【短期集中連載】2021年サガン鳥栖のサッカー その4 落とし込み(最終回)
ここまでで守備・攻撃におけるコンセプトを分析してきましたが、もっと大切なのはこの理論をどうやって選手に落とし込んでいたか、です。
残念ながら新型コロナウイルスの影響もありトレーニングを見ることはできませんでしたし、実際にどのような指示が行われていたかについては、本当はピッチの中に入って指示を出されていた選手と一緒に聞かなければならないでしょう。
ですから、ここではいろいろな話を聞いていった中で、どのように1週間のタイムテーブルが設定されていたかということに絞って記述しておきたいと思います。もちろん、話を聞いただけなので実際とは違うかもしれないのですが、複数の声の最大公約数を記載しておきたいと思います。
【1.レギュラーは週休2日だった】
鳥栖というと、すべての選手がインテンシティの高いサッカーをするというイメージがあると思います。実際にチーム平均の走行距離を調べても、2019年こそ9位だったものの、2020年は2位、そして2021年も2022年は4節を終えた時点までトップです。
シーズン前には3部練習、4部練習などという鍛え方をしていたこともあって、鳥栖は休みなくトレーニングを行い、選手をずっと鍛え続けているのではないかという感じがする方もいらっしゃるでしょう。ですが、そうではなかったようです。
試合翌日)先発組はクールダウンのみ。残りはトレーニングマッチで、試合のベンチスタート組は60分程度、他は90分を目安にプレー
試合の翌々日)休養日
ということで、実はしっかり休みを取り、回復していたおかげで次の試合でも高いインテンシティを保つことが出来ていたようです。
【2.練習の組み立てはプラス思考からスタート】
では1週間の組み立てはどうなっていたか。毎週土曜日に試合と仮定した場合、こうなります。
(土)試合日
(日)トレーニングマッチ
(月)休養日
(火)トレーニング1
(水)トレーニング2
(木)トレーニング3
(金)試合前日
—————————–
(土)試合日
この場合、試合前日は翌日に疲れを残さないため比較的軽めの練習とセットプレーなどの確認というのはどのチームも同じだと思います。
そのため、次の試合に備えるのはトレーニング1〜3までの3日間になります。この組み立てはいろんなチームで違いがあります。たとえば、
トレーニング1:個人とグループの調整
トレーニング2:チーム全体のコンセプトの確認
トレーニング3:対戦相手の特徴に合わせた攻守のポイントの確認
とやっているところもあれば、代表チームだと現在は、
トレーニング1:集まった選手のコンディション調整
トレーニング2:前日から来ている選手はコンセプトの確認とこの日来た選手はコンディション調整
トレーニング3:(試合前日公式練習1時間)
と、全体で練習できるのは試合前日のみという状況です。
では2021年の鳥栖はどうやっていたか。
トレーニング1:ビデオを使った試合の反省とボールポゼッションゲーム
トレーニング2:相手の守備の特徴に合わせた攻撃のトレーニング
トレーニング3:相手の攻撃の特徴に合わせた守備のトレーニング・戦術の確認・セットプレー
試合前日:ほぼ軽めのスモールゲーム
だったということです。
ここでの特徴は、トレーニング1のビデオを使った試合の反省では、ほとんどが試合のよかった部分の説明だったそうです。また、負けた試合の後はビデオを観ないこともあったということでした。
この点は、次の試合に向けて集合したときに重い話をするのではなく、気分を高揚させようとしていたのではないかと思います。
【3.攻撃>守備でトレーニング】
鳥栖と言えば「堅守」ということで、てっきり相手の攻撃を分析して守備の対策を練る時間が多いのではないかと思っていましたが、実際は違ったのかもしれません。
というのもトレーニング2は相手の守備の特徴に合わせた攻撃の練習ばかりをするのですが、トレーニング3では相手の攻撃の特徴への対策とともに、セットプレー、戦術の確認など他のメニューも組まれていたということです。
つまり攻撃のほうに重点を置き、守備には自分たちのコンセプトを微調整して対応していたということでしょう。そして得点を奪うことで勝点3を拾って順位を上げていくというリーグを戦い抜く戦略が見えます。
【4.不明な点】
ここまでの説明は大枠での話であって、実際は選手のコンディション、相手の戦術やタイプなどによって微調整があったものだと思われます。
たとえばスモールゲームにしても、そのコートのサイズの大きさ、人数、ルールを変更するだけで鍛えられる部分が違ってきます。狭いコートで行えば瞬間的な判断力やボールコントロールが向上しますし、広いコートで行えば走力が上がります。
ですので、その微調整を何を見ながら行っていたのか、そのファクターが明らかでないので、メニューは想像できても、どこに問題点を見つけて改善していたのかは分かりません。
そしてその点こそが監督が持っている「ノウハウ」です。他にもそれぞれの監督にはいろんな「技」があります。金明輝監督ではないのですが、ある監督は選手に「あと30秒!」と言いながら50秒やらせて持久力を付けさせたり、「この1本で最後!」と言いながらコートを狭くして強度を急に上げたりという「技」を使っていました。
そのため、このメニューからだけでは「ノウハウ」も「技」も分かりません。
ただ1つ言えるのは、金監督は分析力と調整力に優れていた監督だった「だろう」ということです。そうでなければ、2回もシーズン途中でチームを引き継ぎ残留させることは出来なかったでしょう。特に2018年、マッシモ・フィッカデンティ監督から引き継いだときは、率いた5試合を3勝2分としてJ1残留を決めています。
この連載の1回目でも書きましたが、もしこのまま金監督が指導の現場に戻らなければ、その「ノウハウ」はすべて消えてしまいます。最低2年間はJクラブを率いることが出来ないという本当に厳しい処分が下されていますが、金監督には過去を省みて変えるべきところは変え、一刻も早くサッカー界に再び貢献してほしいと思います。
そしていつか、私の分析が正しかったかどうか、話を伺ってまたレポートしたいと思います。