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FIFA女子ワールドカップでなでしこジャパン(日本女子代表)が対戦 東京2020で2試合連続ハットトリックを達成したバルブラ・バンダ選手を擁するザンビアを当事者が語る

今年は女子のワールドカップ・イヤーです。FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023カップが開催されます。なでしこジャパン(日本女子代表)は2023年7月22日(土)にニュージーランドのワイカトスタジアム(ハミルトン)で初戦を戦います。対戦相手はザンビア女子代表です。ザンビア女子代表はFIFAランキング81位で初出場……と、その情報だけを読めば、くみしやすい対戦相手に感じます。しかし、このチームには恐るべきアタッカーがいるのです。警戒しなければなりません。

グレース・G・チャンダに要注意

2022年12月までザンビアに留学しインターンをしていた広島大学総合科学部国際共創学科4年の中村悠人さんは、2人の選手に特に注意すべきだと言います。

「最も注目される選手はバルブラ・バンダ選手です。多くのボールが集まります。決定力のある選手なので、対戦する際はシュートを打たせないことが重要だと思います。ザンビアにはバルブラ・バンダ選手のようになりたいと言う選手がたくさんいました。ザンビアの女子サッカー選手の憧れの的でした。

先日、ザンビア女子サッカー・スーパーリーグの選手と話す機会があり、代表チームはサイドにドリブラーがいるためサイド攻撃を警戒するべきだと伝えられました。また、バルブラ・バンダ選手だけではなくグレース・G・チャンダ選手にも注意するべきだそうです。」

グレース・G・チャンダ選手は直線的でスピーディなドリブルが得意。ゴール前に飛び込み点で合わせて得点を奪うこともあります。現在、スペイン・リーガ Fのクラブ マドリードC F F女子でプレーしています。

オリンピック女子サッカー初の偉業を達成したザンビアの新星バルブラ・バンダ

エースストライカーのバルブラ・バンダ選手は2020年シーズンの中国女子スーパーリーグで得点王に輝きました。とても危険な選手です。

ザンビア女子代表は東京2020大会に出場。F I F A公式サイトはバルブラ・バンダ選手を「世界に衝撃を与えた点取り屋」と報じました。ザンビア女子代表が初出場を果たしたオリンピックの初戦。対戦相手は強豪のオランダ女子代表。大量10失点を喫してしまいます。しかし、ザンビア女子代表は3得点を返しました。全得点を叩き出したのがバルブラ・バンダ選手です。バルブラ・バンダ選手は終盤に得点を重ねアフリカ女子サッカー選手で史上初めてオリンピックのおける女子サッカーのハットトリックを記録しました。

ザンビア女子代表の粘り強さは次の試合でも発揮されました。続く中国女子代表戦を4−4で引き分け、史上初の勝ち点を獲得したのです。一旦は1−3とリードを許しましたが、そこから3点連続得点で逆転。最後は追いつかれての引き分けでした。バルブラ・バンダ選手はこの試合でも3得点しハットトリック。一つの大会で度のハットトリックを達成したオリンピック女子サッカー史上初の選手となりました。

ザンビアと縁の深い千葉県旭市

バルブラ・バンダ選手のユニフォームは、日本のある場所に飾られています。それは千葉県旭市にある旭市総合体育館。千葉県旭市は東京2020大会の際にザンビアのホストタウンだったのです(このページのトップの写真はザンビアオリンピック委員会から千葉県旭市にユニフォームが贈られた際のフォトセッションです)。

バルブラ・バンダ選手のユニフォーム 提供:旭市教育委員会

旭市教育委員会 体育振興課 体育振興班に取材をしたところ、東京2020大会のときの旭市民の様子を教えてくれました。

「初戦のオランダ女子代表戦では、相手が優勝候補ということもあり一方的な試合展開となりましたが、そんな状況でも格上相手に最後まで諦めずに食らいつき、バンダ選手が終盤に連続で得点を挙げた場面ではとても盛り上がりました。また、中国戦でもハットトリックを決めたことにより、オリンピック女子サッカー史上初の2試合連続ハットトリックを決めるという偉業を達成し、嬉しく感じるとともに誇らしくも感じました。」

旭市では、庁舎内や市の体育館に応援ポスター・結果を掲示し、また、市の公式サイトや庁舎内デジタルサイネージにもザンビア代表の情報を掲載し、全庁を挙げてザンビア代表を応援しました。

