WE Love 女子サッカーマガジン

雪国のトレーニング環境からWEリーグに必要な「共助」について議論してほしい(無料記事)

秋春制かつ財務基盤の強くないチーム(クラブ)が持続するために必要な仕組みとは

2025年1月8日から10日にかけて、新潟県内の気候は大荒れとなりました。上越や中越の山沿いを中心に断続的に雪が降り大雪となったところもあります。新潟聖籠スポーツセンター (通称:アルビレッジ)のピッチは真っ白に埋まりました。9日は屋根付フットサルピッチへ雪が吹き込み、全くトレーニングに使用できなくなりました。皇后杯 JFA第46回全日本女子サッカー選手権大会・準決勝が開催される1月18日()まで、アルビレックス新潟レディースはどのようにしてトレーニングを行うか、難しい選択を迫られました。

大雪と隣り合わせの豪雪地帯(今回の大雪とは別の日に撮影しています)

新潟市内の施設を借りて最低限のトレーニングを実施したアルビレックス新潟レディース

アルビレックス新潟レディースは、急遽、グランセナフットボールクラブの施設を確保。1月9日と10日のトレーニングを行いました。

今回は、グランセナフットボールクラブの執行役員・安藤徹さんに取材のご協力をいただき、雪国のトレーニング環境から「共助」について議論する題材を読者にご提供します。この機会に、ぜひ考えてみてください。

東京から新幹線で新潟に向かうと車窓は銀世界で覆われる

競合だけれど仲間、グランセナフットボールクラブから見た新潟のスポーツ環境

グランセナフットボールクラブは大人サイズのサッカーコートが2面、屋根付きフットサルコート2面・屋外フットサルコート1面の施設を構え、クラブ事業、スクール事業、施設貸出事業、保育園事業などを展開しています。スクール事業は単独拠点としては地域1番の規模で、プレーヤーの人数が約500人。クラブ事業ではジュニアカテゴリーから社会人チーム、女子部門では中学生以上のレディースチームや、小学生年代のガールズチームなど、クラブ生約350名の活動も行っています。

グランセナサッカースタジアム 写真提供:グランセナフットボールクラブ

同じ新潟市でスクール事業の展開をするという意味では、グランセナフットボールクラブはアルビレックス新潟、アルビレックス新潟レディースと競合関係になりますが、同時に、共に地域でサッカーを普及する仲間でもあります。立ち上げ当初からアルビレックス新潟、アルビレックス新潟レディースとの人的交流は深く、今回の取材に対応してくださった安藤さんも、2002年から2018年までアルビレックス新潟で勤務していました。

「アルビレックス新潟のサッカースクールはコンビニチェーンのように多拠点展開していますが、グランセナフットボールクラブは自前の施設1ヶ所で展開する大型ショッピングセンターのようなクラブです。」

安藤さんは業態の違いを話します。

同じ「新潟」でも気象環境が同じとは限らない

グランセナサッカースタジアムは新潟市西区にあります。新潟聖籠スポーツセンター (通称:アルビレッジ)から約30kmも離れています。新潟市西区やデンカビッグスワンスタジアムのある中央区は、新潟聖籠スポーツセンター (通称:アルビレッジ)のある新潟県北蒲原郡聖籠町と比較すると積雪が少なく、サッカーを全くできなくなるほどのコンディションになることは少ないと安藤さんは話します。大陸から南下する強い寒気が佐渡島によって遮られることが原因ではないかと見られています。

アルビレックス新潟レディース 課題を乗り越え持ち味が発揮できるようになってきた前半戦 2024−25 WEリーグ クラシエカップ準決勝は0−1惜敗

同じ地域での持ちつ持たれつの関係

今回の寒波でも、西区や中央区は交通が麻痺するほどの荒天にはなりませんでした。アルビレックス新潟レディースは西区のグランセナサッカースタジアムでフルコートを予約したのですが、予想よりも積雪がありピッチコンディションが悪化したので、やむを得ず同時に予約していた屋根付きフットサルコートでトレーニングすることになりました。

「同じ新潟でも聖籠町とは気象環境が違うので、置かれた境遇が少し違うと思います。私たちは夕方から、グランセナサッカースタジアムをスクールやクラブに使用しています。使用していない午前中にアルビレックス新潟レディースにお貸し出しできたのは、同じ地域での持ちつ持たれつの関係だと思いますね。」

秋春制WEリーグのウィンターブレイク短縮 2月再開案を選手・監督はどのように考えているのか 私たちは『WEリーグの基盤を作っている選手』という川澄奈穂美選手の考え

「雪の線状降水帯」が引き起こしてきた大雪災害

今回の大雪は「日本海寒帯気団収束帯」(JPCZ)によってもたらされています。よく、天気予報で「強い寒気と冬型の気圧配置の影響で」と表現されることがあります。強い寒気は南下すると朝鮮半島の山を避けて東西に別れます。そして、日本海沿で合流。風がぶつかり合って雲を発生し大雪を降らせるのです。「雪の線状降水帯」とイメージするとわかりやすい現象です。

