WE Love 女子サッカーマガジン

なでしこジャパン 「悲壮感」からの脱出 長谷川唯選手(マンチェスター・シティ)試合中の微笑み写真について尋ねてみた  

なでしこジャパンは夢のパリ五輪で女子サッカー特有の「悲壮感」から離れることができるか 

テレビの人気情報番組や人気バラエティ番組から感じてれるように、多くの日本人は「逆境の話」が好きです。共通の話題となりやすいですし、記事は読まれやすいです。しかし、スポーツを楽しむ人の輪を広げていくことを目的としたときに、メディアが発信する情報に「逆境の話」そして背負ってしまう「悲壮感」はどの程度まで必要でしょうか。 

今回は、女子サッカーの「悲壮感」について考えてみたいと思います。 

先制点に喜びを爆発させる選手たち  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

長谷川唯選手(マンチェスター・シティ)が試合中に微笑みを浮かべていたことに気づいたファン・サポーターは驚いたかもしれません。筆者は写真(記事の中盤以降に掲載)を見て、その柔らかな表情に驚きました。 

そして、このポスト。同じようなことを感じたファン・サポーターが多かったのではないでしょうか。両チームが攻め合う素晴らしい試合でした。

日本の女子サッカーにとって。とても重要な五輪出場権 

五輪は日本人にとってビッグイベント。日本の女子サッカー界にとって、五輪出場はFIFA女子ワールドカップ出場と並ぶ程の重要性があります。東京2020大会の調査データを見ると、それがよくわかります。 

TVISIONが調べた「アテンション含有率(テレビの電源をONにしていた視聴者がどれくらい注目しているかを表す)」によると、男性視聴者が最も注目した競技の1位は「サッカー男子・準々決勝 日本×ニュージーランド」。2位は「サッカー女子・準々決勝  日本×スウェーデン」、3位は「サッカー女子・予選リーググループE 日本×イギリス」となっており、あらゆる競技のテレビ中継の中で、女子サッカーは特にしっかりと視聴されています。そのため、日本中に女子サッカーをアピールできるのです。 

女子オリンピック サッカートーナメント パリ 2024最終予選・第2戦(ホーム)では国立競技場に多数のメディアが集まりました。注目の朝鮮民主主義人民共和国(DPR KOREA)女子代表戦ということもあり、試合後の選手コメントを取るのが難しいくらいの人だかり。取材は加熱しました。 

出場権を獲得し笑顔が溢れる山下杏也加選手(I神戸)、田中桃子選手(東京NB)、北川ひかる選手(I神戸)  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

選手に共有されていたリオ五輪出場を逃した際の痛み 

試合前、試合後ともに、多くの選手が「リオ五輪出場を逃した際の出来事」の話をしました。18歳の谷川萌々子選手も取材時に触れています。 

実は、第1戦の前日に行われたミーティングで、熊谷紗希選手(ASローマ)が自身の経験談を話していました。その先も本大会まで続くはずだった大好きなチームメイトとプレーする時間が、予選敗退によってプッツリと打ち切られてしまった熊谷選手自身の悲しみを強調した話です。熊谷選手は第2戦の翌日に羽田空港で行われた取材で質問に答え「皆に『背負え』ということではなかったのですが伝えました」 と、そのミーテインングのことを振り返りました。 

ドローンにより夜空に浮かび上がった日本サッカー協会のエンブレム   Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

選手間での共有は必要だが外から煽ることは必要なのか 

選手は、使命感を帯びること、連帯感を形成すること、モチベーションを高めることで信じられない好プレーや崖っぷちからの大逆転を生み出してきました。チーム内で、自分たちのプレーする意義や悔しい経験を語り継いでいくことは目の前の試合を勝利するためにも必要です。 

女子サッカー アジア最終予選(リオデジャネイロオリンピック2016)に出場していた熊谷紗希選手(ASローマ)  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

そして、女子サッカー アジア最終予選(リオデジャネイロオリンピック2016)に敗れ、なでしこジャパン(日本女子代表)が出場権を失い、当時、女子サッカーへの注目が低下したのは事実です。しかしながら、あれから8年を経ても、メディアから「予選敗退の悲劇」を切り口にした質問が相次ぎ、連日のように記事化されると、どうしても世間にネガティブな印象が広がり、女子サッカーの「暗さ」「重苦しい雰囲気」が拭えません。そのため、次代の女の子たちがスポーツをする際に、他の競技ではなく女子サッカーを選択してくれるか心配になります。 そして、選手に余計なプレッシャーもかかります。 