旭市内での展示 提供:旭市教育委員会

東京2020大会は厳重に新型コロナウィルス対策を行い開催されました。そのため、旭市はホストタウンとなったものの事前キャンプは中止となり、選手団と市民との直接の交流は叶いませんでした。しかし、大使館等を通じた交流でザンビアの文化に触れ、多くの市民が国際交流に参加することができました。

「ザンビア現地の日本大使館で行われたオリンピック代表選手の壮行会では、旭市内のオリンピック・パラリンピック教育推進校である旭市立第二中学校の生徒が作成した応援動画を流しました。その際は女子サッカー代表含め、参加していた選手、関係者全員が大変喜んでいたと大使館職員より聞きました。」

オリンピック代表選手の壮行会 提供:在ザンビア日本国大使館

ザンビア女子代表戦は元プロ選手・野口亜弥さんにとって特別な試合

一般社団法人 SC P Japan(https://scpjapan.com)の共同代表を務める野口亜弥さんは、スウェーデンでプロサッカー選手としてプレーした後に引退。ザンビアのN G Oで半年間、スポーツを通じたジェンダー平等を実践した経験があります。現在は「一人ひとりが自分らしく歩んでいける未来を創る」活動をしています。スポーツを通じて「性の多様性(L G B T Q)やジェンダー平等に関する教育・研修」「プライドハウス東京のコンソーシアムメンバーに参画」「(公財)ジョイセフとのスポーツを通じた女性のエンパワーメントワークショップ活動」「バルサ財団とコラボレーション契約によるSportNetプログラムの提供」等を行っています。

ザンビアでの生活を経験した野口さんにとって、ザンビア女子代表戦は特別な思いのある試合となりそうです。

「2021年はザンビア女子代表がオリンピック女子サッカーに初出場を果たして、嬉しいな!と思っていたら、今度はFIFA女子ワールドカップ初出場で大変ワクワクしています。私は2015年にザンビアのNGO活動に関わらせていただきました。コンパウンドという低所得者が住む地域で週に2回サッカーを教えていました。私がグラウンドに行くと、隣でサッカーをしている男の子たちからボールを借りて、男の子たちから練習するスペースを分けてもらい、毎回10人に満たない女の子たちがサッカーをしに来てくれました。その頃『サッカーは男の子のスポーツであまり女の子たちには馴染みはない』と、その地域のNGOの職員が教えてくれました。それでも、毎回、目をキラキラしながら『リフティングがこんなにできるようになったよ』『こんなにボールが蹴られるようになったよ』と、サッカーができることを楽しみにしてくれる女の子たちの様子が昨日のことのように目に浮かびます。FIFA女子ワールドカップに出場するザンビア女子代表の選手たちが彼女たちの憧れになっていることを想像すると、とても嬉しく思います。」

野口さんのプロフィールには「スウェーデンでのプロサッカー選手の経験を経て現役を引退」と書いてありますが、その後に続きがありました。

「2014年にスウェーデンでプロ選手としてプレーした後、ザンビアの女子のトップチームにも登録してもらって試合にも出させてもらっていました。バウレニ・ユナイテッド・スポーツ・アカデミーの女子チームでした。当時、このチームからザンビア女子代表に何人かの選手が選出されていました。ザンビアの選手たちはフィジカルが強く、スピードがあるサッカーをしていた記憶があり、ポテンシャルのある選手たちが多いなという印象を持ちました。なでしこジャパン(日本女子代表)とザンビア女子代表が対戦することは私の中では特別です。どちらのチームにも、良いサッカーをしてもらいたいなと思っています。今からとても楽しみです!」

首都のルサカの女子サッカーチームで働いた中村さんの見たザンビアの女子サッカー

記事の冒頭に登場していただいた中村悠人さんは2022年2月から12月までザンビアに渡りました。リアルなスポーツの現場を経験するために、首都のルサカをホームタウンにする女子サッカーチームであるヴィクトリアス・ユナイテッドの練習補助、ウォーミングアップのサポート等を行うボランティア活動に参加。また、ザンビア大学で日本語を教えていました。なぜ留学先にザンビアを選んだのでしょうか。中村さんは、高校2年生のときにザンビアを訪問した際の思い出も交えて理由を教えてくれました。

「僕は日本とザンビアのハーフです。ザンビアで生まれ、3歳までザンビアで過ごしました。ザンビアにいると現地の人よりも肌の色が明るいので、王様やお金を持っている人のような扱いをされます。逆に、日本にいると肌の色が暗いので酷いことを言われることもありました。

