「この女子サッカーは面白い」と評判 新世代監督が創る大宮アルディージャVENTUSのポジティブな空気 WEリーグに旋風を巻き起こす期待
大宮アルディージャVENTUSは、2023−24 WEリーグの前哨戦ともいえる2023−24 WEリーグカップ グループBを2位で終えました。1位のアルビレックス新潟レディースと同じ勝ち点8。得失点差で、わずかに1点及ばず決勝進出をすることができませんでした。
今シーズン、監督に就任したのは柳井里奈さんです。INAC神戸レオネッサで、なでしこリーグ2部から1部に昇格する時期に活躍していた元選手ですが現在は34歳。WEリーグの監督の中で最年少です。なでしこジャパン(日本女子代表)で唯一の世界一経験メンバーの熊谷紗希選手より一つ年上。大宮アルディージャVENTUSでプレーする鮫島選手よりも二つ年下です。
監督就任直後のインタビューでは大宮アルディージャVENTUSを「心揺さぶるチームにしたい」と話していました。まさに有言実行です。2023−24シーズンが始まってみれば、大宮アルディージャVENTUSは「心揺さぶるチーム」になってきたと女子サッカー界で評判です。
その評判をどのように感じているのか。西大宮のアルディージャ練習場を訪ね柳井監督と三人の選手に聞いてみました。取材をしたのは2023年10月28日。なでしこリーグ昇格を目指しているVONDS市原FCレディースとのトレーニング・マッチの後でした。今回のWE Love 女子サッカーマガジンは、大宮で新世代が創る新しい日本の女子サッカーの息吹をお届けします。
新世代の監督就任で変わる女子サッカー
「本当にありがたいことに『すごく良いサッカーをしているね』と声掛けていただき素直に嬉しいと思います。だからこそリーグ戦で、より良いゲームをしていきたいと思っています。」
まもなく開幕する2023−24 WEリーグに向け、柳井監督のチームづくりは次のステップに進んでいました。トレーニング・マッチにはテーマを設定して臨みます。
「ボールを大事にしながら、縦に行くところと、しっかり相手を押し込んだ状態でサッカーをするところ、ディフェンスとゴールキーパーの間を狙ってクロスを入れるところ、それを今日は狙っていこうねと話をしました。毎試合、課題が出て、次の日にそれを解決する練習をする。日々そういう感じで選手たちがやってくれるので、ありがたいです。」
昨シーズンの大宮アルディージャVENTUSはカウンターから相手のディフェンスラインの裏に抜け出す攻撃による得点が強く印象に残っています。ただ、得意とする形に持ち込めない試合では苦戦が続きました。しかし、今シーズンは、そこに一味加わりました。カウンターの鋭さは従来通りですが、ポゼッションからも相手の守備網の穴を突く攻撃を繰り返すことができているのです。
今シーズンの大宮アルディージャVENTUSは、井上綾香選手や船木里奈選手による駆け引きによって、相手のディフェンスラインが下がって生まれたトップの下のスペースに中盤の選手が飛び出し、つなぐパスワークが美しいチームとなりました。選手が移動しながらボールを動かし対戦相手を翻弄します。例えば右サイドは、仲田歩夢選手がスペースを察知して中央に走り込むと、空いたタッチライン際のスペースをサイドバックの杉澤海星選手が駆け上がり攻撃に関わる人数を増やします。中と外のスペースの使い分けもあり驚きのシーンを絶え間なく生み出します。
ファン・サポーターからの期待を背に受け、やりがいを感じている選手たち
井上選手は、ディフェンスラインの裏に抜け出し得点を重ねてきたストライカー。昨シーズンのリーグ戦は全試合に出場。8得点を記録した大宮アルディージャVENTUSのエースです。今シーズンは、これまで以上にファン・サポーターからの期待を感じると言います。
「試合を見た方が『今シーズンはいける』と思ってくださっていると自分たちも感じています。『昨シーズンよりもやれる』と思っていますが、リーグ戦が始まれば、またカップ戦とは違った雰囲気になると思うので、開幕戦から大事にやっていきたいと思っています。」
船木選手は今シーズンの新戦力。マイナビ仙台レディースから加入しました。思い切りの良さを感じさせるプレーで、早くもファン・サポーターの心を掴んでいます。
「期待の大きさを感じますね。『大宮のサッカーは楽しいね』みたいなことを言われると、めっちゃ嬉しいです。」
船木選手は2023−24 WEリーグカップ グループBの全試合に出場。第5節のAC長野パルセイロ・レディース戦では得点し1−0の勝利に貢献しました。
「カップ戦では、遠慮なく自分のプレーを出すことができました。(第1節の)INAC神戸レオネッサ戦から持ち味を見せることができたと思っています。もちろん、加入直後はわからないこと、戸惑ったところもあったのですが、ポジティブに捉えて次に向けて準備していきました。年齢が上の人が『遠慮しなくて良い』と言ってくれています。だからやりやすい。こういうチームが勝つんじゃないかなという雰囲気がありますね、サッカーも楽しいし。」
林みのり選手は「個々の良さを引き出しながら組織的にやっていくことを去年よりもさらに意識できている」と言います。
「ゴール前に入ることも意識しています。もっと自分へのパスを引き出して、攻撃につなげるところをやっていきたいです。」
林選手は、今シーズンのここまでのプレーに手応えを感じながら、いまだに悔しさも口にします。あの得失点差1の違いを次は乗り越えたいと強く決意し、前を向き、日々、取り組むことができているようです。その言葉の結びはポジティブでした。
「2023−24 WEリーグカップは、最後の最後まで決勝に行けるチャンが残っていました。ファン・サポーターの皆さんの応援を感じていたので、決めきれなかったことが、すごく悔しかったです。惜しいところまでいった部分をもっと磨くことができれば強みに変わってくると思うので、そこはしっかりチームとしてやっていきたいです。」
新世代の監督が生み出すポジティブな空気
VONDS市原FCレディースとのトレーニング・マッチでは、意図的にディフェンスラインの位置を高く設定しました。そのため前半は、高い位置でボールを奪われカウンター攻撃を受けるシーンがいくつか見られました。相手陣内で大宮アルディージャVENTUSのパスが何度かカットされたとき、柳井監督から声がかかりました。
「押し込みすぎるとやりにくくなるよ。」
選手が前向きに捉え、自ら解決策を考えやすいマインドになれるアドバイスでした。船木選手は、トレーニング・マッチ前に柳井監督にかけてもらった言葉を教えてくれました。
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