アルビレックス新潟レディースのクラブハウス入口に、除雪道具と一緒に置かれている複数の石油ファンヒーター

甚大な大雪には害救助法が適用されることもある

青森県では10市町村で災害救助法が適用されました。青森県が大雪に関して災害救助法を適用したのは2012年以来のことです。今のところ、新潟県では今回の大雪について災害救助法が適用されていませんが、過去には適用されたことがあります。
令和4年12月22日からの大雪による災害 新潟県内の2市
令和4年12月17日からの大雪による災害 新潟県内の4市
令和3年1月7日からの大雪による災害 新潟県内の6市

また、災害救助法が適用されずとも「災害級」と評される大雪が発生することがあります。

新潟市8区の平均降雪量推移 ※橙は異常積雪のあった年度

「自助」「公助」に限界がある中で求められる「共助」

新潟市は2022年12月から「令和3年1月のような大雪は災害」というリーフレットを市民に配布し始めました。近年、新潟市での雪の降り方は極端化しており、短期間で集中的に降る傾向があります。令和3年(2021年=2020年度)1月は10日間で150cmの積雪を記録し災害級の大雪となりました。新潟市は、災害には「自助」「共助」「公助」が必要だと市民に訴えています。

1年前に知ったアルビレックス新潟レディース 山本英明社長の真意

筆者は約1年前の2024年2月4日に新潟聖籠スポーツセンター (通称:アルビレッジ)を訪ね、アルビレックス新潟レディースのトレーニングを取材。そのときのことを記事としました。

降雪によりトレーニングにどのような影響が出るのかを橋川和晃監督とモク・ソンジョンコーチに説明していただきました。監督、コーチは毎日のGPSの計測データを比較しながら「このトレーニングは雪の中だと4人組でやるべきか2人組でやるべきか」といったディテールまで検証。常にノウハウを蓄積してきました。こうした現場の話は、机上では把握できないため、実りある取材となりました。詳細に記載していますので、ぜひご覧ください。

秋春制の現実と降雪地支援のあり方 現地取材で知るアルビレックス新潟レディースの日常と備え 

 さらに、大きな気づきとなったのは、練習環境確保に苦悶する株式会社アルビレックス新潟レディース 代表取締役社長の山本英明さんのお話でした。特に驚いたのは冬のトレーニングに関して漏らしたこのひと言でした。

「この冬みたいに雪が多くないときは、まだなんとかなります。問題は『災害』となるくらいの積雪があったときです。」

冬の日本海側で晴天と出会うことは少ない(2024年2月訪問時に撮影)

災害大国日本で、WEリーグのチーム(クラブ)はどのように備えるか

そこに続くお話は「雪国クラブの切実な願い」とは、少し切り口が異なるものでした。大雪のみならず、水害、太平洋岸で甚大な被害がたびたび起きる台風、地震といった災害に見舞われたとき、WEリーグとWEリーグに参加するチーム(クラブ)が仲間として助け合える仕組みが必要なのではないかという提言でした。

過去のWEリーグチームの活動を振り返ると、AC長野パルセイロ・レディースが災害に見舞われました。2019年に発生した台風19号災害(1月15日訂正:当初2020年のと表記していました。申し訳ありません。)によりトレーニング拠点・長野市千曲川リバーフロントスポーツガーデンが8ヶ月間も閉鎖されたのです。こうした災害に見舞われたとき、チーム(クラブ)は「自助」で迅速に代替え施設を確保しトレーニングを継続できるのだろうか、施設に大きな被害が及んだときに復旧できる予算をすぐに捻出できるのだろうか……。「自助」と「公助」には限界があります。

「選手たちが高いパフォーマンスを披露するため、良い環境づくりを一緒に考えられるWEリーグになっていけばと考えています。例えば、災害は起きてほしくないけれど、日本では、いつ起きるかわからない。これからも、不可抗力に見舞われて、まともに練習ができない状況に陥るチームがどこかで生まれると思います。そのとき、クラブをサポートしてあげられるリーグであってほしいと思います。大雪でトレーニングできない理由を『雪国だから』という一言で片付けることなく、トレーニング環境の公平性を担保してくれる仕組みづくりをWEリーグには取り組んでいただきたいと思っています。」

山本さんは強く語りました。

2025年変わるWEリーグ なぜ8月2週開幕になるのか チーム(クラブ)本位の女子サッカーへ

WEリーグらしい「共助」の仕組みを今こそ

幸い、今回は11日に雪のピークが過ぎ災害級の大雪とまではならずに済みそうです。同じ新潟の地域の仲間の「共助」で、皇后杯 JFA第46回全日本女子サッカー選手権大会準決勝に向け絶望的な状況は回避できました。しかし、冬はまだ続きます。そして、大雪に限らずとも、ほんの紙一重の違いで災害は発生します。気候変動により、冬とは逆に、夏は災害級の猛暑に見舞われるかもしれませんし大きな台風の接近もあるかもしれません。地域の仲間の助け合いだけで解決できるとは限りません。

秋春制シーズンを続けてきたWEリーグらしい、みんなが主人公になれる「共助」の仕組みを今こそ真剣に考えても良いのではないでしょうか。

皆さんは、どのように考えますか?

(2025年1月10日 石井和裕)

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