東本貢司のFOOTBALL Dungeon

サウスゲイトの意気と男気【東本貢司 この際、ユナイテッド“偏愛”宣言】

英国プレミアリーグの黎明期、まだインターネットなど限られた用途でしか使われていない時代、数少ないリソースから現地情報や知識をかき集めた世代にとって、東本貢司の独特の筆致で展開されたプレミア論は特別な存在だった。
その頃から時も流れ、日本人選手がプレミアでプレーするのも珍しくない時代となった。そんな昨今のプレミアリーグをプレミアウオッチャーの大先達の眼にはどのように映っているのか。フットボールを独特の視点で捉える筆者のペーソスやユーモアはまだまだ健在、しかも、今回は「この際」と割り切って、やや、いや、かなりのユナイテッド偏愛を隠そうともしていないのも興味深い。
あの東本貢司が長い沈黙を破りお届けするプレミア論の不定期連載、さぁ、いったい何が飛び出すのやら!?

 

『第1回 サウスゲイトの意気と男気』

■妙な使命感フリーのゆる~い空気

UEFAネイションズリーグ22-23 の「セカンドフェイズ」が、思い出したように始まり、そしてあっけなく幕を閉じた。ただ、特に今回に限っては2か月足らずでワールドカップがめぐってくるとあって、何かとツッコミが多いのが厳然たる事実。前評判も何もかもひっくるめてさっぱり盛り上がる気配がないーーーそう、なかった。

早くからベルギーのデ・ブルイネあたりは「どう言い繕おうが所詮は練習試合」と半ばうんざり諦め上の空の心理状態だったし、リヴァプールの将クルップにいたっては「世界一無駄で無意味な大会」とすっかり苦り切った体。ただでさえプレーヤーたちのコンディション調整が大変なのに、わざわざここに詰め込んでくる(UEFAの)神経を疑いたくなるのもよくわかる。

ただし、この際ワールドカップのウォームアップとでも受け止めるしか“しゃ~ない”か・・・・という、ゆるダル~い空気の中で、各代表監督にしてみれば「むしろ好都合」と前向きに割り切れないでもなかったろう。特に、今となっては幻のような6月の「ファーストフェイズ」の結果(2分2敗のグループ最下位)を踏まえて“妙な使命感”を忘れてしまえる(はずの)、われらがスリーライオンズを率いるギャレス・サウスゲウトにとっては。

はたしてそのサウスゲイト、案の定というべきか! 小うるさいメディアや勿体付けた評論家たちが「おいおい」と眉間にしわを立てて食いついてくること必定の(実際、そうなった)、コントロヴァーシャル(物議を醸す)な動議の素(?)をさらりと投げかけてくれたものだから、筆者内心で小躍りしてしまってたものである。

ならばこの際、捻ってひねくれてまた裏読みを捻り倒してでも、“そのココロ”というやつを読み解いてやろうじゃないの、と!

 

■裏ををかくサウスゲイト流“深謀遠慮”

さて、サウスゲイトの満を持した“静かなる抵抗動議”とは何だったのか。このネイションズリーグ用にひねり出したメンバーリストに加えたのが「ハリー・マグアイアとルーク・ショー」であり、一方で「マーカス・ラシュフォードとジェイドン・サンチョ」を外したこと!・・・・といっても、事情に明るくない向きにはぴんとこないだろうか。

説明しよう。上記4名のいずれもが所属するマンチェスター・ユナイテッドは、今シーズン開幕から2連敗、それも格下のブライトンとブレントフォード相手に2戦合計6失点ゴールゼロの完敗、いや背筋も凍る惨敗を喫した。ところが、第3戦の大敵リヴァプールには終始リードしつつ快勝、そのまま続く3試合を人の変わったようなきびきびとした手堅い試合運びでものにして一気に上位浮上を果たした。しかも、その締め(第6戦)でねじ伏せたのは、開幕5戦無敗と波に乗りまくる宿敵アーセナルという、勇気百倍のおまけ付き!

この覚醒的大反攻で、特に攻撃の主役を担ったのが、ほかならぬサンチョとラシュフォードだった(ふたりで6得点の大暴れ)のだが、一方のマグアイアとショーときては、哀れ第3戦以降はベンチスタートが定着、ほぼ出番なしのまさに蚊帳の外・・・・。

念のために言っておくと、マグアイアは入団まもなく不動のキャプテンに指名されて以来ほぼ出ずっぱりにして、故障回復後プレミアでも一、二を争う名レフトバックとなったショーともども、チームに欠かせない顔役としてやってきた・・・・はずだったのに、である。

プロフットボールの世界は、才能以上に、経験、加えて個々のコンディション調整力、つまりフィットネスの如何こそが、実戦でものを言う。どんな名声と実績を積み上げようが、肝心要の当日の90分間、やれ走れない、走り負けてばかり、では、話にならない。

