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町民に愛されるヴィアマテラス宮崎 女子サッカー幸せの秘密 なでしこリーグの小さなホームタウン

人口約1万6千人の町で女子サッカーチームが愛される理由 

2024プレナスなでしこリーグ1部は折り返し地点。二巡目の初戦となる第12節で、3位のニッパツ横浜FCシーガルズが首位のヴィアマテラス宮崎をニッパツ三ツ沢球技場に迎えました。双方が走り攻め合いましたが、後半はヴィアマテラス宮崎が押し込み95分に決勝点。右の中間ポジションからのクロスに反応したエースの齊藤夕眞(さいとうゆうま)選手が中央で潰れると、意表をついて左サイドのワイドのポジションから走り込んできた板倉楓選手がシュート。ボールをゴールマウスに叩き込みました。

苦しいアウェイゲームを制したヴィアマテラス宮崎

注目の優勝争い大一番はヴィアマテラス宮崎が土壇場で底力 

ニッパツ横浜FCシーガルズの石田美穂子監督は「サイドバックの前にポイント(齊藤夕眞選手)を作られ大外を走られて失点してしまいました。選手たちには『これを経験にしていくしかない』と話し、ヴィアマテラス宮崎の落ちない走力と迷いなき攻撃に脱帽しました。

注目の大一番ということもあり1千人以上のファン・サポーターが地元チームの応援に足を運んだ

動きが止まることなく、お互いの個性がぶつかり合う好ゲーム

ニッパツ横浜FCシーガルズは、立ち上がりから意図的に相手にロングボールを蹴らせては跳ね返し、キープレーヤーであるボランチの嘉数飛鳥(かかずあすか)選手には圧力をかけました。ボランチで先発した吉田凪沙選手の競り合う力が強いとみるや、ヴィアマテラス宮崎の齊藤選手は、少し引き気味のポジションに。しかし、ヴィアマテラス宮崎はハーフタイムに水永翔馬監督が選手交代とポジション修正を行い、ニッパツ横浜FCシーガルズのゴール前に侵入する選手の数を増やしました。両チームの監督の戦術的な駆け引きも見応え十分でした。

最後まで走り切って得点を決めた板倉楓選手

エース・齊藤夕眞選手を無得点に抑えることはできたが

吉田選手は、試合を終え、ピッチにしゃがみ込みました。なぜ勝てなかったのだろう……遠くを見つめました。

「戦えていたので、終了間際の失点での負けは悔しい。シンプルに疲労も感じていました。

ヴィアマテラス宮崎は齊藤さんに徹底してボールを入れ込んでくる。齊藤さんは強いので、そのエリアはしっかりと潰せるように、自分が全部跳ね返すくらいの気持ちでプレーしていました。それでも五分五分の戦いになったり負けたりしていたので、負けたくない気持ちでやり方を変え、試行錯誤しながらやっていました。

走り負けないハードワークは、もう当たり前にしていかないといけない。そのプレーの中で判断の質を上げていくことが必要だと思いました。最後に決められたときもそうですが、ああいうワンチャンスを決め切るところであったり、一つひとつのプレーにどれだけこだわっていけるかだったり、突き詰めていくことが勝つための鍵だと思います。」

悔しさを抑えることができなかった吉田凪沙選手

なでしこリーグ1部は二巡目に入り各チームがヴィアマテラス宮崎攻略を狙う

ヴィアマテラス宮崎は前節に伊賀FCくノ一三重に01で敗れました。チーム結成以来、リーグ戦での敗戦は初めて。連続無敗記録は52で止まりました。そして今節も95分まで得点することができませんでした。

対戦相手は警戒を強め研究し、難しい試合が増えています。ここまで12試合で8得点(昨年は、なでしこリーグ2部で18試合23得点)の齊藤選手は、ただ単純に走り切ることが勝利への近道だというわけではないと考えています。

「一巡目の途中くらいから(対戦相手による研究を)ずっと感じていました。対策をされても、それを上回るサッカーをしなければいけないと思います。どちらかというと体力戦、走力戦みたいな試合になってしまったので、もう少し展開を考え、相手が引いていたらディフェンスラインの裏を狙い続けるのかの判断を自分たちでもしながら、もっともっと得点できるサッカーをできればと思います。」

