三菱重工浦和レッズレディースが17得点大勝 AWCL(AFC女子チャンピオンズリーグ)と女子ACLプレ大会から見えるアジア女子サッカーの現場
成長する女子サッカー、しかし、AWCL(AFC女子チャンピオンズリーグ2024/25)とWCC2023(女子ACLプレ大会)で露呈したAFCの不十分な姿勢
世界の女子サッカーは成長が著しいといわれています。では、アジアの女子サッカーの勢力図はどのようになっているのでしょうか。かつては中国とチャイニーズタイペイがリードし、現在は日本と朝鮮民主主義人民共和国(DPR KOREA)がプレーのレベルを牽引します。オセアニアサッカー連盟(OFC)からAFCに転籍したオーストラリアも強豪です。タイ、ベトナム、フィリピンがFIFA女子ワールドカップに出場し東南アジアの躍進が目覚ましい。そして、これまで女子スポーツの動向があまり伝えられてこなかった中東でも強豪クラブが女子チームの強化に注力しています。
国際プロサッカー選手会(FIFPRO)の調査報告書で選手の声を把握する
今回は、選手視点でアジアの女子サッカーの現状を明らかにします。国際プロサッカー選手会(FIFPRO)が2023−24シーズンの女子ACLプレ大会『AFC Women’s Club Championship 2023 – Invitational Tournament (AWCCIT)』に参加した選手(8チーム88名)を対象にアンケート調査を実施しました。調査報告書『AFC女子チャンピオンズリーグの今後に向けて~今までのパイロット大会から何を学ぶか~』から一部をピックアップしてお届けします。
アジア王者を目指す戦いの現場からアジアの女子サッカーの現実が見えてきます。
オリッサFCに二桁得点、初代王者の座を狙う三菱重工浦和レッズレディース
AWCL(AFC女子チャンピオンズリーグ2024/25)のグループステージが始まりました。22チームが参加して開催されるアジア初のエリート女子クラブ大会です。初代王者君臨を目指す三菱重工浦和レッズレディースは初戦でインドのオリッサFCを17−0で下しました。つないだパスは608。非ファールが2ですから、相手に何もさせずに完勝しました。三菱重工浦和レッズレディースが戦うグループステージC組はホーチミン(ベトナム)でセントラル開催されています。
楠瀬直木監督は、ベトナムに旅立つ直前、レッズランドでの最後のトレーニングの後に、アジアでの戦いについて語っていました。
「スコールがあったりする環境で、どこまで『タフ』にできるかは底力を示していかなきゃいけない。」
「タフ」はAWCL(AFC女子チャンピオンズリーグ)を語る上で重要なキーワードです。
女子サッカーの価値が向上し外国籍選手の補強が進む各チーム
各チームが積極的な補強を行なって大会に挑んでいます。例えば、グループAを戦うマレーシアのサバFCウィメンは4人の日本人選手を獲得しました。成田恵理選手、中山未咲選手、木﨑あおい選手、上野紗稀選手です。過去に、サバFC男子チームで加賀山泰毅選手がプレーしていたこともあり、大胆な日本人路線に踏み切ったと見られます。
こうした女子選手の移籍は、アジア各国で女子サッカーの価値が向上し、プロ選手としての待遇が保証されるようになったことで成立しています。WEリーグ以前の2010年代まで、日本でも、プロ契約できる女子サッカー選手は一部だけだったことを考えると、女子サッカーの急速な発展を感じることができます。
UEFAでの女子サッカーの躍進と比べAFCはどの位置にまで到達したのか?
UEFA女子チャンピオンズリーグが始まったのは2001年。20年余りを費やし、欧州ではサッカー界のビッグイベントに成長しました。試合会場は華やかに彩られ、欧州各国の地上波でも放送されました。アマゾンが公式スポンサーとなり公式ストアを開設。スタジアムには若い女性のグループや母と娘といったファン・サポーター層が目立ちました。2023−24大会の平均入場者数は約9千人。2024年5月25日にビルバオで開催された決勝には5万827人が詰めかけ、決勝の過去最多記録を更新しました。残念ながら、23年の遅れがあるアジアは、まだ、そこに遠く及びません。
「決勝開催をめぐる騒動」で国際プロサッカー選手会(FIFPRO)はAFCを批判
国際プロサッカー選手会(FIFPRO)が公開した調査報告書『AFC女子チャンピオンズリーグの今後に向けて~今までのパイロット大会から何を学ぶか~』はサマリー版と思われますが、16ページに及んでいます。アンケート調査結果のレポートの後に、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)が「決勝開催をめぐる騒動」というページでACLプレ大会『AFC Women’s Club Championship 2023 – Invitational Tournament (AWCC)』の運営をストレートに批判していることを、まずはご紹介します。
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AFCがAWCC2023の開催を発表した際、2つのグループの勝者が「グランドフィナーレ」で対戦し、総合チャンピオンを決定すると発表しました。規則には「AFCは、参加クラブに対して決勝やノックアウトステージを導入する権利を持つ」と書かれていました。
仁川現代製鉄レッドエンジェルスと三菱重工浦和レッズレディースがそれぞれのグループで勝利しました。しかし、2024年3月にAFCは決勝を開催しないことを一方的に決めました。三菱重工浦和レッズレディースとWEリーグは、この決定とその通知方法に対して、即座に不満を表明した。
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AFC幹部を見かけなかったAWCC2023決勝
国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は「選手やクラブがかけたコストにもかかわらず、それを尊重せず、非常に軽い姿勢で臨んでいたことがうかがわれます。クラブや選手が、多大なコスト、労力をかけて決勝に到達したにもかかわらず、一方的に決勝の開催を中止したことは、極めて、不合理で透明性に欠けた決定であった」と強く批判しています。
読者の皆さんがご存知の通り、一度は中止となった決勝は三菱重工浦和レッズレディース、WEリーグ、日本サッカー協会が、韓国側と連携し浦和駒場スタジアムで開催されました。
筆者は貴賓席と隣接する記者席でこれを取材。また、ミックスゾーンでも取材を行いました。しかし、AFCのスタッフを数名しか目撃てしておらず、これを不思議に感じていました。
国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は「AFCからは幹部が一切来場していなかった」「スポンサー関係者も不在」と明言しています。決勝が行われたのは2024年5月10日。AFCがこの試合を、このような軽い扱いとしたことは極めて不思議なことです。なぜなら、翌日の5月11日に横浜国際総合競技場でACL(AFCチャンピオンズリーグ)決勝が開催されていたからです。2つのスタジアムの距離は自動車移動で90分ほど。AFC幹部が浦和駒場スタジアムに来場することは容易でした(公式スケジュール重複の調整は必要ですが)。
そのため、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)はこのページを厳しい論調で締めくくっています。
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AFCがステークホルダーの利益を重視し、それに真摯に向き合う姿勢を持たない限り、AFCの主催の大会が成功することは難しいといえます。
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選手とAFCの代表団 アンバランスな環境提供
国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は選手へ満足な環境提供をするようAFCに求めています。なぜなら、現在のAWCL(AFC女子チャンピオンズリーグ) の競技規則には、選手の宿泊施設や移動、食事、施設といった環境面に対する最低限の条件についての規定がほぼないからです。ところがAFCの代表団には5つ星の宿泊施設と、国際的なスタンダードのビュッフェスタイルの食事を提供することを求めています。
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