ポジティブなエネルギーを出していこうと思っていた池田太監督

出場権獲得を決めた2週間後の3月13日に、池田太監督は取材に応じました。第2戦を前に張り詰めた空気の前日会見で「ワクワクしています」と表現したことについて振り返りました。

「自分も含めスタッフがナーバスになっていると、そういったエネルギーが選手に伝わると思います。なので、自分自身は五輪に行けるか行けないかのどちらかしかない試合の前に腹をくくりました。もう『挑むしかない』と思ってました。スタッフは想定外のことにもパニックにならず、良い意味での緊張感がありました。ポジティブなエネルギーを出していこうと思っていました。」

なでしこジャパン(日本女子代表) 池田太監督 3月13日の取材

「(ホーム&アウェイの)2戦目で修正できるという自信もありました。『国立競技場で皆に応援してもらって出場を決めたら最高だろうな』とイメージして準備していました。」

出場権獲得が決まり喜びの表情を見せる選手たち  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

五輪本大会には笑顔、元気、夢を求める日本人 

NRIが2021年に行った東京オリンピックに関する独自調査(回答者3千564人)によると東京2020大会を開催して良かった理由の多くは「スポーツ選手との共感」でした。 

スポーツ選手の笑顔や姿勢に共感した が最も多く63.8%
明るく元気な気分になれた が3番目に多い58.0%
子どもに夢を与えることができた が5番目に多い32.0%  

時代にマッチし人気が上昇するアーバンスポーツ 

そのような世相もあり、若者のスポーツ離れが進む中でもアーバンスポーツは人気が上昇しています。アーバンスポーツとは東京2020大会の競技でいえばスケートボード、サーフィン、スポーツクライミング、バスケットボール3人制、自転車のBMXフリースタイルのことを指します。  

アーバンスポーツの魅力は、なんといってもチャレンジです。選手たちの技をたたえ合う姿や遊びの延長として楽しんでいる姿が印象に残っています。例え失敗しても批判を受けることは極めて珍しく、多くは、その挑戦姿勢と明るい雰囲気が高い評価や共感を呼び起こしています。 アーバンスポーツの中継に「悲壮感」は似合わず、挑戦、笑顔、可能性と未来が似合います 

スケートボード パーク女子決勝で大技に挑んだ岡本碧優選手が最後のトリックを失敗した際に、他のスケーターたちが一斉に駆け寄り抱き合った光景が、東京2020大会を最も象徴するシーンとして多くの人に拡散されました。  

インタンシティが高い試合で抜群の強さを見せる清家貴子選手  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

スケートボードの印象がサッカーを上回った東京2020大会 

2021年9月から10月にかけてNHKが行った世論調査(回答者数2千217人)によると「東京2020大会の競技や式典のうち、あなたが特に印象に残ったものはどれですか」という質問にサッカーと回答した人は26.9%。スケートボードと回答した人は、これを大きく上回り36.7%でした。 

サッカー界は、この数字を無視することはできません。 

女子サッカーの楽しさを伝え続けた長谷川唯選手(マンチェスター・シティ)  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

  「悲壮感」から距離を置く長谷川唯選手(マンチェスター・シティ) 

「この舞台に立てるのは本当に特別です。選ばれた選手しかプレーできないというところに責任も感じていますけれど、やっぱり、その『特権』というか、ここでプレーできる喜びを自分たちがしっかりプレーして見せることが大切です。」(長谷川唯選手) 

取材陣から「悲壮感」を引き出そうとする質問が相次ぎ、多くの選手は第1戦を迎える前からリオ五輪予選について話してきました。 

そんな中で、質問にストレートに回答しなかった印象の選手がいます。長谷川唯選手です。長谷川選手は、以前から、女子サッカーの魅力や楽しさをファン・サポーターに伝えたいという意志を表明してきました。あえて、ここで「特権」という強い単語を使用し、特別な舞台を戦える日本のトップ・プレーヤーとしての喜びを強調しました。 

世界的プレーヤーとしての地位を欧州で確立した長谷川唯選手(マンチェスター・シティ)  Photo by Ke X→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

楽しくなくなっては意味がない 

長谷川選手は、出場権を獲得した直後の取材対応でも、はっきりと、その意志を示していました。 

(残り 3602文字/全文: 8273文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