東本貢司のFOOTBALL Dungeon

クリスティアーノの”Heat of the Moment”【東本貢司 この際、ユナイテッド“偏愛”宣言】

英国プレミアリーグの黎明期、まだネットが今のように普及していない時代、数少ないリソースから現地情報や知識をかき集めた世代にとって、東本貢司の独特の筆致で展開されたプレミア論は特別な存在だった。
その頃から時代も流れ、日本人選手がプレミアでプレーするのも珍しくない時代に、往年のプレミアウオッチャーの眼は何を捉えているのか。フットボールを独特の視点で捉える筆者のペーソスやユーモアはまだまだ健在。しかも、今回の新連載では、「この際」と割り切り、やや、いや、かなりのユナイテッド偏愛を隠そうともしていないのだから興味深い。
あの東本貢司が長い沈黙を破りお届けするプレミア論の不定期連載の第2回。さて、今回はいったい誰が俎上に上がるのやら!?

 

『第2回 クリスティアーノの”Heat of the Moment”』

 

■「Siiiiiiiiuuuuuu」

もはや説明の必要もない、おなじみ“クリスティアーノ・ロナウド印”のゴールセレブレイションポーズーーー 人呼んで「Siu」。本人の証言によると、初めてこれがお披露目された記念の舞台は、レアル・マドリード在籍時の13年にプレシーズンでチェルシーと対戦したフレンドリーのピッチ上だったという。

後年、その意味とココロを問われてクリスティアーノは茶目っ気いっぱいにこう答えている。「思わず口を出たんだ、“Si”って。つまり“イエス、やったぜ”みたいな。とにかく、ごく自然に“Si”って叫んでた。わからない、どうしてだろうね」

すると、それを見たサポーターたちが声をあわせて“Siiii!”。さらにさらに“クリスティアーノ、Siiiiiiiiuuuuuu!”に増幅。
「ワオ、これぞクリスティアーノそのものだってみんなが思ってくれてるみたい。じゃ、ずっとこいつでいこう、って」

ちなみに、あの、ジャンプして大股開きに着地、ボディービルダーっぽく両腕を構えるポーズのことには特に言及がない。発声ともどもセットで“ごく自然な”所作ということなのだろう。かくして、すべて込みで「Siu」と呼ばれることになったゴール・セレブレーション。

以来、ユーヴェ・サポーターはもちろん、特に少年ファンの世界でこの“トレンド”は瞬く間にブームと化し、一部テニスの試合でも“模倣犯”が続出するなど、スポーツジャンルの垣根を超えて拡散し続けてきた。その「クリスティアーノの Siu」に、突然、ひとまずピリオドが打たれた。飛躍の足がかり、世界に大々的に名を売ったキャリアの原点、その“懐”しーーー思い出が有り余るクラブ、にて。

 

■節目の700点メモリアル弾

10月9日のアウェイ、エヴァートン戦。ロナウドの登場機会は、アントニー・マーシァルの故障という(どこか予定調和のごとき?)不測の事態を受けて、ざっと「一時間ほど前倒し」でめぐってきた。筆者の目には、その瞬間のロナウドの表情がことのほか“無邪気なほど輝いて”見えたものである。

はたして、少々気を持たされたとはいえ、絶妙のタイムラグ、つまりゲームも押し迫った終盤、ほかならぬ“盟友”カゼミーロのロングフィードにごく自然に反応、苦も無く、名手ピックフォードの右手をかすめるように、待望のシーズン初、そして節目のキャリア通算700を数えるメモリアルゴールをゲットした。

そう、700という、“ゆかり”の数字。ロナウド再入団に際してしぶしぶカヴァーニが返上させられた、ユナイテッド伝統のエースナンバー(カヴァーニは後に「冗談じゃないぜ!」と内心憤慨していたという)。だからだったのか、「Siu」をひとまず棚上げして、まったく新しいセレブレーション・ポーズをひねり出したのは?

