WE Love 女子サッカーマガジン

11試合未勝利 大宮アルディージャVENTUSに見えてきた良い兆しと少数精鋭WEリーグの難しさ

苦しむ大宮アルディージャVENTUS やりくりの末に見出したマンマーク気味に圧力をかけるシンプルなサッカー 

またしても勝てなかった……2024年10月27日に行われた202425 WEリーグ クラシエカップ グループステージ グループA第5節で、大宮アルディージャVENTUSは66分に先制したものの、日テレ・東京ヴェルディベレーザに72分に追いつかれ11の引き分けに終わりました。未勝利の長いトンネルは続きます。しかし、試合後の選手、監督の表情からは、やっと出口が見えてきた感じがします。

林みのり選手が帰還し真っ向勝負を挑んだアディショナルタイム

日テレ・東京ヴェルディベレーザを相手に、最後まで攻め合う強気の試合をすることができました。そして、仲田歩夢選手がスタメンに復帰し89分までプレーすることができました。また、林みのり選手は89分からピッチに帰還。大宮アルディージャVENTUS全体のパッションが高まります。林選手は9月1日以来の出場でした。

「林が戻ってきたことは、すごくポジティブです。ただし、試合勘は徐々に戻していきたい。」(柳井里奈監督)

「(林)みのりがピッチに立ってくれてすごい嬉しかったです。」(乗松瑠華選手)

2024−25 WEリーグ キックオフカンファレンスで抱負を語っていた林みのり選手

今シーズンよりネットメディアの有料記事ではWEリーグより写真が提供されないことになりました。無料記事よりも有料記事の方が無料部分の文字数も多くGoogleの評価が高いため有料記事の閲覧数は多いのですが、自社で撮影人員を投下できず試合の写真を掲載できないことをお詫び申し上げます。申し訳ありません。

「縦に速い迫力あるサッカー」が激しい攻防を生み出した

今シーズンの大宮アルディージャVENTUSは、昨シーズンにチームとして身につけたビルドアップの面白さを生かしながらも「縦に速い迫力あるサッカー」の構築を目指していました。しかし、なかなかメンバーを固定できず「これが今シーズンの形」というものを披露できずにシーズンが進んでいきました。

ところが、この試合では「縦に速い迫力あるサッカー」を存分に印象づけました。やっと、目指していたものを表現できた印象です。そこには要因があるはずです。取材しました。

少数精鋭のWEリーグならではの難しい状況が生まれている

なぜ、大宮アルディージャVENTUSは、ここまで苦しんでいるのでしょうか。まずは、その整理からしていきましょう。 

育成組織TOP可選手とJFA・WEリーグ/なでしこリーグ特別指定選手に頼るメリット・デメリット

大宮アルディージャVENTUSでは、現在、29人が選手登録しています。この29人には育成組織TOP可選手の茂木未宙選手、佐藤百音選手、寺本唯香選手が含まれています。また、落合依和選手と宗形みなみ選手はJFA・WEリーグ/なでしこリーグ特別指定選手です。

予算に限りのあるWEリーグのチームの多くは、少ない選手をやりくりしてメンバー構成しています。起用できる選手の人数を増やすために育成組織TOP可選手とJFA・WEリーグ/なでしこリーグ特別指定選手を登録し、その才能をピッチで開花させます。そして、いくつものチームで、こうした選手が活躍しています。

常にチームと行動できるわけではない育成組織TOP可選手とJFA・WEリーグ/なでしこリーグ特別指定選手

ただ、こうした方法で、どれだけ素晴らしい才能を持った選手を登録しても、チーム全体の歯車が噛み合わなかったり、最低限、揃えたい選手の人数が揃わなかったりすると、戦力維持には限界が生じます。なぜなら、高校生は常に午前中のトレーニングに参加し続けることはできませんし、大学生は大学チームとの兼任なので、常にWEリーグに出場できるわけではないからです。

大宮アルディージャVENTUSの場合は、そこに追い打ちをかけ、開幕直前に牧野美優選手が左膝前十字靭帯損傷、開幕戦で林選手が右足関節捻挫。仲田選手もコンディションが整わず、しばらく戦列を離れていました。参加できる選手の人数によっては、紅白戦をできるのか心配になってしまう状況でした。

仲田歩夢選手のスタメン復帰で、チームの強みに磨きをかける状況が戻る

仲田選手のスタメン出場は9月22日の202425 SOMPO WEリーグ 第2節 ノジマステラ神奈川相模原戦以来のこと。89分の出場時間は今シーズン最長です。タッチライン際での推進力が大宮アルディージャVENTUSに帰ってきました。

「ここ何ヶ月間か、自分のコンディションの部分もあって、なかなか思うようにプレーできなかったりとか、ストレスを抱えながらのプレーになったりしていたのでもどかしく、チームの力になれているのだろうかという部分ですごく悩んでいました。コンディションも良くなってストレスなくプレーできる上に、こういう新しいポジション(右ウイングバック)で、とにかく思い切ってプレーできたことは、自分にとって、まず一つ大きかったと思います。」

相手のやり方に合わせて選手を起用、大学サッカーのスケジュールに左右されることも

日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦を終えた柳井監督に選手起用の苦労について聞いてみました。特に、センターラインの要である林選手の怪我の後、ボランチの組み合わせがなかなか固定できずにいました。

「ずっと宗形(早稲田大学)や落合(東洋大学)を起用していました。今、彼女たちが所属している大学の試合が佳境です。落合は(大学のチームの)キャプテンですし(大学チームでの出場を)汲んであげたい。

今回は杉澤(海星)の左右のポジションを変えました。たぶんミラーゲームになるだろうと思い、まっすぐに縦から来るプレスに対して、しっかり内側、逆サイドが見られるように考えました。対戦相手と、今いる選手のコンディションを見てメンバーを選んでいるつもりです。

(83分に投入した)茂木はU-18の所属ですが、日本のトップクラスの選手と、今後やっていかなければいけない選手です。このピリピリしたゲームで、経験を済ませたかった。」

ちなみに、10月26日(土:日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦の前日)に行われた第38回関東大学女子サッカーリーグ戦1部後期第10節で早稲田大学と東洋大学が対戦。54分に宗形選手(早稲田大学)が得点し90分に落合選手(東洋大学)が得点。43で東洋大学が勝利しています。

スタメンのセレクトに苦心が続いてきた柳井里奈監督

ついに見えた明るい兆し

システムや選手の組み合わせを何度も変えてきた大宮アルディージャVENTUSですが、もしかすると、3バック+ウィングバックの相手には、日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦で採用した3バックがファイナルアンサーになるかもしれません。

左ウイングバックで起用された杉澤海星選手

ポジションを固定し前への勢いをつける3バックに

スタートポジションは3バックですが、非保持で押し込まれると最終ラインに5枚が並びます。選手の立ち位置には左右の流動性をあまり加えず、できるだけ固定。ただし、前にあるボールに対しては奪うために勢いよく飛び出します。そのため、選手は迷いなく縦方向でプレーできているように見えました。 

「後ろで5枚が構えるというより、相手の(フォワードの)3にこちらも3で押し出していきたい狙いがありました。どちらかといえば、押し出せずに引き込まれる時間が長かったです。」

そう話したのは最終ラインをコントロールする乗松選手です。

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