誰がWEリーグの理念を歪ませたのか?「理念先行」本当の問題点
「WEリーグの理念先行」なぜ生まれ、何がWEリーグにとって問題なのか
「どうしても女性色が強いがために、すごく強く捉えられてしまう。これはジェンダーの根深い問題というか……簡単に説明できるようなものではなかったりする。」
2024年9月18日に行われた髙田春奈さんのチェア退任リモート会見で「WEリーグの理念先行」について質問があり「理念先行」が再び脚光を浴びました。さて「理念先行」とは何でしょうか。「理念先行」という表現が初めて注目を集めたのは、 WEリーグがスタートする以前の2021年9月11日に掲載された、ある新聞の見出しからでした。
「理念先行のリーグに危惧 『逆風』下の開幕、今あるリソース活用を」
3年を経て記事を読み返してみると、書かれているのはWEリーグに係る、ある人による「理念にこだわりすぎると進歩が鈍る」という意見でした。具体的には「女性の社会進出を促すということで、クラブ役職員の50%以上を女性にする、意思決定者の少なくとも1人は女性とする」「監督の条件をJFA認定S級コーチとする」の2点を「理念先行」として批判しています。今、読んでみると、見出しに対して意外な主張の記事でした。
「みんなが主人公になるためにプレーする。」と「理念先行」の関係とは?
今回のテーマは「誰がWEリーグの理念を歪ませたのか?」です。読者の中には、ここまで読んだ時点で、すでに違和感を意識している人がいるかもしれません。そう感じない人もいるかもしれません。その理由は、記事の後半で明らかになると思います。そして、今シーズンからタイトルパートナーとなったSOMPOグループへの期待もお伝えします。
SOMPOグループは契約締結の背景として3点を挙げています。
・両者のパーパス・理念への相互共鳴
・日本の女子サッカー、全国の地域社会への貢献を通じた社会全体のDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を後押しする活動推進
・WEリーグとの活動を通じた、SOMPOグループ内の一体感醸成とDEI推進」
WEリーグの理念とは何か?なぜか意見が分かれる
WEリーグの理念とは何でしょうか。ことあるごとに「理念先行」という批判が巻き起こりますが、WEリーグの理念を正確に言える人と出会うことは、まずありません。筆者も暗記していません。その実態を把握するために、まずはSNSでアンケート調査を行いました。
過半数が「女性活躍の推進」だと回答した
SNSで行ったアンケート調査には興味深い結果が現れます。 「WEリーグの理念の第一印象」について質問してみると、過半数が「女性活躍の推進」だと回答したのです。
髙田春奈さんも野々村芳和さんもジェンダーを強調
髙田さんも、過去のインタビュー記事で女性活躍社会の牽引について話していました。
「私はJリーグで社会連携を担当していました。WEリーグには『日本の女性活躍社会を牽引する』という理念があります。」
三代目チェアに就任した野々村芳和さんは、就任前の2024年9月15日に味の素フィールド西が丘で取材対応し、理念について、このように話しました。
「女性が輝くという理念はすごく素晴らしく、そのままいくのだけど」
WEリーグに係る人の多くが「女性活躍の推進」がWEリーグの理念だと語ります。しかし、あるWEリーグ関係者は「WEリーグの理念は誤解されている。WEリーグの仕事をしている人の中にも正確に理解できていない人は多い」と話します。
偏見はいらない、実は「女性活躍」「ジェンダー平等」が書かれていないWEリーグの理念
本当の理念は、WEリーグの公式サイトにこのように書かれています。
女子サッカー・スポーツを通じて、
夢や生き方の多様性にあふれ、
一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する。
これがWEリーグの理念です。ここには「女性活躍」とは書かれていません。「ジェンダー平等」とも書かれていません。しかし、アンケート調査結果に表れている通り、多くの人は「女性活躍の推進」をWEリーグの理念だと思い込んでいるのです。
理念は根本的な考え方で事業計画の原型
理念とは何でしょうか。その意味を辞書で調べると、WEリーグの「理念先行」の問題点が浮上してきます。辞書にはこのように書かれています。
- 事業・計画などの根底にある根本的な考え方。
理念は根本的な考え方で事業計画の原型です。かつて、世界の時刻がバラバラにならないようにロンドンのグリニッジ天文台を通る子午線を世界中の経度と時刻の基点と定めたように、理念は(正式な変更がない限りは)揺るがない場所に固定されるべきものです。だから企業は理念を定め、明文化(言語化)して企業活動に勝手な解釈が起こらないようにしています。
本田宗一郎さんの有名な言葉に「理念なき行動は凶器であり、行動なき理念は無価値である」があります。現在のホンダの基本理念は「人間尊重(自立、平等、信頼)」と「三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)」で、企業活動の価値観のベースになっています。
各々が心の中で自由に改ざんしてきたWEリーグの理念
しかし、WEリーグの場合は、明文化(言語化)されているのにも関わらず、これが、各々の心の中で自由に改ざんされて語られています。
理念がブレれば活動のベースが揺らぎます。見つめるべき未来は一点ではなくなります。WEリーグの理事が、職員が、クラブ(チーム)の経営者が、選手が、スタッフが、各々で違う未来を見ていれば、当然のことコミュニケーションの齟齬が生まれます。もちろん、WE Love 女子サッカーマガジンを含むメディアも反省しなければなりません。いつの間にか、WEリーグの理念は歪み、WEリーグの進むべき道筋も歪んでしまっていたのです。
髙田さんは退任リモート会見で、このように話しました。
「(WEリーグが)『理念先行』と捉えられてしまうところは、どうやったら理解していただけたかな、と思うところはあります。
(残り 1942文字/全文: 4643文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