「リストカットは痛そうだから、ピアスの穴をあけてみた。」から2年半 フットサルの総合情報サイト『SAL』伊藤千梅さんの今 女子サッカーと働く人その3
伊藤千梅さんが女子サッカー選手を引退する際に得た「相手が表に出していないこと」を大事にする姿勢
女子サッカー関係者の間で、今も語り草になっているnote( https://note.com/chiume23/n/ndedd125a022f )があります。そのタイトルは『リストカットは痛そうだから、ピアスの穴をあけてみた。』。ある女子サッカー選手が発したひと言で引退試合に出場できなかった、その1年後に心境を綴った文章です。
あれから2年半が経ちました。
女性ライター2人のユニット「ひかちう」でも活躍中
女子サッカーと働く人、その3回目に訪ねた元女子サッカー選手は伊藤千梅さんです。以前はスタジアムで顔を合わせていた伊藤さんとお会いすることは少なくなりました。 伊藤さんは、今、株式会社ウニベルサーレに所属し、フットサルの総合情報サイト『SAL( https://f-sal.com )』等で取材・執筆をしています。「ひかちう」という女性ライター2人のユニットでYouTubeでの発信活動も行っています。文章の調子は、あの頃とは随分と変わりました。
自分を見つめ直しnoteで掴んだチャンス
『リストカットは痛そうだから、ピアスの穴をあけてみた。』は、伊藤さんがサッカー選手を引退する前後の出来事を自ら振り返って書いたものです。
「あれは、引退した後、1年の月日を費やして書いたような文章です。時間をかけて整理し、きちんと気持ちの整理がついた状態で公開しました。今も、あの件に関してあれ以上の文章はたぶん書けない。今読み返せば、直したいところはたくさんあります……でも、 傷つけないように自分ゴトとしてよく書けていた。あのときの自分に『よくやった』と言ってあげたいです。」
引退時の一言が、今の仕事にもつながる大きな経験となった
今はスポーツメディアチームの一員となりました。しかし、今でも、あのnoteはそのままにしてあります。
「あの経験があるから、ちょっと立ち止まれる。自分の中に『相手が表に出していないこと』を大事にする姿勢を持てるようになりました。それが、今のライターの仕事につながっていると思います。」
出場機会を得られなかった現役時代に得たこと
スフィーダ世田谷FCでプレーしていた伊藤さんは2016年シーズンに17歳でなでしこリーグデビューを果たしました。でも、順風満帆ではありません。レギュラーポジションを獲得することができず、3年目の2018年シーズンは1試合の途中出場にとどまりました。2019年シーズンにFC十文字VENTUSに移籍。それでも、前年と同じく1試合の途中出場しかできませんでした。
「FC十文字VENTUSでの1年目は自分に自信を持てなかったです。スフィーダ世田谷FCで試合に出られなかったときの記憶が強く残っていました。全力でやっていたつもりだったけれど、どこかで『私は上手くできない』と思いながら、もったいない時間を過ごしてしまいました。
大学3年生でもあったので(サッカーと関係がない企業への)就活をしていました。面接に行くと『サッカーやっているの?』『なぜこの会社を選んだの?』と聞かれます。それで、自分と向き合う時間が増えたことをきっかけに『私はなぜサッカーをやっているのだろう?サッカーのどこが好きなのだろう?自分に何ができるのだろう?」と考えるようになりました。」
書くことで考えを整理した
ちょうどコロナ禍で試合も練習もできない時期がありました。伊藤さんは、その時間を使ってnoteを始めました。考えを整理し、文字を打ち、発信するうちにプレーが変化していきました。
「実質4年間、なでしこリーグ2部のチームに所属しましたが、きちんと、サッカー選手としての自分に向き合うことができたのは、この1年間だけだったと思います。」
所属チームの環境がWEリーグの誕生で大きく変化
伊藤さんの現役生活は、このシーズンを最後に終わります。21歳の冬のことでした。所属するFC十文字VENTUSが母体になって大宮アルディージャVENTUSが誕生することになりました。
「チームから『(あなたは大宮アルディージャVENTUSに)残れません』と伝えられた際に、すんなりと受け入れられました。ボールを蹴るのが好きでサッカーを始めたのですが、割と勝負事にとらわれるタイプでした。『勝たなきゃ意味がない』とか『勝ちを目指さないと駄目だ』とか考えるようになっていました。 そろそろ、選手ではない自分になりたかったのかもしれません。だから『WEリーグが始まったせいで引退した』とは全く思っていないです。ただ、そのとき、自分の一言がきっかけで引退試合に出られなかった……。」
そのときの経緯と揺れ動いた心を「リストカットは痛そうだから、ピアスの穴をあけてみた。」に書きました。
フリーランスのライターとして生きるために自分を変える
伊藤さんは、当初は波打つようなエモーショナルな文章をnoteに書いていました。その表現技法は、徐々に変化していきました。
「noteに書き始めた頃は何も学んでないし何も知らない状態でした。
(残り 1378文字/全文: 3784文字)
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