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スポーツ通訳の知られざる世界 「週に1回しか通訳が付かない」ではダメな理由とフローラン・ダバディさんの影響力 スポーツ通訳 佐々木真理絵さん

想像するよりはるかに幅が広いスポーツ通訳の仕事、外国籍選手に通訳が欠かせない理由

これまで、WEリーグでは、外国籍選手がなかなか活躍できませんでした。多くの選手が来日し1シーズンを終えると帰国しています。中には、通訳のないトレーニングで、なかなかコミュニケーションがとれず苦しむ選手もいました。それを筆者は見てきました。シーズン途中で帰国した外国籍選手の例も多数あります。

外国籍選手が大活躍するINAC神戸レオネッサ 

ところが、202425 SOMPO WEリーグではINAC神戸レオネッサの外国籍選手が大活躍しています。INAC神戸レオネッサは、スペイン出身のジョルディ フェロン監督と同じスペイン語を使えるスペイン国籍の選手が3人プレーしています。また、来日2シーズン目となり日本語をある程度はできるヴィアン サンプソン選手をジェフユナイテッド市原・千葉レディースから移籍で獲得。ヴィアン サンプソン選手はスペイン国籍の選手に、日本語習得のサポートをしています。

優れた通訳がチームの潤滑油となる

そして、通訳には有数の実績を持つクリスティアン一色さんを起用。リスティアン一色さんはスペイン語と英語が堪能。これまでヴィッセル神戸、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島、清水エスパルスで監督通訳を歴任したほか、警察通訳を務めた経験もある人です。また、マネージャーの内田葵さんが、主に選手の通訳を兼ねています。202425シーズンは通訳の重要性が再認識されたシーズンとなっています。

通訳問題が表面化したディオッサ出雲FC

一方、なでしこリーグ2部・ディオッサ出雲FCではブラジル国籍の選手の通訳に関する契約不履行問題が起きています。スペナザット・ラウラ選手とタイス・フェへ選手が弁護士を伴い記者会見を行いました。練習や試合に「帯同する通訳を手配」する義務がクラブ側にあるのにも関わらず果たさなかったといいます。さらには、通訳がおらず日本語の指示を理解できない2人に対し、コーチが「こいつら、分かってんの?」と嘲笑したり、舌打ちするなどの行為があったと訴えています。ディオッサ出雲FCの渡部稔理事長は「通訳の配置など努力はしていたが、十分な対応ができていなかったことを反省している」と話しています。

※皇后杯 JFA第46回全日本女子サッカー選手権大会の公式サイトには監督が2名掲載されています(2024年11月16日現在)。

スポーツ通訳の重要性を最前線から語る

今回は「スポーツ通訳の知られざる世界」をお伝えします。お話ししてくださったのは佐々木真理絵さんです。プロバスケットボールチーム、バレーボールチームでチームマネージャーや通訳を経て、現在はフリーランスのスポーツ通訳者。これまで、バスケットボール、バレーボール、サッカー、スキークロス、スキージャンプ、ラグビーに関わってきました。バレーボールでは各国代表チームの通訳等、各競技の最前線で通訳をしてきたプロフェッショナルです。現在はオンラインサロン『スポーツ通訳になりたい( https://sportstsuyaku.memberpay.jp )』を主催され、ご自身の現場を見学する機会を提供する等、スポーツ通訳の育成もサポートしています。

フローラン・ダバディさんを見てスポーツ通訳の仕事を知る

佐々木中学生のときに日韓ワールドカップがありました。当時、私はすごくサッカーが好きで、日本代表以外の試合もほぼテレビで見ていました。日本代表のトルシエ監督の通訳・フローラン・ダバディさんが注目を集めていました。そのとき、スポーツ通訳の仕事があることをなんとなく知りました。

