横山久美選手が加入し昇格を狙う岡山湯郷Belle ゼネラルマネジャー高橋寿輝さんの考える「僕の使命」 体制が整ったら宮間あやを呼びたい
2023プレナスなでしこリーグ2部は4月1日に開幕します。今シーズンは岡山湯郷Belleに再び注目が集まっています。かつて、なでしこジャパン(日本女子代表)で活躍しアメリカ女子プロサッカーリーグNWSL(National Women’s Soccer League)でプレーしていた横山久美選手をはじめとする実力十分な選手が集まったからです。岡山で、今、何が起きているのでしょうか。
理想的な里の風景がある美作市の湯郷温泉
岡山と聞くと風光明媚な瀬戸内海の景色を思い浮かべる人がいるかもしれません。ただ、湯郷温泉郷の入り口にあたるJ R林野線の林野駅は、岡山駅から約1時間50分の距離にあり、そのイメージとは大きく異なります。湯郷温泉の歴史は古く、いまから1千200年ほど昔の平安時代に慈覚大円仁法師が白鷺に導かれ発見したと伝えられます。山と川に囲まれ、ホタル、雲海、棚田等、大自然に包まれた名湯です。
地域の皆さんに「ラサ」と呼ばれ親しまれる岡山県美作ラグビー・サッカー場は温泉街の脇の坂を登ったところにあります。周囲には天然芝1面、人工芝2面の補助競技場、アリーナ、野球場、テニスコート等が揃う運動公園となっています。素晴らしい施設は2002年にFIFAワールドカップが開催された際にスロベニア代表のトレーニングキャンプ地となりました。なでしこジャパン(日本女子代表)のトレーニングキャンプにも使用されたこともあります。
岡山湯郷Belleのチーム名に岡山という地域名がついていますが、近年は岡山市内でのホームゲーム開催もなく、湯郷温泉のある美作市を中心とした山間部の独立した地域コミュニティのシンボルとして存在している印象です。
全国にその名を轟かせた岡山湯郷Belle
岡山湯郷Belleは、宮間あや選手、福元美穂選手を擁しプレナスなでしこリーグ2014 レギュラーシリーズを優勝。なでしこリーグの強豪として名を馳せました。坂道に長蛇の列ができた超満員のホームゲーム、全国から見物客が押し寄せ温泉街が大混乱した宮間選手と福元選手の世界制覇凱旋パレードといった数々の伝説を持っているチームですが、近年は成績が芳しくありません。2016プレナスなでしこリーグ1部を10位で終えた岡山湯郷Belleはなでしこリーグ2部に降格してしまいました。あの頃の熱狂が嘘のように、湯郷温泉は静かな日々を重ねています。
日本の女子サッカーの頂点を知る高橋寿輝さんがゼネラルマネジャーに就任
2022年3月に高橋寿輝さんがゼネラルマネジャーに就任。美作の地で2シーズン目を迎えます。以前はINAC神戸レオネッサの執行役員、ゼネラルマネジャーとして日本の女子サッカー界のトップで大活躍した高橋さんは、なぜ岡山湯郷Belleにやってきたのでしょうか。そして、美作市で何が起きているのか、その真相を語ってくださいました。
高橋—元々、僕は「サッカーの仕事をしたい」という思いが強いわけではありません。女性のコミュニティをマネジメントする人間になりたいと思ってきました。INAC神戸レオネッサを退職した際に、Jリーグのクラブをはじめとするいくつかのクラブからお話をいただきました。「女性のチームからJにステップアップしないの?」とおっしゃる方も多数いらっしゃいます。Jリーグ・クラブは事業規模が大きく、人もたくさん動きます。もちろんリスペクトしています。ただ、僕はJリーグのクラブに行くことをステップアップだとは思っていないので、ちょっと変わっているのかもしれません(笑)。
高橋—僕は女性スポーツのコミュニティのその先に、もっと大きなものが動く価値に興味を持っています。僕がいたINAC神戸レオネッサのホームタウンの神戸市は人口150万人の大きな自治体でした。一方、湯郷温泉のある美作市は小さな自治体です。だから、岡山湯郷Belleは市政に大きな影響を与える存在です。その立ち位置に興味がありました。岡山湯郷Belleからお声がけいただいたとき、そのお話に街づくりの発想があったのです。
そして、もう一つ、この街に来た理由があります。INAC神戸レオネッサには澤穂希がいました。岡山湯郷Belleには宮間あやがいました。日本の女子サッカー界で必ず名前が挙がる二人がいたクラブの仕事をすることに興味がありました。宮間は、今、湯郷を離れてしまいましたが、クラブの体制が整ったら、彼女にはゲストでも名誉スタッフでも良いから岡山湯郷Belleに関わってもらいたい。それを僕の使命の一つだと考えています。
