WEリーグに新たな動き ノジマステラ神奈川相模原が浮上、マイナビ仙台レディースが低迷する季節の変わり目
次の試合が楽しみに、自信みなぎるノジマステラ神奈川相模原の選手たちの言葉
ノジマステラ神奈川相模原が2024−25 WEリーグ クラシエカップを連勝。グループBの首位を走ります。一方、ノジマステラ神奈川相模原に0−1で敗れたマイナビ仙台レディースは連敗。マイナビ仙台レディースは並行して戦いの続く2024−25 SOMPO WEリーグも連敗し苦しんでいます。昨シーズンは共に下位で苦しんだ両チームですが、何がスタートダッシュの明暗を分けたのでしょうか。
今シーズンよりネットメディアの有料記事ではWEリーグより写真が提供されないことになりました。無料記事よりも有料記事の方が無料部分の文字数も多くGoogleの評価が高いため有料記事の閲覧数は多いのですが、自社で撮影人員を投下できず試合の写真を掲載できないことをお詫び申し上げます。申し訳ありません。
目指す戦い方が見えにくいマイナビ仙台レディース
西野朱音選手が左膝内側側副靱帯損傷、太田萌咲選手が左膝前十字靱帯損傷、廣澤真穂選手が左膝内側側副靱帯損傷……マイナビ仙台レディースの主力選手に大きな怪我が続出しています。2024年9月25日に開催された2024−25 WEリーグ クラシエカップ グループCの第3節・ノジマステラ神奈川相模原戦には、高平美憂選手、國武愛美選手の姿もありませんでした。さらには、スタメン起用した遠藤ゆめ選手が25分に交代。ウォーミングアップ中には発見できなかったコンディショニングのアクシデントが試合開始後に起きてしまいました。
怪我人続出の穴を埋める10代の選手たち
6人の育成組織TOP可選手のうち3人が出場しました。スタメンには10代の選手4人が名を連ねました。個々に素晴らしい才能を披露します。しかし、チーム全体で見るとチーム作りの出遅れを感じます。今シーズンのWEリーグは飛躍的に強度が高まりました。攻守の切り替えも早くなった女子サッカーに、マイナビ仙台レディースは対応しきれていないように見えます。
マイナビ仙台レディースの須永純監督は苦しい台所事情を明かします。
「本来は中堅どころがいて、強度の高い選手がいるのですが怪我人が多い。今の状態の中でベストの選手を選んで(ピッチに)出しています。彼女たちの強度が全部低いかというとそうではない。この中で成長していくしかないといいますか、それに対して我々スタッフはサポートします。」
“ひと”が育つために必要なプレー強度と勝利への執着心
三菱重工浦和レッズレディースから移籍加入した長船加奈選手は、ゴール前でノジマステラ神奈川相模原のクロスを跳ね返し続けました。マイナビ仙台レディースの失点を1に抑えた立役者です。これまで、WEリーグ随一の高い強度でトレーニングと試合をしてきました。プレーだけでなく、若い選手の多いマイナビ仙台レディースに学ぶ意欲をより高める役割も期待されています。
「強く言っても理解してもらうことは難しいですから、コミュニケーションをしっかり取りながらやっていきたいと思っています。ちょくちょく(若い選手と)話しますれけど(話して)すぐにできるものでもないので続けていきたいです。」
マイナビ仙台レディースの選手たちが、迷いなくボールに飛び込めるようになるまで、まだ少し時間を要すことになりそうです。「日本でいちばん、“ひと”が育つクラブ」へ険しい道のりが続きます。
選手が楽しめるサッカーが芽生えたノジマステラ神奈川相模原のロードマップ
ノジマステラ神奈川相模原のサッカーは驚くほどに変わりました。昨シーズンまでのもがき苦しむ雰囲気がピッチ上の選手から感じられません。スタンドから見てサッカーの楽しさを味わえるチームになってきました。
計画的に「伸ばす」指導が戦い方を研ぎ澄ます
昨シーズン途中に監督に就任した小笠原唯志さんは、ここまで、段階を踏んで、選手のマインド改革やプレーモデルの構築に努めてきました。今シーズンは、開幕前のトレーニングも順調で、開幕直後から具体的な成果が見えてきた感じです。小笠原監督自身も今シーズンは「必死でやるのではなく楽しくやる」ところに選手が近づいている印象を持っています。