初めてスポーツ業界に飛び込んだ先は大阪のプロ・バスケットボールチーム

佐々木 大学を卒業した後、何か英語を使ったお仕事をしたいと思って英会話スクールの会社に入社しました。営業職だったので英語を全く使わず毎日を過ごしていました。でも、何かスポーツと英語を活かせる仕事をしたいと思っていたときに、ご縁をいただいて大阪エヴェッサ(当時・bjリーグ)に転職することができました。職種はマネージャー兼通訳でした。マネージャーの仕事がメインでしたが、バスケットボールチームには外国籍選手がたくさんいるので、英語も使って1年間、さらに京都ハンナリーズ(当時・bjリーグ)で2年間のお仕事をさせていただきました。その後、Vリーグのパナソニック パンサーズ(現・大阪ブルテオン)で通訳として雇用していただきました。その後は、バスケットボール日本代表のチームマネージャーとして働き、今はフリーランスとして、いろいろなスポーツの通訳をさせていただいています。ラグビーは代表監督のパーソナルアシスタントとしてのお仕事もしています。

サッカーに関しては、オーストラリアのクラブの育成年代チームが来日する際に合宿のサポートをさせていただいています。

ノーザンタイガースFC(オーストラリアNPLニューサウスウェールズ)のペナント

パーソナルアシスタントという職種も、確か、フローラン・ダバディさんが就任されて知られるようになりました。佐々木さんのキャリアをお聞きして思ったのですが、スポーツ通訳という仕事は語学力による業務だけでなく、生活周辺のサポートも含め幅が広そうですね。

佐々木 語学力に加えて、コミュニケーション能力、スポーツの知識等が必要となります。正直、言語のレベルが私よりも高い通訳者はたくさんいます。それでも私がコンスタントにお仕事をいただける理由は、語学以外のところを評価していただいているからだと思います。スポーツチームの通訳や、監督のパーソナルアシスタントのお仕事をしていると、突拍子もないリクエストが来ることがあります。可能な限り応えつつ、できない場合はなぜできないのかの説明と代替案を提案する臨機応変な対応力も必要な仕事だと思います。

チームとして良い方向に持っていけるように仕事をすることがチームの一員としてすごく大切なところです。通訳もスタッフの1人なので、目指すところは皆と一緒で、試合に勝つこと、リーグ戦で優勝すること……それぞれで掲げる目標を達成するための責任を担って働くことができたら、良い仕事になると思います。

「週に1回しか通訳が付かない」では選手は力を発揮できない

テキストに書き出せば、スポーツ通訳に必要な要素は言語化できますが、実は、それぞれの深さや幅がチームによってかなり違っていて、その対応力がとても重要そうですね。

佐々木 そう思います。言葉を訳すのは本当に難しいです。学ぶことに終わりがありません。日本語でも若い人がどんどんと新しい表現を創っていくように英語でもどこの国の言語でも新しい表現が生まれています。スポーツ自体も毎年、少しずつルールが変わる。新しい技が生まれる。たくさんのことにアンテナを張って勉強する意識を持っていないとついていかれなくなりますね。

佐々木さんは、スポーツ通訳の現場でどのようなご苦労をされましたか?

佐々木 最初にバレーボールチームで通訳として働きはじめた頃は、バレーボールの用語を通訳するのが本当に難しかったです。競技に関する会話は専門用語が多いので、私が細かく通訳に入らなくても外国籍選手と日本人選手で通じ合っている場面がたくさんありました。それが少し複雑な話になったり、日常会話になったりするとコミュニケーションをとれない場面が増えます。外国籍選手が困るところは、実は、そういうところだと感じました。

具体的なトレーニングもエクササイズも上手くできる。でも、なぜその練習をするのかという目的の話が理解できません。また、練習に入る前のようなちょっとした場面での会話で人の絆は深まっていくと思うのですが、そうした場面でのサポートが得られないと、逆に外国籍選手は日本人選手との距離が離れてしまう感覚になるのではないかと個人的には感じています。

今のお話を聞いてディオッサ出雲FCのお話を思い出しました。実際には実際は週に1回しか通訳が付かなかったと報じられています。その1回でまとめて会話をして確認すれば良いではないかと思いがちですが、そうではなく、日々の些細なコミュニケーションの積み重ねがすごく重要なのですね、きっとね。

佐々木 スポーツチームで、働いている人、選手はわかると思いますが、毎日の積み重ねが非常に重要です。

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