アルガルヴェ・カップ2011でのプレー経験がある齊藤夕眞選手

強度は立ち返る場所だがレベルアップの必要性も感じるヴィアマテラス宮崎

水永監督は、簡単に勝てない試合が増えることを想定してきました。この試合のために、男子高校生とのトレーニングマッチも組んで準備してきました。

「斜めの動きだったり、簡単にクロスを入れるだけでは弾かれると思うので、入れる場所やセカンドボールを拾うポジションであったり、もっと高い質でやれればと思っています。

昨シーズンに2部でも夏の中断前に、なかなかうまくいかないときがありました。そのとき自分たちで立ち返る場所が強度。そこは絶対に負けていないですし、自分たちの特徴だと思っています。そこを磨きながら、同時にレベルアップするトレーニングをしていこうと思います。」

水永翔馬監督

1千人以上の入場者数の試合が珍しくなくなってきたなでしこリーグ1部

強度で相手を圧倒できるヴィアマテラス宮崎やニッパツ横浜FCシーガルズ、素早いパス回しで相手を翻弄できる朝日インテック・ラブリッジ名古屋、変化に富んだオルカ鴨川FC、高いディフェンスラインからの速攻に磨きをかけるスフィーダ世田谷FC……2024プレナスなでしこリーグ1部は試合の質を高め多くのファン・サポーターを集めています。第12節は6試合のうち3試合が入場者数1千人超え。この節の入場者数は1試合当たり平均927人を記録しました。

女子サッカー選手を熱い眼差しで見つめるホームタウンの子どもたち

ヴィアマテラス宮崎は順位が首位であるだけなく人気も首位を走ります。平均入場者数は1千474人。なぜ、ここまで愛される人気チームとなったのでしょうか。

齊藤夕眞選手とのポジションチェンジでニッパツ横浜FCシーガルズを混乱させた今蔵綾乃選手(左)は愛媛FCレディースからの加入

ヴィアマテラス宮崎のホームタウン・宮崎県児湯郡新富町

宮崎駅から日豊本線で約20分。日向新富駅で下車し徒歩15分の距離にいちご宮崎新富サッカー場があります。ヴィアマテラス宮崎は、今シーズンから、このスタジアムを公式戦に使用できるようになりました。試合開催日には、多くのファン・サポーターが訪れます。

地域の誇りとなる女子サッカーチーム

新富町を訪れると、出会う人は口を揃えてヴィアマテラス宮崎を自慢します。そして、選手について話します。サポーターはチャント(応援歌)の歌詞に「宮崎」だけではなく「新富」を多用します。理由を聞いてみると「選手たちは日頃から新富町で働いています。選手にも、応援している僕らにも新富町の誇りがあります」という答えが返ってきました。

サーフスポットとして知られる富田浜(とんだはま)海岸。近くにウミガメの産卵地がある

第12節のアウェイ遠征に帯同したゼネラルマネージャー(GM)の柳田和洋さんは宮崎県サッカー協会専務理事でもあります。かつては、テゲバジャーロ宮崎(現・J3)を創設し代表取締役を務めていました。歌詞のことを聞いてみると、このような答えが返ってきました。

「サポーターから歌詞に『新富』を入れるという話がありました。新富町の職員に、そのお話をしたら『東京の新富町(中央区)と間違えられて恥ずかしいからやめてほしい』というお話がありました(笑)。でも、新富町の名前を売るという目的ではなく地域性のプライドを示すためにも、絶対に入れた方が良いと思い、私たちは賛成しました。宮崎県児湯郡新富町の人口は約1万6千人しかいません。そのような小さな町でもやれるということを伝えられます。町にはテゲバ(ジャーロ宮崎)がありヴィアマ(テラス宮崎)がある。地元に住む子どもたちがプライドを持てる町にしていくところに、私たちの存在意義があると思います。」

ヴィアマテラス宮崎でゼネラルマネージャー(GM)を務める柳田和洋さん

全くと言って良いほどサッカーを知らなかった町民がスタジアムに押し寄せる

今シーズンに限っていえば、同じくいちご宮崎新富サッカー場を使用するテゲバジャーロ宮崎を凌駕してヴィアマテラス宮崎のファン・サポーターは増え続けています。

これまで、ヴィアマテラス宮崎を支えてきたのは、主に地元の高齢者です。地元ではよく知られた逸話があります。「あんたどんがF1に上がるまで私は応援するわ」と言われたというのです。

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