サンフレッチェ広島レジーナ関東二連戦 全員で戦い躍進「自分のプレーを120%で出したいと思えるチーム」 その先にある危機感も
リーグ戦は初黒星を喫するもカップ戦は準々決勝進出
柳瀬楓菜選手は高校時代から女子サッカー界のスポットライトを浴び続けてきた選手です。今シーズンは春に加入した選手の台頭もあり、スタメンが確約されなくなりました。2024年11月6日、水曜夜に行われた日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦はフル出場。得点に絡む大活躍。中2日で迎えた三菱重工浦和レッズレディース戦は後半のアタマからピッチに投入されました。
「自分自身は、これまで、このようなシーズンを過ごしたことがなかったです。最初は凹んでしまうこともあったのですが、メンバーから外れたりベンチスタートになる状況で、周りの選手がすごく良い声かけをしてくれていることを感じました。本当に誰一人としてマイナスの方向の発言をしないですし、自分が試合に出るために常に準備をしている。ピッチに立てない選手が立った選手を全力で応援する雰囲気の中でやれています。自分がベンチスタートでも、自然とそういう気持ちになりますし、出たときに、自分のプレーを120%で出したいと思えるチームになっていると思います。」
「全員で戦っていく」宣言から生まれた強さ
日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦後の監督会見で吉田恵監督に質問しました。なぜ、リーグ戦の前節に出場していない選手を多く起用したのでしょうか。荒天による中止があったため最後のリーグ戦は10月26日。試合間隔は空いていました。
「疲労の少ない状況ではあったのですが、このチームの立ち上げのときから選手に『全員で戦っていく』と伝えてきました。これまで、クラシエカップに出場してきた選手で結果を出したいという経緯があり、先発とサブも含め、このメンバー構成で戦いました。」
関東二連戦とトレーニングを取材
サンフレッチェ広島レジーナは日テレ・東京ヴェルディベレーザと1−1で引き分け2024−25 WEリーグ クラシエカップ グループAを首位通過。中2日で迎えた2024−25 SOMPO WEリーグは、王者・三菱重工浦和レッズレディースと対戦し、リーグ戦初黒星を喫したものの、ずば抜けた充実ぶりが目立ちます。
WE Love 女子サッカーマガジンは11月の関東二連戦で関東に長期滞在するサンフレッチェ広島レジーナを3回取材しました。記事の前半では関東二連戦の戦い方、後半では選手がチーム力の向上を実感できるところについてお伝えします。
サンフレッチェ広島レジーナを高く評価した三菱重工浦和レッズレディース
まずは、対戦相手から見たサンフレッチェ広島レジーナの印象を確認しておきましょう。2024−25 SOMPO WEリーグ 第8節で対戦した三菱重工浦和レッズレディースの 監督・選手はサンフレッチェ広島レジーナの印象について話しました。
「広島さんは本当に良いチームです。いつも上野(真実選手)に点をとられるのですが……本当に良い選手だと思っています。また、クラシエカップの準決勝でも戦うので、切磋琢磨して良いゲームにしていければと思っています。」(楠瀬直木監督)
「お互いに、強度高くバチバチやれる試合です。」(石川璃音選手)
「2人のセンターバックには強さがあります。それから、ワイドを広く使ってくる印象です。2列目からの飛び出しや運動量も多いので相性が悪いというか、あまり上手くいかないことが印象に残っていました。」(高橋はな選手)
「前にも強いし長いボールも蹴れる。ピッチをすごい広く使ってくるサッカーなので、自分たちが、しっかりとコンパクトに守備をできたら、相手が広がっている分、良い攻撃ができると考えていました。」(塩越柚歩選手)
「強度」「強いセンターバック」「ワイドを使った攻撃」……この2シーズンのサンフレッチェ広島レジーナのイメージは王道を行き、洗練された近代女子サッカーです。
入念に関東二連戦の準備をしてきた吉田恵監督
吉田監督は、ビッグ3と激突する関東二連戦で、どのような戦い方を準備していたのでしょうか。
5枚の最終ラインで日テレ・東京ヴェルディベレーザを封じたカップ戦
2024−25 WEリーグ クラシエカップ グループA 最終節の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦は直接対決。吉田監督の採用したフォーメーションは5バックでした。スタートポジションは5−4−1。保持時に相手陣深くに入ると5−2−3に見えることもありました。ただ、明確に「保持時は3バック」と言えるほどまでは両サイドのポジションを上げずに戦いました。
