サッカーの羅針盤

公開サンプル版【ジュビ学】[第4回]ジュビロ的マルチロールとスペシャリスト

 

今回は「公開版」ということで、これまでの回より分かりやすいテーマを考えてみました。

「マルチロール」というのは直訳すると複数の役割ですが、サッカーでは基本的に複数のポジションを高い水準でこなせる選手のことです。

厳格な定義付けないですが、ポジションに限らない複数の役割を使い分けることは「マルチタスク」と呼ばれることが多いと思います。

さてジュビロ磐田で「マルチロール」と言うと真っ先に誰が浮かぶでしょうか。おそらく松本昌也か鈴木雄斗でしょう。

松本昌也は今シーズンだけでも3ー4ー2ー1(守備時は5ー4ー1)の左ウイングバック、シャドー、ボランチで使われており、そこに3ー5ー1の場合のインサイドハーフ、4ー4ー2の場合の左右のサイドバックが加わります。

鈴木雄斗は3ー4ー2ー1では右ウイングバックをベースにしながら3バック右もかなりの割合て使われ、左ウイングバックもこなします。さらに4バック時は右サイドバックと右サイドハーフで起用されます。

この二人のすごいのはマルチロールにマルチタスクも合わさることです。松本昌也は左のウイングバックでライン側のアップダウンからインサイドに流れてビルドアップに関わる動き、さらにハーフスペースを突いての飛び出しをこなします。

鈴木雄斗もウイングバックからタイミングよくボックス内に飛び出すフィニッシュが注目されますが、攻守に運動量が多く、高さを生かした空中戦はあらゆるエリアのハイボールで発揮できます。

この二人に比べると、小川大貴は少しスペシャリストの度合いは強くなりますが、ウイングバックまたはサイドバックを左右そん色なくこなすことができます。左右どちらにしても武器は高精度のクロスであり、松本昌也や鈴木雄斗に比べても1試合で上げるクロスの本数は多くなります。

守備の1対1にも強いですが、やはりサイドラインでの攻防に強く、アウトサイドのスペシャリストとしての度合いが強い選手です。

もう一人、アウトサイドで複数のポジションをこなせるのが20歳の吉長真優です。もともと2トップの一角でもプレーできるようなFWを本職とするタレントですが、マサくんのチームでは3ー4ー2ー1のシャドーとして期待されていました。そして伊藤彰監督にはウイングバックでのポテンシャルを見出されて、右ウイングバックが第一ポジション、左ウイングバックが第二ポジションのようになっています。

ただ、やはり彼はウイングバックと言ってもアウトサイドを上下動したり、後ろめでビルドアップに加わるよりも、ボールより前めに位置してパスを引き出し、そこからゴール方向に仕掛けたり、逆サイドからのクロスに飛び込んだりと言ったゴール目線のプレーが多くなるようです。そうした特性は4バックだとサイドハーフとして生かされやすく、伊藤彰監督もそうした起用を考えているようです。

そのほか、大津祐樹が3ー4ー2ー1のシャドーと1トップ、また2トップをこなせる一方で、大森晃太郎はシャドーとボランチ、3−5ー1ではインサイドハーフをこなすなど、大津よりも中盤よりのマルチロールとして重宝されています。新外国人のリカルド ・グラッサも左利きを生かして3バック左をメインとしながら、ウイングバックや4バックの左サイドバックもこなすなど、左のマルチロールとしての特性を持っています。

チームの中軸である遠藤保仁も3ー4ー2ー1のボランチをベースに3ー5ー2であればアンカーとインサイドハーフ、また第8節の湘南戦では3ー5ー1ー1のトップ下で相手のアンカーにプレッシャーをかけながら、攻撃では前目で起点になるという特殊なタスクを託されました。短い時間でしたが、非常に興味深い器用でした。

可変システム、複数システムを90分の中でも使い分けたい伊藤彰監督は、こうした選手たちの重要性を主張します。試合中の変化もそうですが、やはり夏場で体力的に厳しくなって来たり、けが人や出場停止、こういうご時世なのでコロナ禍のリスクもゼロとは言い難く、いろんな状況を想定してマルチロールを生かしていく必要があります。

しかし、同時にチームの全員がそうしたマルチロールである必要はないと語ります。FWでも杉本健勇やラッソはセンターフォワードが本職で、センターバック陣もリカルド ・グラッサのような選手がいたり、山本義道もバックラインなら中央、左右の全てをこなしたりもしますが、スペシャリストの度合いは強くなります。

マルチロール=スペシャリストとしての能力が無いと言うわけではなく、1つ絶対的な武器と言うのはあったほうが、幅広く戦術的に支えながら、必要なところでスペシャリティを発揮できることになります。たとえば鈴木雄斗は複数のポジション、戦術的な要求をこなせるマルチロール、マルチタスクの請負人でありながら、飛び出しでフィニッシュに絡むと言うスペシャリティでゴールに絡んでいます。

マルチロールとスペシャリストをいかに組み合わせて、チームとしてパフォーマンスを最大化できるか。試合やトレーニングを積み重ねながら、伊藤彰監督も選手の情報をアップデートして、引き出しの多いチームにしていく。もちろんできることを多くするだけでなく、質を高めることも大事で、ここからどう進化していくか。

言い換えると、進化していけないと上位進出はおろか、J1残留すら難しくなって来ます。筆者としても伊藤彰監督の手腕に期待していますし、ヴァンフォーレ甲府で3年目にチームの1つの成熟を見たように、できるだけ長く現体制での成長を見守って行きたいと思います。

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