でも、そういった人々とサッカーをはじめとしたスポーツで打ち解けることができたので、スポーツを通してザンビアと日本の交流を活発化できるプログラムを作りたいと考えています。そのためにザンビアのスポーツ文化を知りたいと思い、ザンビアに留学しました。」

中村悠人さん(中央) 提供:中村悠人さん

中村さんは文部科学省が展開するトビタテ留学J A P A Nの支援の支援を受けて留学と、ザンビアのスポーツ庁が管轄する機関でのインターン参加を実現しました。留学の途中からA N Z Ahttps://anza-africa.com)で記事を執筆するインターンに参加しています。A N Z Aは、株式会社A A I C  Japanが運営する、日本企業のアフリカ進出を支援するオンラインプラットフォームです。

「インターンの傍で、ボランティア活動のために最初に女子チームと関わったとき、僕は白人や外国人を意味する『ムズング』と呼ばれました。そのうち『ムズング・コーチ』と呼ばれるようになりました。そこから『コーチ』と呼ばれ、最終的には名前で呼んでもらえるようになりました。ずっと関わり続けることは大切だと感じました。」

生活習慣の違いが中村さんを苦しめることもありました。やはり、最も大きく違ったのは時間の使い方でした。

「時間の考え方が日本とは違うので苦労することもありましたね。ザンビアタイムといわれるものがあり、約束しても相手が約束時間の2時間後に現れたりすることは当たり前でした。僕の関わっていたチームは3部リーグで戦っていて、練習は独自のグラウンドがなかったので学校等の無料で使用できる施設を使用していました。公式戦も、その施設で行うのですが、その前の時間に別のフレンドリーマッチが予定されていて、そもそも、予定通りの時間に試合が始まらないので、僕たちの試合も2時間遅れで試合開始になることがありました。」

ヴィクトリアス・ユナイテッド 提供:中村悠人さん

女の子がサッカーで活躍することを願う親が増えているザンビア

ザンビアの女子サッカーリーグは2020年にスタートしました。現在は3部リーグまであります。

「1部リーグには男女チームを持っているチームもあり天然芝の大きなスタジアムで試合をすることもあります。しかし、3部リーグになると資金不足のために草と土のグラウンドが試合会場になることも多かったです。」

草と土のグラウンドでの試合 提供:中村悠人さん

とはいえ、女子サッカーリーグが3部編成ということからも、現在のザンビアの女子サッカー人気がうかがえます。それまでのザンビアでは、女性がサッカーをすることを好ましく思わない親が多く、女子サッカーの競技人口が少なかったのですが、プロリーグの設立やザンビア女子代表の活躍により大きく環境が変わりました。また、ザンビア代表選手が女性のロールモデルとしてとらえられており、女の子がサッカーで活躍することを願う親が増えているのです。

ザンビアの女子サッカーのディビジョン構成 提供:中村悠人さん

1部リーグに相当するスーパーリーグ(18チーム)と3部リーグに相当するプロビンシャルリーグは2020年のプロリーグ立ち上げ当初から活動しています。2部リーグに相当するナショナルリーグ(17チーム)が後から設立され(※当初原稿に誤りがあったので「後から」に修正しました。申し訳ありません。)、上下のリーグの実力差の乖離を埋める役割を果たしています。ザンビアの国土は広く、日本の約倍の面積があります。ナショナルリーグは北と南に分けて行われています。プロビンシャルリーグは10州で行われており、平均して1州に10から14のチームがあります。全国各地でたくさんの女子サッカー選手がプレーしています。

土のグラウンド 提供:中村悠人さん

では、ザンビアの女子サッカーは、どのようなスタイルで行われるのでしょうか。

「グラウンド・コンディションが悪いので前にボールを蹴って走り込むのが基本のスタイルになっていました。」

そのため、フィジカルや走力を活かした選手が目立つのだそうです。

「ザンビアの女子1部リーグには軍や警察がスポンサーのチームもあるので練習がかなりハードです。ザンビア女子代表は体力があるチームだと思います。フィジカルトレーニングをしているので3部リーグの選手とは身体つきが全く違います。」

長く伸びた草 提供:中村悠人さん

ザンビア女子代表は2022年9月に開催された2022C O S A F Aカップ(南部アフリカ選手権)女子の決勝戦で南アフリカ女子代表を破り優勝しました。

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