—女性スポーツのコミュニティのその先について、どのようにお考えなのかを教えてください。
高橋—女性がサッカーをすることに関しては、まだ多くの人が違和感を持っている時代だと思います。しかし、岡山湯郷Belleのホームタウンと周辺地域では、女性がサッカーをするのが当たり前という考えです。アメリカも女性がサッカーをするのは当たり前の社会ですね。僕は、アメリカと同じような文化を、この街の小さなコミュニティで作れるのではないかと思っています。
—確かにこの街で、湯郷温泉女将の会会長の峯平滋子さんや、選手がよく利用する軽食・喫茶のゴンベの上原寿子さんとサッカーの話をすると、基本的に女性がサッカーをしている前提で、男子選手のお話は出てきませんでした。日本では珍しい、女性がサッカーをするのが当たり前となっている街の土台は、2011年のなでしこジャパン(日本女子代表)の世界一を経て、すでに出来上がっているのかもしれませんね。
高橋—この街のサッカーは、日本全国とは男女が逆転しています。
岡山湯郷Belleは美作市の価値を高める役割を担えるクラブ
—2022年シーズンに岡山湯郷Belleに着任し、最初の一年間を振り返り、美作市の現状をどのように捉えていますか?
高橋—美作市は人口2万6千人ほどの過疎の地域です。街の人たちは、2部降格をしてからずっと下降気味だったクラブのV字回復の一年目と捉え、選手たちの背中を押してくださいました。残念ながら2022プレナスなでしこリーグ2部は最下位に終わりましたが、飛躍する土台は固まりました。あとはジャンプするだけだと思っています。何か大きなことをするよりも、街の人との挨拶から一年間やってきた感じです。
—湯郷温泉には古くからの温泉街というイメージがあります。岡山湯郷Belleの選手以外のこの街で暮らす人は高齢の方も多く、選手が地域の皆さんと会話するだけで新しいコミュニケーションの芽が出てくるような感じがしますね。
高橋—おっしゃる通りです。元気な高齢者が多い街ですが、若い力を加えていくことが必要です。それを選手が担うことで、街が活性化していくと思います。岡山県には国際空港がありません。美作市にはファミレスチェーンもマクドナルドもありません。でも、岡山湯郷Belleという、他にはないコンテンツを生かしてアジア圏とのビジネスのパイプの入り口にしたいと考えています。海外ではサッカークラブを持っていることがステータスにつながります。岡山湯郷Belleは美作市の価値を高める役割を担えるクラブです。街にとって必要なクラブであり続けたい。それを実現できるクラブだと僕は思ってここに来ました。
1部昇格を目指し大型補強を敢行
—昨シーズンはギリギリでなでしこリーグ2部に残留することができました。今シーズンの目標をどのように定めていますか。
高橋—優勝して自動昇格できれば、なお良いのですが1部昇格が一番の目標です。ただ、他のクラブも補強を進めて力をつけていますので、甘くはないと思っています。例えば、初昇格ですがヴィアマテラス宮崎は、かなりの力を持っています。要注意です。
もう一つの目標があります。皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会でWEリーグかなでしこリーグ1部のクラブと対戦した際に、対戦相手から「嫌だわぁ」と言われたいです(笑)。
—勝ち負け以前に、対戦するのが嫌な存在として認められているということですね。
高橋—そういうことです。昨シーズンは皆が辛抱してよく頑張りました。得点力不足が顕著で18試合のうち10試合が引き分けでした。もし、1点をもぎ取ってくれる選手が一人でもいたら勝ち星が増えていました。そこで、補強に関しては攻撃的ポジションの選手を中心に声がけをしました。
—実力ある選手が集まりましたね。補強活動は順調でしたか?
高橋—僕が来てほしいと思った選手の7割くらいは来てくれました。80点くらいの補強です。人件費を増やさずに筋肉質の編成にすることを目指しました。実際に人件費は増えていません。
—特に話題になったのは横山選手の加入です。加入のニュースを見たとき、私は「嘘!?」と声を出してしまいました。どのような経緯で加入に至ったのでしょうか?
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