ゲーム翌日、なんとも異例なことにまずクラブから“説明”があった。曰く「このところ、ロナウドは、トップコンディション調整のために、可能な限り休息をとるようにしている。具体的には、日中でも可能な限り小まめに仮眠をとって回復力アップに努めている。エヴァートン戦でのあのポーズは、それをやや自虐的かつ面白おかしく凝縮したもので・・・・」。

かくて、あの「やや体をそらしてリラックスして立ち、どこかおどけ気味の微笑を浮かべながら目を閉じ、おごそかに両手を胸の前で組む」メモリアルポーズがベールを脱ぐことに。

それをまた、”いちの子分”を自認(?)するアントニーが、すかさず駆け寄って脇に並び立つと、お追従で完全コピーで祝福。ちなみに、以上の“ポーズ解説”はあくまでクラブ筋からの“発表”によるもので、本人は弁ではない。次回以降、これが定着するかどうかは神のみぞ・・・いや、本人の気の向くままに!?

さて、これでロナウドのゴール量産劇が始まるのかと思いきや、またしても不穏な“負のウワサ”の幕が開いてしまった。

続く、ELの・オモニア戦はフル出場だったが、敵キーパーの活躍とその“触れ合い模様”が少々話題をふりまいただけで、何事もなく終了。引き続き先発スタートのニューカッスル戦こそはと期待させたが、不発に逆戻りで72分に途中交代。試合後、妹の“小姑”エルマ・アヴェイラ嬢が「あれ(監督の采配)って(兄貴に)失礼じゃないの?」と文句を言ったとか言わなかったとか。

 

■「Heat of the moment」

そこで、「決裂の前触れか」とメディアが騒ぎ立てるわ、リオ・ファーディナンドやギャリー・ネヴィルが眉をしかめるわ、でも、いつもなら癇癪をおこすロイ・キーンだけは「あいつの気持ちもわかる。テン・ハフにはもうちと考えてもらわなきゃ」とめったになくいたわってみせた“小コント”を挟んで後、問題の「終了間際の出場拒否・勝手に無断退場」なる、重大な規律違反をしでかすスパーズ戦とあいなったのだったが・・・・。

確かに非はロナウドにある。ほぼ、問答無用。キーノのように「それくらいの実績とプライドの持ち主なんだからさ」などと悠長に構えていられるものじゃない。メディアは“総立ち”状態で「シーズン末、いや、今年いっぱいで退団は必至、受け入れ先探しだけが課題」・・・・とかなんとか、もう「決まったように」決めつける始末。

筆者、正直、うんざり気分で呆れ果てた。あ~あ、どうせまた「焚きつけるだけ焚きつけておいて」後は知らんぷり、今更どこもロナウドを欲しいと手を挙げるわけでもあるまいにと、百も承知のくせに!?

ちなみに、ロナウドは当日のうちにSNSにて広く謝罪の意を表明している。意外なほどの“長文”で。その中に、こんなフレーズが象徴的に登場する。

「Heat of the moment」ーーーロナウド曰く「瞬間、カーっとなっちゃって」!

ふ~ん、そういえばキーノにも似たような“激情”事件があったっけ。2002年日韓W杯直前のキャンプにて、監督ミック・マッカーシーと激しい口論の末の「ぷいっと無断帰国の大会放棄」という前科が。なら、ロナウドの身勝手を責めるのは憚られてもやむなし、か。あのとき確か、キーノは自宅に帰り着いたその足で愛犬と散歩に出たんだったな。なんのかんの言っても、気まずさと後ろめたさってやつは拭い切れるはずもないんだし。

ふと、いつか、ロナウドに訊いてみたい衝動にもかられる。
「ねえクリス、君、ロイ・キーンの例の事件のこと、ひょっとして覚えてたなんてこと、ある?」

なお、蛇足ながらこんな“些細”な後日談を少々。最新のウエスト・ハム戦キックオフ前、某TVの実況・解説陣とばったり遭遇して挨拶する段になった際のこと。そのメンバーとは、元ユナイテッドのルイ・サハー、キーノに、同局専属レギュラーのジェイミー・レドナップとギャリー・ネヴィルだったが、ロナウドは順にサハー、キーノ、そしてレドナップと握手とハグをかわしたが、ネヴィルとは目を合わせず、徹底無視を決め込んだという。

苦笑いのギャリー曰く「私がスパーズ戦の一件を酷評したからだろう。それにしても、元同僚に対して“ガン無視”で握手ひとつ無しなんて、ね!」
・・・・次に会う機会には、是非とも仲直りのハグから始めて欲しいものだが?!

 

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