さらに、そこにもう一つ、心の問題、メンタリティーの良し悪しも絡んでくる。しかも、これは本人のみならず、周囲に及ぼす影響力にも関わってくる。端的に、最近どうも精彩がなく、細かいミスも目立ち、ひいては明らかに表情のすぐれないチームメイトには、理屈抜きにパスもためらいがちになり、そこでまた二重三重のミスが生まれて・・・・。

だからこそ、特に代表監督の場合、なによりも最近の好不調、および、所属での出場状況と内容を重く秤にかけて、メンバー選出とチーム構築を行わねばならない。なんとなれば、サウスゲイト自身、就任当初から一貫して、そして率先して、「所属でレギュラー」を(選出の)最優先条件と掲げてやってきた・・・・はずだったのだから。

その張本人が、目下絶好調のラシュフォードとサンチョを“軽視”、逆にマグアイアとショーを呼んだのである。すわ事件、まさかサウスゲイトは「この陣容で」カタールに乗りこむつもりなんじゃあるまい? そもそもイングランドには来年6月(あゝ、なんとも気の長い・・・・)のネーションズリーグの決勝トーナメントに勝ち上がる見込みなどなかったのだし・・・・。

 

■「夢の劇場の次期監督」の誘い

先に“結論”から。サウスゲイトの思惑、いや“信念”は“半ば劇的”に満たされた。配色濃厚の瀬戸際からほかならぬショーの追撃弾が生まれ、そこから宿敵ドイツを一度は青ざめさせる逆転劇にまで持ち込む意地を見せ、“本番”への希望をつないだ。

ふ~む、じゃ、もっと肝心なマグアイアの方は?

微妙・・・・いや、やはり“未満”というべきだろう。気力と実際のプレー、動きがどこかちぐはぐな印象で、最後の最後でハヴァーツに同点ゴールを許す元を作ったほどに。しかも、このゲームでハムストリングを傷めたとかで、以後ユナイテッドでは“引き続き”メンバー落ちのまま・・・・。それでも、サウスゲイトは「マグアイアは今も変わらず柱のひとり」と、涙ぐましい弁護の信頼を崩さないまま・・・・。

確かに、ストーンズの故障という問題もある。ダイアーの円熟味には期待してよさそうだが、コーディーやゲヒではどうしても経験の点で心許ない。ミングズ、さらにはターコウスキーの再招集という手もないわけではないが・・・・代役にはやはり物足りないか。

やはり、サウスゲイトの頭の中では「マグアイアがいてこそ」なのか?

そんなこんなをあれこれつらつらと思い悩むうちに、ふと、天啓のようにある“絵面”のイメージが頭を過った。あくまでも可能性。少々「先走りでかつ希望的観測すぎる」、サウスゲイトの心の奥底にとりあえず一度は芽生えたこともあるに違いない、ひとつの「未来」のカタチ!

耳ざといイングランド通なら、ひょっとして聞きかじったことがあるかもしれない。ユナイテッドの「ポスト・スールシャール論」について、やれポチェッティーノだ、もしかしてジダン、思いっきり捻ってヴェンゲルという手も、とかなんとか侃々諤々だった頃、そう、まだテン・ハフという名前がやっと取りざたされ始めたばかりの頃、ごく少数の現地ジャーナリストあたり(だったと思う)が、それとなく、何気なく口にした名前。
「ギャレス・サウスゲイト」!

そこからの“想像力”といったら、もう勝手気ままに羽が生えてどこに向かうのか押さえも利かない。

そうか、サウスゲウトは「そこまで読んで」マグアイアに“道筋”をつけさせようとしているのだ、「その日まで」マグアイアに踏ん張っていてもらわなきゃ、あるいは「そのすぐ先」のブレーンとしても育ってもらいたい。ひょっとしたら将来の“後継者”にも!

なんとなれば、サウスゲイト自身、あのキャリア最悪の屈辱の記憶、時はユーロ96対ドイツ・準決勝での致命的なPK失敗から、長い時間をかけて這い上がってきた“宿命”の男。事情は何もかも違えど、同じ類の、同じ流れの“痛み”はよ~くわかっているはず。

少なくとも、サウスゲイトが、「今そこにいる悩めるマグアイアとその心持ち」にかつての自分をダブらせて見ている可能性は、どう考えても捨てきれるものじゃない!

あとは、マグアイア自身が「(サウスゲイトの)意気と男気」に感じ、何を誓い、何を成し、どう応えるか。そして、およそ近い将来、テン・ハフが入念に組み上げたレールを下敷きに、スリーライオンズ代表監督史にひときわ色濃い足跡をしるしたサウスゲイトが、満を持して“再登場”する日が来ることを、ひそかに夢に描いてみたいと思う。もちろん、天下の「夢の劇場」の新・総支配人として。

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