センターラインの強さの象徴・左山桃子選手は、試合後に充実した表情で話してくれました。
「相手は勝たないと準決勝に進めないう状況。私たちは引き分け以上で勝ち抜ける状況でしたけれども、余計なことを考えず、皆で『絶対に勝ちにいこう』と話し臨みました。勢いをもって試合に入ろうという話をしていました。厳しい戦いになりましたけれどでも、自分たちがやっていることをしっかりと出し切って戦えたと思っています。」
最終ラインの横の動きは5人がスライドするイメージ。縦の動きは、人数が少ない中盤で強度を維持するために、5−4−1の4の誰かが前に飛び出し前にいる相手ボールを奪いに行く守備をしたときは、その後ろの選手が飛びだして中盤のスペースを埋める動きが徹底されていました。
「ベレーザさんはボランチからの(縦パスの)差し込みや最終ラインからの差し込みがすごく上手いチームです。チーム全員で刺されたときは強くいこうと統一してたので、それが上手くはまった試合だと思います。」(柳瀬楓菜選手)
攻撃面では直線的なカウンター攻撃を優先。人数をかけずリスクを排した攻撃方法で得点を奪い、狙い通りにカウンター攻撃で得点を奪い準決勝進出を決めました。
李誠雅選手に聞くと、対戦相手を分析してトレーニングメニューを組むので、毎週、同じ練習をすることはあまりないとのことでした。
4バックからスタートし3バックへの移行も考えたリーグ戦
次に、2024−25 SOMPO WEリーグ 第8節の三菱重工浦和レッズレディース戦の戦いを振り返りましょう。ボールを保持したときは4−3−3の陣形でピッチを広く使います。非保持は4−4−2に移行。髙橋美夕紀選手と瀧澤千聖選手が最前列に2枚並んで、相手のパスコースをコントロールするやり方が基本です。
しかし、このやり方を最後まで通したわけではありません。64分に呉屋絵理子選手を投入すると3バックに変更しました。
「相手は高橋(はな)選手がスタートからフォワードで出ていました。そこに対してのロングボールからセカンドボールを拾われて押し込まれたときは、どうしてもゴール前が手薄になる印象があったので、後半に呉屋選手を入れて、セカンドボールとゴール前の守備に厚みを持たせる準備をしました。」
吉田監督は、システム変更の狙いを話しました。しかし、その3分後に市瀬千里選手がアクシデントで交代を余儀なくされプランが崩れます。すると、再び4バックに戻し、右サイドバックに瀧澤選手を回しました。
「戦術的に少し配置を変えることは、毎試合でやっていますので選手は理解してくれています。今日も瀧澤選手は(当初はトップ下から)ウイングバック、それからサイドバックと、普段はやっていないポジションでプレーしてもらいましたが、一対一でボールを奪うシーンもあり、気持ちで何とかできるという部分は、皆、感じてくれたと思います。」
「全員で戦っていく」ためにベテラン選手の果たす役割
関東二連戦を取材して強く印象づけられたのは、やはり「全員で戦っていく」というサンフレッチェ広島レジーナのスタンスです。怪我で離脱している選手を除く、全ての選手がこの遠征に帯同しました。そして、例外もありました。近賀ゆかり選手が松葉杖をついて味の素フィールド西が丘と浦和駒場スタジアムに現れたのです。近賀選手はチームと別行動だったので、味の素フィールド西が丘で塩田満彩選手は驚いたと言います。
「来ることを知らなかったのでびっくりしましたね。近さんのためにというのもあるし、そういうこともチームが一つになれている要因だと思います。
福元(美穂)選手が長い棒を買ってきて、皆で近さんにメッセージを書いてプレゼントしました。脚をコロコロするためのプレゼントです。そのようなところにチームの仲の良さが出ていると思います。」
自身も大きな怪我で苦しんだことがある李誠雅選手は近賀選手について、このように話しました。
「選手にとって怪我が辛くないはずがない。でも、近さんは、怪我をしたその試合から自分たちに前進する姿を見せてくれた。尋常じゃないと思いましたね。もちろん誰よりも本人が辛いだろうし、苦しいだろうし……ただ、もう前を向いていた。それを近くで見ている自分たちは小さなことで凹んでいられないと思いました。」
選手が語るサンフレッチェ広島レジーナ躍進の理由
2つの試合の間の2日間、サンフレッチェ広島レジーナは埼玉県内でトレーニングを行いました。三菱重工浦和レッズレディースのディフェンスライン攻略を意識しパスの流れを確認するトレーニングを繰り返し行っていました。トレーニング後、3人の選手にチームの状況をお聞きしました。
立ち上げのときから思いやりある選手ばかりのチーム 塩田満彩選手
塩田選手はWEリーグ初年度シーズンからサンフレッチェ広島レジーナでプレーしています。
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