WEリーグ 「認知度を上げることが足りなかった」とは何が足りなかったのか?情報開示とコミュニケーション
なぜWEリーグは「認知度を上げることが足りなかった」のか?具体的には何が足りなかったのか?
2024年9月26日に公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)は社員総会および理事会を開催。チェア(理事長)にJリーグチェアマンの野々村芳和さんが選任され就任しました。就任記者会見が行われ、就任した理事は力のこもった発言を続けました。WEリーグを次代に引き継ぐ責任を感じる記者会見でした。
「女性の理事が減少したことには抵抗感がある。」
そのような声を多く聞きます。「絶望」という二文字を使用して心境を表明される女子サッカー関係者も筆者の近くに複数いました。役員改選で15人のうち7人だった女性理事が9人中3人に減少しました。
ただし、野々村チェアは任期終了後は女性のリーダーにバトンタッチしたいと考えを明かしました。
なぜか就任会見では語られなかった「認知度」
その6日前の9月18日に髙田春奈さん(当時・チェア)が退任前のリモート会見を行いました。「認知度を上げることが足りなかった」「露出、発信が課題だったことは間違いない」と伸びない入場者数の原因について話しました。
ところが、9月26日に行われた就任記者会見の中で、意外にも「認知度」について語られる場面はほとんどありませんでした。そこで、WE Love 女子サッカーマガジンでは「認知度を上げることが足りなかった」とは何が足りなかったのかについて、日本パブリックリレーションズ協会 PRプランナー資格取得者の立場から検証することにしました。
多くの人がWEリーグに「日本の女子スポーツを変える期待」
調べてみると、WEリーグの認知度は多くの人が想像しているよりも高いこと、実はWEリーグが認知度を上げることに思ったほど力を入れられなかったこと、WEリーグの目指す方向が広く知らされされていなかったことが見えてきました。
それでも、多くの人が「WEリーグが日本の女子スポーツを変える期待」をしています。新体制のWEリーグは、その期待に応えるべく、問題点の解消に努めてほしいと思います。今回の記事では「認知度を上げることが足りなかった」の検証と新体制への期待をお伝えします。
認知度を上げるための予算をかなり減額していたWEリーグ
2023−24シーズンに、WEリーグが、どのように認知度を上げることに取り組んでいたのかは、印象よりも数字で把握することが大切です。9月26日に発表された「2023年度決算報告」書類で見てみましょう。
正味財産増減計算書によると経常費用の中の事業費に含まれる広報事業費は4千511万2千71円で前年度より1千561万2千766円の減額。プロモーション事業費は2千386万3千503円で前年度より1千954万4千110円の減額。マーケティング事業費は4千377万6千954円で前年度より3千537万1千692円の減額。
つまり、WEリーグは「認知度を上げることが足りなかった」「露出、発信が課題だったことは間違いない」状況であるものの、認知度を上げるための項目の事業予算を減額していたということがわかります。一方で、理念推進関連費等が大幅に増加しています。理念推進関連費に情報発信の費用が含まれていたとしても(内訳は未公表)、なぜ、理念推進関連を除いたWEリーグの認知度を上げることに予算を注げなかったのかは謎が残ります。本来であれば、設定したkpiに対して「行動目標」「露出目標」「成果目標」がどのようになったのかを精査したいところです。
では、実際の認知度はどうだったのでしょうか。
多くの人が思うよりも認知度は上がっていた
共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運営する株式会社ロイヤリティ マーケティングによる「WEリーグに関する調査(2023年8月)」を見るとWEリーグの認知は58%。Jリーグの認知87.7%と比較すると劣るものの、多くの人が嘆くほど低くはありませんでした。
例えば、古い資料ですが2016年3月にニールセンスポーツ「#SPONSORLINK」が行った調査では、当時のVリーグ女子(バレーボール)の認知は51%。当時、設立2シーズン目のBリーグ(バスケットボール)が64.8%です。これらと比較すると(正確な比較にはならないので参考程度に)2023年のWEリーグの認知度(単純なブランド想起)は致命的に低いわけではなく、3シーズンを費やして、じわじわと向上していたことがわかります。
態度変容を促すための広報活動に課題
つまり、WEリーグは、単純なブランド想起までは(満足できるレベルではないが)ある程度は進んでおり、広報活動は次のステップに入っていたと考えられます。それはWEリーグの試合会場に足を運びたくなるような魅力を伝える発信の強化です。
WEリーグが何を考え、何を魅力として女子サッカーの価値を上げていこうとしていたのか……今、スタジアムに足を運ぶファン・サポーターはどのような楽しみ方をしているのか、その理解と共感を社会に広げ、ターゲット層がスタジアムに足を運んでいただけるような態度変容を促す広報施策、プロモーション施策、マーケティング施策の必要がありました。
WEリーグが積み残した2つの課題
広報活動は、やみくもに予算を投下すれば成果が上がるわけではありません。テーマごとのkpiを定め、目的に沿った活動の選択と集中が必要です。適切な方法を採用すれば理解と共感を社会に広げられるはずです。例えば、それは「取材のハードルを下げる・誘致する」「積極的に情報開示する」という方法です。
積み残した課題1「取材のハードルを下げる・誘致する」
各チームは試合だけではなく、イベントやスタグル等を充実し、ファミリーで楽しめるイベントとしてエンターテイメント提供する方法を模索しています。ところが、従来からのスポーツメディアは記事にできる文字数、記者が女子サッカーに避ける時間、読者層に限界があるので、こうした情報をWEリーグやチームの思う通りに記事化してくれることが難しい。ですから、新たなメディアの取材誘致活動を拡大していかなければないません。
しかし、現実を見ると、WEリーグの魅力や楽しみ方は、なかなかメディアに露出しません。特に、家族でのお出かけをテーマにした地域情報メディアや子育てメディアにWEリーグの取材記事が掲載されることはあまりありません。
(残り 2198文字/全文: 4843文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