秋春制の現実と降雪地支援のあり方 現地取材で知るアルビレックス新潟レディースの日常と備え
ウィンターブレイクのトレーニング現場から明らかになったWEリーグの現実
Jリーグが秋春制入を決定しました。近年、サッカー界では秋春制がホットなテーマとなっています。ネット上で秋春制について発言すると、往々にして賛成・反対の対立が発生します。
厳しい真冬のトレーニングについて何を知っているのだろう?
筆者は長野県飯山市や岩手県北上市で雪国の積雪を何度も体験しているとはいえ、真冬のトレーニング現場のことを知りません。それでは、本当の秋春制の課題が見えてこない。そこで、今回はアルビレックス新潟レディースのトレーニングを訪問取材することにしました。
WEリーグはJリーグに先駆けて秋春制を導入しています。WEリーグの現実を知ると、取り組むべき秋春制の課題が見つかります。そして、取材するまで誤解していたことにも気がつきます。この記事の結論は、予想外の方向に導かれました。
アルビレッジを訪ねて
アルビレックス新潟レディースはホームゲームをデンカビッグスワンスタジアム(新潟市中央区)、新潟市陸上競技場(新潟市中央区)をホームスタジアムとし、トレーニングを行うアルビレッジは新潟市と新発田市に挟まれた新潟県北蒲原郡聖籠町東港にあります。
2023−24 WEリーグのウィンターブレイクは1月9日から3月1日まで。その間、新潟県内での公式戦はありませんがトレーニングは行われます。まずはホームタウンのトレーニング施設で。そして、2024年2月7日(水)から18日(日)まで沖縄県南城市の南城市陸上競技場で、2月19日(月)から24日(土)は大阪府泉南市でトレーニングキャンプを実施しています。
曇り空からスタートした取材
聖籠町東港を訪ねる取材は新幹線で往復する日帰り旅となりました。新潟駅到着は8時7分。到着時の新潟駅周辺は予報通りの曇天でした。
新潟駅から車で約30分の移動、オレンジとブルーに彩られた鮮やかな建物が見えてきました。アルビレックス新潟レディースクラブハウスです。入り口にはクラブハウス環境整備募金に参加した人の名前が記されたプレートが掲示されています。
日本海に面した工場の立ち並ぶ地域にあるトレーニング施設
まず気になったのは入り口に立てかけられたたくさんの除雪道具。そして、漂う灯油の匂いでした。気温が低いとき、気温の低い場所に移動してトレーニングをするときは石油ファンヒーターを使用します。いつでも持ち運べるように、エントランス脇に置かれていました。
アルビレックス新潟レディースクラブハウスはアルビレッジの敷地内にあります。アルビレッジには天然芝ピッチ3面、人工芝ピッチ3面、天井の高い屋根付フットサルピッチがあります。フィットネスジムもあります。港に面し、工場と発電所が並ぶ地域で、時折、霧笛が寒空に響きます。
「本気でタイトル獲得」を目指すアルビレックス新潟レディースは、選手たちの更なるコンディションの向上やトレーニング環境面の拡充を図るため、トレーニング環境整備募金を行なっています。
※2024年3月2日(土)23時59分まで(https://albirex-niigata-ladies.com/news/2024-02-17/)
日頃は当事者から明かされない降雪地のご苦労を探る
取材日はピッチに積雪なく、トラック脇や駐車場だけに雪が残っていました。風は冷たく、マフラーやネックウォーマーなしでは首元が寒いです。当初は使い捨てカイロを使用せずに取材していたのですが、途中で寒さを我慢できなくなり使用しました。カメラを持つ手はかなり冷たく、クラブハウスの中に入っても、すぐに綺麗な文字を書けないでしょう。
降雪地のトレーニングは計画通りに進まない
「『雪かきをするとチームに一体感が出るんですよ』とよく聞くけれど……出ない、出ない。腰が痛くなるだけです(笑)」
インタビュー取材は、橋川和晃監督の冗談から始まりました。 FC今治で執行役員アカデミー・メソッドグループ長をされていた橋川監督がアルビレックス新潟レディースの監督に就任したのは2023年7月。つまり、今シーズンより初めて新潟の冬のトレーニングを経験しています。
「今まで、だいたい雪が降っても1日で溶けるイメージを持っていましたが、新潟の雪は溶けないですね。積もると、しばらく積もりっぱなしになります。」
降雪地のトレーニングの最大の問題はトレーニングを計画通りに進められないところにあります。
「リーグ戦の期間は中4日もしくは中5日で選手のコンディションを作っていきます。トレーニングの量と強度を緻密に計画して毎日のトレーニングを積み重ねるとゲームで最大パフォーマンスが得られます。ゲームを最大負荷とし、リカバリー、オフから流れをしっかりと組んでいかないと、怪我発生の頻度が高まります。でも、雪が積もると計画通りのトレーニングをできなくなる。それが一番大きな影響ですね。」
GPSで明らかになった屋内練習の限界
アルビレックス新潟レディースは、天井の高い屋根付フットサルピッチを降雪時のトレーニングに使用しています。しかし、こうした施設を使用しても、フルサイズのピッチを使用できないとトレーニングメニューは限定的なものになってしまいます。
「走行距離6千メートルから8千メートルで加減速(急激な加速や減速をした回数)も計画通りにトレーニングしていかないと、選手はどうしてもコンディションを保てないです。トレーニングの不足が続くと選手のパフォーマンスは落ちていきます。フットサルピッチだと、選手の走行距離はせいぜい3千メートルから4千メートルにしかなりません。」
こうした降雪地のハンデは、GPSの計測データ等で可視化されてきました。
暖冬とはいえ晴天の日は少ない新潟の毎日
では、ここで、新潟市周辺の気候について確認していきましょう。
2024年1月の気象庁発表によると。降雪を記録した日は4日しかありません。しかし、天気概況を読むと、それ以外に15日も、雪、みぞれ、あられを伴う日があることがわかりました。暖冬といっても、気温の低い日がかなりあります。そして、少し雪がちらついただけでも、トレーニングの現場は影響を受けるのです。
天候に合わせたフレキシブルな対応とノウハウの蓄積が大切なフィジカルトレーニング
モク・ソンジョンさんはアシスタントコーチ兼フィジカルコーチ。2021年に新潟にやってきました。
「アルビレックス新潟レディースの仕事に、すごくやりがいを感じています。トレーニングによって選手たちの身体が変化します。例えば、これまで全くと言って良いほど筋トレをしていなかった高校生の選手が、加入後に毎日のトレーニングをし、チームメイトから『お尻周りの筋肉が変わったね』とか『綺麗になったね』とか言われるようになります。」
ピッチが濡れるだけでもトレーニングの効果は変わる
モクコーチは着任以来、雪国のチームならではの多種多様な苦労を経験してきました。
「前日までにトレーニングのメニューをしっかりと組んでも、夜に雪が降ると、全てが変わってしまいます。例えば、ピッチにしっかりと手をつけて身体を動かしたいメニュー。雪が降りピッチが濡れた冷たい状態になると、当初に考えていた動作を選手はしにくくなります。状況に合わせた対応が必要になります。」
取材当日、ピッチ脇でカメラを構えると、太陽から光が差し込む時間帯もありました。
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