FIFA女子ワールドカップ現地観戦の魅力 冬のニュージランドはホットだった「ワールドカップに女子も男子も関係ない」 (無料記事)
男女を通じFIFAワールドカップ史上最高のグループステージ成績で首位通過したなでしこジャパン(日本女子代表)は戦いの舞台をノックアウトステージに移します。今回は、ニュージランドでグループステージの試合を応援した二人をご紹介します。まず、一人目は園山萌子さんです。今年からニュージーランドで生活しています。二人目は岩崎俊介さん。セレッソ大阪ヤンマーレディースを応援するサポーターです。
現地の様子はどうだったのか、日本と何が違うのか、FIFA女子ワールドカップの魅力とは何か、冬のニュージーランドでの観戦直後のホットなうちにお話していただきました。

スタンドからなでしこジャパン(日本女子代表)を応援した精鋭たち(中央奥が岩崎俊介さん) 提供:岩崎俊介さん
本当の意味での多様性を感じています 園山萌子さんの場合
園山萌子さんはワイカトスタジアム(ハミルトン)のバックスタンドからなでしこジャパン(日本女子代表)を応援しました。
「スタンドとピッチの距離が近くて面白かったです。」
読者の中には、その名前に見覚えのある方がいるかもしれません。なぜなら、園山さんは女子サッカー選手。2022年12月まで、なでしこリーグ2部の岡山湯郷Belleでプレーしていました。30歳を前に契約を満了し退団。その後ワーキング・ホリデー・ビザを取得し、現在はニュージーランドで生活しています。

ニュージーランドの雄大な景色 提供:園山萌子さん
ニュージランドは労働力のオーストラリアへの流出が大きく、2022年からワーキング・ホリデー・ビザによる外国からの労働力確保に方針を転じました、18歳から30歳を対象にワーキング・ホリデー・ビザを発給しています。その制度を利用して、園山さんはニュージーランドにやってきたのです。
「日本でのサッカー中心の生活にひと区切りつけました。以前から海外での生活に興味があり、ワーキング・ホリデー・ビザの年齢制限の30歳にギリギリだというのもタイミングの理由のひとつです。もし、日本の試合会場がオーストラリアだったら……ワーキング・ホリデーの行き先をオーストラリアにしていたかもしれません。」
園山さんは、たまたま住まいの近くにあった、サッカーチーム(グリーンハイスF Cモザンバ)に加入しました。同じ女子サッカーのリーグ戦でも、試合の行い方が日本とは異なるそうです。特に違うのが試合後。ホームチームがカフェテリアでビジターチームをもてなすアフターパーティのような会食が行われる習慣があります。そして、メンバー構成が日本とは全く違います。
「チームにはいろいろな国の出身者がいて、ワールドカップでは自分の国を応援しています。キーウィ、ヨーロピアン、アジアン、あと私以外に日本人もいます。オークランドのスタジアムから近いので、皆も観戦に行っているみたいです。チームメイトから『日本よかったね』と言われました。」

園山萌子さん(左)とチームメイトの大野綾子さん(右) 提供:園山萌子さん
選手から見るとFIFA女子ワールドカップはどのような印象になるのでしょうか。「日本で経験した試合会場とは違いましたか?」と聞いてみると、やはり、返ってきた答えはニュージーランドの多様性についてでした。
「ワールドカップは盛り上がり方が違いますね。全然違います。ニュージーランドにはいろいろな国の人が住んでいます。スタジアムには各国出身の人たちがたくさんいました。」
そして、FIFAワールドカップらしい、国際感覚にあふれる体験もできました。
「スタンドの真ん中にザンビア応援団の人たちがたくさんいて一体感がすごかったです。日本とは全く違う勢いがあって、声量もすごくて、歌って踊ってみたいな雰囲気に圧倒されましたね。なんだか楽しそうにしていて……一緒に踊っちゃいました。」
試合が行われていない時間の楽しさも、日本のスタジアムとは全く違ったようです。
「音楽が大音量で流れていて、大型モニタに人が映し出されるとアピールして盛り上がっていました。MCが煽ったりマスコットが登場したり、ずっと盛り上がっていました。ボランティアの方もたくさん声をかけてくれました。静かな時間は全くなかったです。試合中もゴールが決まるとウカスカジーさんの曲が流れました。ファン・サポーターにプレーを楽しんでもらうことはもちろん大切ですが、スタジアムの環境を整えて、映像や音響で盛り上げたり、イベントやグッズ、スタグルなどを充実させたりして、サッカー以外でも楽しめるスタジアムをつくることができれば、日本でも、もっと女子サッカーに興味を持ってもらえるのでは、と思いました。」
最も楽しさを感じたのはスタジアムでの「出会い」だそうです。
「日本から来たサポーターの女の子とスタジアムの前のバーみたいなところで会うことができました。会場でもたくさんの日本人に会うことができました。試合中は、ニュージーランド在住の日本人の方々と一緒に応援しました。試合は、女子サッカーを初めて見る人も絶対に楽しめる内容でした。周りには、どこの国の出身かはわかりませんが日本を応援してくれる人がいて、国籍を問わず一緒に盛り上がりました。ここは本当にいろいろな国のいろいろな人が混じり合って、いろいろな盛り上がり方をしています。ここで本当の意味での多様性を感じています。」