「普段から判断やスキルの発揮のことを言ってきました。練習して、プレーモデルを紐付けてきました。(選手は)何を目指してるかを整理してくれていると思います。ここまででは新潟戦(2024−25 WEリーグ クラシエカップ開幕戦2−1で勝利)が一番できていたということを選手に伝え『それを取り戻せ』と話しました。」
チームの熟成具合を料理に例えました。京都府宇治市出身の小笠原監督が、この料理の味に例えたユーモアが、おそらく、選手に指導の届く絶妙なポイントなのでしょう。
「個人戦術と個人スキルを並行して上げるように言っているのですが、そういうところがちょっと身に染み込んできたかな。おでんで言うと、まだ『ちょっと水くさい大根』くらいですけれど、もうちょっと味を染み込ませるとレッズさんとか上位のチームに同じような戦いができるようになると思っています。」
大竹麻友選手がゴール右上隅に得点を決めたことにも理由がある
例えば、小笠原監督はシュートを打つコースについて独自のこだわりを持って指導してきました。「シュートを外して監督に怒られることを怖がる選手」になってほしくないと考えます。「外しても何とも思わない」ストライカーメンタルを求めます。それは、つまりGKがキャッチできないゴールの隅を狙い続けること、そして、10本外しても1本をゴールの隅に決め切ることの重要性を意味します。
この試合で唯一の得点を決めた大竹麻友選手は「狙ったコースに決めたわけではない」と話しました。日頃のトレーニングの癖で、無意識に右上隅にシュートを打てたわけですから、小笠原監督の順序立ててチームを組み上げていく指導と、大竹選手の努力が実った得点といえるでしょう。選手の意識は大きく変わってきました。
無理につなぐことを求めなくてもワッと驚くプレーが出せる
もう一つ、確実に成果を披露しているのは最終ラインからの速攻の仕掛け方です。小笠原監督は「つないで綺麗に崩すサッカーを身につけるには、まだ3年くらいかかる」と大袈裟な冗談で取材陣を笑わせます。今シーズンの攻撃の重点テーマは「ボールを奪ってカウンター。クロスからのフィニッシュ」です。いきなり背伸びすることなく、できることからチームの強みを明確にしていく方針です。最終ラインを支える大賀理紗子選手に聞いてみました。
「ダイナミックにといいますか、今シーズンは前にパワーを持ってできています。それがステラには合っていると思います。もちろん『つなぐところはつなぐ』のもステラのサッカーですが、それ以上に、今は(大竹)麻友とかスプリンター系の選手とかがいるので、このようなサッカーができている。見てる人がワッと驚くプレーが出たり、ゴール前でのバトルが出たりするところにつながっていると思います。」
昨シーズンまでは、最終ラインで奪ったボールを、何か苦しそうに誰もいない前線に蹴り出してしまう場面がたくさんありました。逆に、無理につなごうとして自陣でのパスミスからピンチを招くことも珍しくありませんでした。
「(今シーズンは)奪った後にダイレクトでフォワードに(縦パスを)差し込むだったり、フォワードが大体どこにいるかの残像を頭に残しながらプレーをするようにといったことが練習中から求められています。『まずは前』を意識しながらできていると思います。
局面がバンっと変わる場面をもっと増やしていきたいです。」
選手は、今の自分たちを見てほしいと言葉にする
勇気あるプレーでゴールを守る、ゴールキーパーの池尻凪沙選手は、より多くのファン・サポーターに今のノジマステラ神奈川相模原の姿を見てほしいと思っています。
「前に速いサッカーをやっているので、これまでのシーズンよりゴール前に迫るシーンが増えると思います。見ているお客さんに『ちょっと前と変わったな』と感じてもらえると思います。」
どの選手からも言葉の端々に自信を感じます。ノジマステラ神奈川相模原の披露するサッカーの楽しさを感じてほしいというポジティブなニュアンスを表現に含みます。相模原ギオンスタジアムに、やっと、選手のはつらつとしたプレーを味わえる季節が到来しました
(2024年9月26日 石井和裕)