女子サッカー世界一・スペイン 影響を受けるWEリーグ INAC神戸レオネッサとジェフユナイテッド市原・千葉レディースのインテンシティ、そしてレフェリーも
WEリーグを圧倒するスペイン流女子サッカーの根源は華麗なパスワークに在らず
近年の世界の女子サッカー界をリードしている国の一つがスペインであることは間違えありません。FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023を優勝、UEFA女子チャンピオンズリーグはFCバルセロナが連覇中。世界がスペインに注目しています。
WEリーグで初めて実現したスペイン人監督同士の対戦
2024年11月24日に、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースとINAC神戸レオネッサが対戦しました。試合後の監督会見で、1−2と逆転勝利したINAC神戸レオネッサのジョルディ フェロン監督にスペイン人監督同士の対戦であることを質問すると、少なからず意識していることがわかりました。
「意識しているところは確かにあります。ジェフの監督は良いチーム作りをしていると思いました。互いに切磋琢磨することで、WEリーグのレベルを高めていけると感じています。」
イスマエル オルトゥーニョ監督は、共通項があると話します。
「スペインサッカーの中で指導者として学んできたので、ベースになる部分は同じだと思っています。」
今回は、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースとINAC神戸レオネッサの対戦から感じた、スペイン女子サッカーの影響をお伝えします。プレーのみならず、レフェリーのジャッジにおいても、選手たちのスタイルを活かす配慮が感じられました。
組織、強度、責任感
日本におけるスペインサッカーの人気は、イニエスタ選手に代表される華麗なテクニックとパスサッカーがベースにあります。しかし、本来の強さは、スペインのサッカー用語「ペルムータ」に象徴される、組織、強度、責任感にあるのではないでしょうか。
「ペルムータ」とは直訳すると「交換」という意味。ボールを奪うために保持者にチャレンジする守備によって味方が空けたスペース(持ち場)をチームメイトがカバーする動きを指します。一対一を連続し、インテンシティの高いサッカーを実現するためには、組織、強度、責任感が必要となるのです。
スペイン出身監督が指揮するINAC神戸レオネッサとジェフユナイテッド市原・千葉レディースには、スペインサッカーの考え方が色濃く現れています。この試合では「相手の出方を想定し戦術を練る」「一対一の強度を重視する」が、どちらのチームにも際立ちました。
育成に定評あるクラブ出身の監督が日本の女子サッカーを刺激する
2人の監督のプロフィールを確認しておきましょう。
バルセロナで学んだジョルディ フェロン監督(I神戸)
ジョルディ フェロン監督は FCバルセロナ下部組織のラ・マシアで基礎を身に付けFCバルセロナC、FCバルセロナBでプレー。ラージョ・バジェカーノに所属していた2000年にU-23スペイン代表としてシドニー五輪で戦い銀メダルを獲得しています。2015年から長く女子サッカーの指導をしています。
ビジャレアルのメソッドを身につけたイスマエル オルトゥーニョ監督(千葉L)
イスマエル オルトゥーニョ監督は30歳。ビジャレアルC Fフットボール・マネージメント部に勤務する佐伯夕利子さんはイスマエル・オルトゥーニョ カスティージョ監督を「ビジャレアルC Fのメソッドを浴びて指導者として成長してきたので『主語は選手』をしっかりと理解し、実践できる指導者だと思います」と話していました。指導歴の起点はアナリストです。
相手の出方を想定し戦術を練るスペイン女子サッカーの真髄を見た
スペインでプレーする日本人女子選手に聞くとスペイン女子サッカーの特徴として「相手が変わるとやり方が変わる」「戦術的な要求が細かい」という、相手の出方を想定し戦術を練る点を挙げることが多いです。
ジョルディ フェロン監督は、このように話しています。
「私は、いろいろな選手交代とか先発変更とかを行いますが、あちらの監督さんもいろいろな対策や選手起用をされます。私も相手のチームがどう出てくるのかを探ることをとても刺激的に感じています。お互いにそういったことはあるのではないでしょうか。」
一方のイスマエル オルトゥーニョ監督は、トレーニング時の取材で「出場する選手によって戦い方を合わせていく部分は(ジョルディ フェロン監督も)同じような考え方でやっていると思います」と話していました。
「ペルムータ」を徹底し相手の動きを封じたジェフユナイテッド市原・千葉レディース
イスマエル オルトゥーニョ監督はINAC神戸レオネッサを分析。今シーズンはメンバーが変わりロングボールとカウンター攻撃に強みを見出していることを重要視し、その準備をしてきました。チャレンジする守備と、スペースをカバーする動きを徹底しました。
「9番(カルロタ スアレス選手)、21番(カルラ モレラ選手)に強さがあることはわかっていたので、まずはしっかりと強く出るように選手に伝えていました。強く出ることも大事だけれどINACは、そのセカンドボールを拾って展開する形があるので『しっかりと拾おう』という話もしていました。対応はしてくれていたと思います。」
登録上は4バックのシステムですが、左サイドバックの田中真理子選手のポジションはフラットなラインではなく、3バックの際のウイングバックのポジションに近いやや高めの位置となる時間もありました。INAC神戸レオネッサのカウンター攻撃の起点となる守屋都弥選手を牽制しているように感じられました。
強い選手で前線に起点を作りたかった前半のINAC神戸レオネッサ
ジョルディ フェロン監督もジェフユナイテッド市原・千葉レディースのやり方を分析。対策を講じてきました。
「ジェフのハイプレスを想定し今週の練習中もいろいろと取り入れてやってきました。上手く相手のハイプレスをかわすために、今日は高瀬(愛実)選手を先発起用しました。」
同じ11人対11人の戦いでも、今までとは全く違うやり方が繰り広がられるところに、この試合の面白さがありました。
一対一の強度で試合の主導権を握る
少し前の記憶を呼び起こし、スペインサッカーの強度を思い出してください。
パリ五輪でなでしこジャパン(日本女子代表)を封じ込めた一対一の守備の強さ
2024年7月26日、なでしこジャパン(日本女子代表)はパリ五輪のグループステージでスペイン女子代表戦と対戦し黒星スタートとなりました。スペイン女子代表の強い守備の圧力で、簡単にボールを手放してしまい、防戦一方の展開を強いられました。スペイン女子代表のイエローカードは2、ファウルは15。なでしこジャパン(日本女子代表)はファールが2しかありませんでした。「フェアに戦った」ということもできますが「相手に触れることもできなかった」の方が実態に近い表現です。
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