ニュージーランドの美しい自然 提供:園山萌子さん
日本は女性が女性のアスリートを見てかっこいいと思える環境づくりが遅れている 岩崎俊介さんの場合
岩崎俊介さんは、これまで、セレッソ大阪応援店舗等が参加するバルイベント「サクラマンカイバル」の実行委員、「大阪フットボール映画祭」の実行委員を務める等、サッカーと地域をつなぐ活動を活発に行ってきました。現在は、セレッソ大阪ヤンマーレディースの応援に力を入れています。しかし、今大会にはセレッソ大阪ヤンマーレディースの選手はメンバー入りしていません。なぜ、現地で応援することになったのでしょうか。

カタールでもおなじみの「This Way」 提供:岩崎俊介さん
「前回大会のFIFA女子ワールドカップ フランス2019ではパリに応援に行きました。日本代表が底上げされなければ、WEリーグも、その下のリーグも底上げされないと僕は思っています。女子サッカーを応援している以上、行けるのであれば行かなければと思ってきました。レディースチームにも熱心に応援している人がいるということを、一般の人には伝わらなくても、男子サッカーを見ている人たちに伝われば、何かがどこかで交わるときが来ると思っています。
それと、セレッソ大阪には『羽ばたいていった選手たちを海外にまで見に行く』というサポーターの文化があります。それを刷り込まれているのでしょうね。今回、林穂之香と浜野まいかというセレッソ大阪堺レディース出身の二人の選手が選ばれたので自然に見に行こうと思いました。もう一つの理由として『単にニュージーランドに行ってみたかった』というのもありますね。」

オークランド空港の到着ゲート前はスタンド風の出迎えゾーン 提供:岩崎俊介さん
応援の手法は各国でさまざまです。そして、大会やシチュエーションによっても雰囲気は異なります。岩崎さんは、なでしこジャパン(日本女子代表)の応援に地元の人を巻き込む意気込みでスタンドに乗り込みました。上手くいったのでしょうか。
「思っていたレベルを100とすると60くらいの達成感です。試合の局面で盛り上がって歓声が出るタイミングは抜群に良いのですが、ニュージーランドの地元のファンたちにはサッカーの応援という土壌がないのかもしれない。オーガナイズして応援するということはあまりしないのでしょうね。
会場には子どもたちがとても多かったです。僕たちは一番前の自分の席で応援していました。指定席であって指定席ではないようなところもあって、子どもたちが前の席に降りてきて一緒に応援しはじめました。その子たちはすごく盛り上がっていましたね。F I F A女子ワールドカップならではの『殺伐としていない感じ』。女子サッカーでしかありえない光景で、試合中だけれどもほっこりしました。楽しかった。パリでは戦いの感じがしたのですが、今回はフェスティバル感の方が強かったです。」

試合開始直前までは静かなスタジアム周辺 提供:岩崎俊介さん
では、目的の一つ、セレッソ大阪堺レディース出身の二人の選手はどうだったのでしょう。
「林穂之香は自信がすごくある顔をしていました。今までの代表で見る顔ではない大人になった顔です。浜野まいかはニコニコしているのが調子のバロメーター。ニコニコしていたし、代表で皆に仲良くしてもらっているのだろうということが伝わってきました。」
その点については満足だったようですが、反面、ショックを受けたことがあったそうです。
「前回大会で購入した日付入りのカップがなかった。それが今回、めちゃくちゃ一番のショックです。カップをお土産にするために、ドリンクが高くてもスタジアムで無理やり買って飲むじゃないですか。試合が終わった後で、皆に『ごめん』と連絡しました。」
カタール大会と比べると、日本から応援に行く人は多くありません。地上波での放送も、グループステージでは1試合のみ。そんなFIFA女子ワールドカップの現地応援を岩崎さんは読者にお勧めできるでしょうか。
「楽しいです。現地の空気感は、やはりF I F Aワールドカップです。F I F Aワールドカップに女子も男子も関係ない。サッカーを見ている限り、行けるのであればF I F Aワールドカップには行った方が良いです。だから皆さん……マイルは貯めるべきです(笑)。それから、F I F A女子ワールドカップに関しては、女性にもっと見てほしいです。日本は女性が女性のアスリートを見てかっこいいと思える環境づくりが遅れていると思います。」
誰もが、思う存分に好きな選手を応援できる環境がFIFA女子ワールドカップにはありました。

オークランド市内はラッピングバスだらけ 提供:岩崎俊介さん
S N Sで現地の空気をチェック
現地に飛んだのはファン・サポーターや選手のご家族・関係者だけではありません。福岡・Jアンクラスの監督・選手、横須賀シーガルズ女子の選手、湘南ベルマーレ・ガールズの選手……日本に持ち帰った体験は、未来の女子サッカーの血となり肉となります。
筆者は過去に上海、フランクフルト、リヨンの3カ所でFIFA女子ワールドカップを観戦していますが、いずれも全く雰囲気が違いました。地域に根付いた風土と刻々と変化する社会情勢の両面を反映します。FIFA女子ワールドカップは未完成です。だから、大会ごとに発展途上の面白さがあります。その楽しさは、今回の記事のような発信で、徐々に日本のサッカーファンに広がり始めています。
現地の情報は記事を経由しなくてもS N Sで発信されています。フランス女子代表選手との交流がF I F AのS N Sでキャッチアップされた日本人サポーターもいます。ぜひ、チェックしてみてはいかがでしょうか。WE Love 女子サッカーマガジンは準決勝、決勝が行われるシドニーに飛び、オーストラリアで女子サッカーを楽しむ皆さんの取材をする予定です。ご期待ください。
(2023年8月2日 石井和裕)