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FIFA女子ワールドカップのテレビ中継はなぜ決まらないのか 「放映権契約のプロフェッショナル」が考える「JFAが優先すべきこと」

世界各国で女子サッカーの人気が急騰しています。2023年6月3日にオランダ・アイントホーフェンのP S Vスタジアムで開催されたU E F A女子チャンピオンズリーグの決勝戦は前売りチケットが完売。F Cバルセロナ女子の大逆転優勝に、3万3147を収容したスタンドが湧きました。

ところが、日本では7月に開幕するFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023の放送が決まっていません。放映権料が高騰し、それを購入し中継するテレビ局がいまだに現れていないのです。

FIFAのインファンティノ会長は、人気が高まった女子サッカーの待遇改善に積極的です。FIFA女子ワールドカップの賞金総額を前回大会の4倍近い1億1千万ドル(約154億円)に増額すると発表しています。しかし、一方で、女子サッカーの待遇改善を要求してきた一部の国のテレビ局が希望する放映権料の提示が男子と比べて低すぎると不満を表明しています。放送が決まっていないのは日本だけではありません。スペイン、イタリア、ドイツ、フランス等でも決まっていないのです。

放映権契約のプロフェッショナルに聞く放映権の気になる疑問

今回は気になる放映権問題について、株式会社小西FCの小西孝生さんに解説していただきました。小西さんは1992年にJリーグに入社。2000年にJFA(日本サッカー協会)へ事業部長として出向。2004年にJリーグに復帰してからは、Jリーグメディアプロモーション、株式会社Jリーグの社長などを歴任されました。現在はJリーグの参与でもあります。宇都宮徹壱ウェブマガジン『J3の「2024年問題」をどう考えるべきか? 2016年のDAZN契約時の当事者に聞いてみた』(https://www4.targma.jp/tetsumaga/2023/04/05/post28230/)で放映権契約について解説された「放映権契約のプロフェッショナル」です。今回の取材は宇都宮徹壱さんからご紹介いただきました。

F I F Aのサイトに公開されていたメディアリストにJapanの欄はずっとなかった 

最初に、放映権の基本と、なぜ、放映権が売れないという問題が起きるのかについて教えていただけますでしょうか?

小西まず、放映権料と市場のバランスがあります。そして、大きく分けて無料放送と有料放送の二つにわかれます。有料にはテレビ放送だけではなく、近年はインターネット配信事業者も数多く参入しています。いずれにしても無料の場合は、提供スポンサーを付けなければなりません。放映権料と制作費の合計金額に対して、提供スポンサーから得られる金額が少ないと赤字になります。また、例え赤字であっても赤字の幅が小さければ、放送することで、その局のイメージ(ステーションイメージ)が上がったり、あるいは、もし日本が活躍したときにその局が報道番組等で中心になれたりするメリットがあります。

つまり、放映権料と得られる収入や収入以外のメリットとのバランス見合いで、放送局や配信事業者は放映権を買うかどうかを決めます。今回は、F I F Aが提示する金額が高すぎて誰も手を挙げたがらない、あるいは手を挙げたくない、またはもう少し待てば値段が下がるのでは……という思惑があって放映権獲得が実現していないのだと思います。

F I F Aは、おそらく安売りをしたくないと思っているので、ギリギリまで値段を下げてこないでしょうし、実際、カタール大会ではA B E M Aがかなりのお金を出して日本でも配信、放映権を高額で販売可能になりました。

—A B E M Aは全試合を無料で配信しましたが、有料サービス『A B E M Aプレミアム』(月額960円)に加入することで、フルマッチ・ハイライトともに3月末まで視聴できるようにしていましたね。この大会を機会に、初めてA B E M Aを視聴されたり知ったりされた方が多かったようで、放映権を購入した価値はあったかもしれません。

小西おそらく当初は全部を無料配信にするつもりはなかったと思います。ただ、JFAは 無料の配信を強く希望していましたし、たまたまタイミングが良く、A B E M Aに出資しているサイバーエージェントのグループ会社・Cygamesがやっている『ウマ娘 プリティーダービー』が大きな利益を毎月生み出していたので、サイバーエージェントグループとして投資しやすい状況でした。だから、全試合を無料で配信しA B E M Aのプロモーションに充てることができました。でも、今の女子サッカーでは、ああいうカタール大会のようなムーブメントは、なかなか起きにくいので、配信事業者が大きな金額の投資をするとは考えにくいです。

JFAハウス

F I F Aワールドカップは有料放送が手がけにくい大会 

JFAは無料放送を希望される傾向にあるのでしょうか?

小西JFAだけではなく、元々、F I F AF I F Aワールドカップをはじめ男子の世界大会についても無料放送の地上波で中継してほしいと強く要請してきました。以前は、欧州でもサッカー中継の多くは地上波で無料放送されていましたが、衛星放送の普及に伴って高額な権利料が集められるようになり、ライブは有料、地上波ではハイライトやニュースが放送される流れになっていきました。今ではインターネットやベッティング(賭け)に関する配信も多く行われています。女子サッカーでも、そろそろ無料放送ではなく、お金を集められるようになるのではないかと考える人たちが増えてきています。

アメリカで選手登録をしている女性が190万人(2019年)といわれています。プレーしている女性がとても多い国です。そして、男性と女性で競技に差をつけることは良くないと考える社会性があります。ですから、アメリカでは、高い放映権料でも放送が実現します(英語放送をF O X、スペイン語放送をテレムンドが行う)。

欧州の強豪国で選手登録をしている女性が多いのはドイツ(19.8万人)とスウェーデン(19.7万人)。アメリカと比べると人数に大きな開きがあり、欧州女子サッカー主要国の全ての選手登録人数を合計してもアメリカ単独の方が多いくらいです。だから、どうしても放映権は、アメリカと同じようには売りにくくなります。

そういう意味では、女子サッカーもグローバル化が進んで、各国の環境の違いが露呈したように見えますね。

小西そうですね。それからF I F Aワールドカップは国内のリーグ戦やチャンピオンズリーグと違い、年間を通して開催される大会ではありません。ですから、有料放送が手がけにくい大会でもあります。1年間を通して視聴者がお金を支払うプレミアリーグ等とは違い、あっという間に始まって、あっという間に終わる。視聴者は1ヶ月か2ヶ月しかお金を払いません。

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