっていければいいかなと思います」

【朴一圭】

「前のマリノス戦からですけども、かなり自信持ってみんなレベルアップして、自分たちでいいシーンをたくさん作れたと思っているので、そこは本当にフロンターレ相手でもやれるんだろうところがすごく良かったところなんですけど、後半逆にフロンターレが少しスイッチ入れてプレッシャーをかけてきたときに、チームでイレギュラーが起きてしまってボールを前進できないシーンが何回かあったんで、そういうときにどうやって次相手の裏をかくのかとか、対策されたものに対してどうやって上回っていくのかっていうところを、チームとして少しずつしていければ改善されると思います。

でもちょっとシュート少しあったかなと思うんで、こういうスリップして難しいピッチ状況だと、やっぱり事故が起こるから、GKからすると。失点にしても、要はそんな感じでスローインでね、ちょっと風もあって、いつもとは違うような対応になるんで、そういうところでしたたかさみたいなものをちょっと一つ二つ、みんなが頭に意識入れながらプレーしたりしても面白いのかなと思います。

全体的に見て、正直全然悲観するゲームじゃないかっていう、ただもう負けてしまったんで、この世界でそれがもう全てなんで、これをどうするかっていうところをしっかり、次、中2日で試合が来るので、自分たちのスタイルっていうのを崩さずにやっていきたいなと思っています。

ACLの決勝は自分も昨日の試合拝見させてもらってめちゃくちゃ興奮しましたし、同じJリーグのチームとしてすごく誇りに思う相手と戦えるのはうれしいです。そして水曜日は試合ウチらだけっすよね、また注目のある中でゲームができるっていうところで、自分たちのサッカーがどういうものかっていうのを全国のサッカーファンの方々に見せられるチャンスだと思うんで、今日みたいな勇気とか自信を持った上でしっかり次は勝てるように、しっかりアジアチャンピオンにしっかり勝てるように、本当にもう時間がないのでメンタル的なところと頭のちょっとした疲労みたいなものをしっかりみんなで取ってから迎えればなと思ってますございます」

【田代雅也】

「完全に僕のせいで勝点失っちゃったと。宮代の存在もありますけど、エリアを守る守り方できたと思って。終わってから何とでも言いますけど、そうそうところはまだまだ足りない部分だと思います。ビハインドになってからですけどとったセットプレーでも(ゴールを)入れられる部分もあるんで、僕がターゲットになっているチャンスで、何とかネットを揺らす作業っていうのをもっと僕自身もしなきゃいけないのかなとは思います。

岩崎と長沼の特長を生かせるシーンもありますし、あとは相手の最初のプレッシングを剥がしたところで、ハーフラインを越えて前に届けてからの攻撃っていうのは、課題というか。もうちょっと大胆さと繊細さというか、これは多分ずっと言われてるんすけど、そこがまだまだもう足りないのかなと思います。

それぞれの選手が特長を生かせるような形を、去年もそうですけど、監督が取ってるんで、その意味では全体としての特長っていうのは、ちょっとずつ変わっていってるのかなと思いますけど、ただ、基本的にやりたいことっていうのは、変わってないんで。ワイドにいかにクリーンにボールを届けるかっていうところと、彼らがどれだけ気持ちよくアタックしてもらうかというところが大事だとわかっていても、相手も対策してるので、僕たちはどう剥がしていけるかっていう作業がもうちょっと必要なのかなとも思います。

また後ろが守ること、今日みたいな試合でバーに助けられてるし、GKに助けられるシーンもありましたけど、すごい決定機っていうシーンがそんなにない中で、あそこで行ってやられちゃったっていうのはスキだったと思いますし、後ろがゼロで耐えながら前の選手に勇気を与えるっていうことがすごく大事だと思うんで、毎試合、めちゃめちゃ同じようになっちゃいますけど、ただこれやり続けるしかないと思って粘り強く自分の課題と向き合ってやっていくだけかなと思います。

僕らの守備、相手陣地は攻撃っていう概念があるので、そこの部分でいかにボールを刈り取って届けるかっていう部分で僕らの良さが出る形っていうのが今日の守備の、今日はあの守り方がいいっていう判断があって、崩されたっていうシーンはあんまりなかったと思うんですけど、逆に簡単に取られてショートカウンターくらうシーンがありましたけど、全体通して、狙い通りにできたのかなと思います」

 

鳥栖はそのまま佐賀に帰ることなく、関東で調整していました。そして中2日で迎えた10日のアウェイ・浦和戦。アル・ヒラルとの激戦の後で、さすがに浦和は疲れていたと思います。そのため攻め急ぐ場面が目立ち、それが鳥栖を助けていました。また鳥栖の選手は川崎戦に比べると、相手がシュートを打つ場面で必ず飛び込み、体に当てて防ぐという粘り強さを見せていました。

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