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「山下さんは誇りであり大切な仲間」「誰が受賞しても苦楽を共にした仲間の受賞」2022プレナスなでしこリーグ表彰式 最優秀審判賞 近藤恭子さんが仲間と試合前に準備すること

2022年10月26日にリーガロイヤルホテル東京で開催された2022プレナスなでしこリーグ表彰式は特別表彰から始まりました。最優秀審判賞を受賞した近藤恭子さんは緊張した面持ちで、ゆっくりとスピーチ。試合を運営しているチームの皆さん、審判委員会や地域の皆さん、職場の皆さん、審判仲間、沢山の皆さんへ感謝の言葉を伝えました。表彰式を終えると笑顔を見せ、千葉園子選手(ASハリマ)と一緒に写真に収まりました。

最優秀審判賞は権威ある賞です。過去にはA F C年間最優秀女性レフリーを5度も受賞した山岸佐知子さんやFIFAワールドカップ カタール2022で第4審判を担当した山下良美さんも受賞しています。

今回は近藤さんに喜びの声、そして、知られざる審判の世界についてお聞きしました。また、カタールでの山下良美さんの活躍について、同じ審判員の立場から、どのように感じられたのかについてもお聞きしています。記事を読むと、選手と共に素晴らしい試合を作っている審判員について、意外な事実を知ることになるかもしれません。

しばらく信じられなかった受賞

近藤「これから正式な連絡が来ます」と事前に電話でお聞きしたときに「嘘だ」と思いました。「何の話ですか?」に近い反応をしてしまいました。何時間か経った後に正式に受賞の連絡が来ました。私にとって過分な受賞に驚き、声が出なくなってしまいました。まさか、自分が受賞するなんて思っていませんでしたから、責任の重さを感じて号泣してしまいました。歴代の受賞者の素晴らしさを知っていたので、しばらくは「私のような者がふさわしいのだろうか」と思っていました。でも、今は「スタートラインに立たせていただいた」と感じ、素直に嬉しく思っています。

表彰式はいかがでしたか?

近藤フィールドで会うときとは違う選手の一面を見ることができました。参加するだけで光栄に感じました。

ものすごく緊張していることが伝わりました。

近藤リーグ事務局からの気遣いで「午前中は観光でもされてはどうですか?」と言っていただいたのですが、それどころではありませんでした。朝一便で羽田空港に着くと、ずっと、必死にスピーチの練習を続けていました。審判のイメージを損なわないように、感謝の気持ちが伝わるように、スピーチの文章を暗記するだけで精一杯でした。スピーチの後に、温かいお言葉をたくさんいただき、やっと目の前の景色を見られるようになりましたね。

 

たくさんの人と一緒に審判員をしている

近藤審判仲間の皆さんは、本当に喜んでくださいました。自分では想像できない反応でした。「私も頑張ります」「心に沁みました」と言ってくださった方もいて嬉しかったです。誰が受賞しても、苦楽を共にした仲間の受賞です。

いつも、試合の後に会話をします。審判仲間で励まし合います。「あれってどうだったの?」「あの判定はどうだった?」……職場や友達同士とは少し違う、お互いを高め支え合う幸せな関係です。

皆さんで一緒になって審判をされているのですね。

近藤本当にそう思います。審判員は失敗してしまうこともあるので「こうやれば良かったのかも」と経験を話すことが多いです。ピッチでは4人で審判を担当しますが、もっとたくさんの人と一緒に審判をしている感じです。いろいろな職業、年齢の方と出会うことができました。毎日が面白くてしょうがないです。審判をすることで、こんなに人生を彩り豊かにしていただいて、とても嬉しいです。

提供:近藤恭子さん(右から2番目)

以前に京葉線に乗ったときに、どう見ても今日の担当審判と思われるグループと同じ車輌になったことがあります。当然、大きな声でその日の試合のことを話すことはないのですが、サッカーの話で盛り上がっているのを見て「こうやって一緒にサッカーに関わっている方々なのか」と思ってことがあります。

近藤サッカーの話をたくさんしますね。

心の準備もなく始まった2級〜1級審判資格への道

近藤小学生のときからプレーしたかったのですが、まだ女子のサッカーがメジャーではなく、私はプレーできませんでした。徳島県の大学に進学すると、近くで活動する女子チームが見つかり、やっとプレーできることになりました。当時の四国には女子の2級審判がいませんでした。チームの監督が、四国初の女子の2級審判資格を取得しようと活動されていました。その方が「日曜日、空いている人?」とチームで声をかけました。私は、その日が審判試験の日だと知らずに「空いています!」と答え、当日、車に同乗して連れて行かれた先が審判資格の試験会場でした(笑)。何が起こったのかわからないままに試験を受けることになりました。

後日、不合格通知が届きました。「えっ!?」と思いました。そもそも受ける気がなかったのに不合格が来て悔しかった。不合格という文字に過剰反応して本格的に審判の勉強を始めました。

そのようなきっかけで始まった審判ですが、思い出深い試合はありますか?

近藤先日、高円宮妃杯JFA第27回全日本U-15女子サッカー選手権大会の準々決勝を担当しました。日テレ・東京ヴェルディメニーナとJFAアカデミー福島が対戦しました。選手は「自分たちのサッカーで勝利する」ことに熱中してキラキラしていました。私はプレーに巻き込まれそうになる場面も多く「もっとサッカーを知らなければ」「もっとポジションを考えなければ」「もっと選手が自由にボールを回せるように狙い所を理解しなければ」と実感しました。日本のサッカーの将来を、この選手たちが背負うのだろうと感じました。

選手の息遣い、「行くぞ!」という気持ち……温度をビシビシと感じます。もう、幸せですね。間近でレフリーを担当し、改めて「この選手たちを生き生きとさせられる審判になりたい」と思いながら走りました。

とても良くできたと記憶している試合はありますか。

近藤よくできたかどうかはわかりませんが、2022年に徳島県で高校総体を開催しました。決勝戦を担当させていただきました。私は徳島県サッカー協会の事務局で働いているので、徳島県で全国大会の決勝戦を担当できることが嬉しかったです。いつものピッチが会場だったせいか、過度に緊張せず、選手たちの顔を見ると「ここを攻めるのかな」「こう考えているのかな」と自然に入ってくる試合でした。パス回しも面白く、試合に自分が溶け込めました。

例えば、地元というのは心理状況に、良い意味で影響しますか?また、良い判断をするために大切なことは何でしょうか?

近藤この試合は地元開催の大きな大会の決勝戦だったので、例えば「早朝に集合するには、あの先生は何時に家を出るのだろう?」と、顔見知りの人たちの行動を具体的にイメージしてしまいます。たくさんの人が関わって開催できた大会ですから、それに応えなければと思っていました。

レフリーの役割は「自分の良いパフォーマンスを見せること」ではありません。でも「ここで失敗してはいけない」という心理状況で試合に入ってしまうと上手くいかないことがあります。レフリーは「選手たちにより良い環境を整える」役割です。徐々に「どうすれば審判チームとして選手に良い環境を作れるのか」に気持ちを持っていけるようになってきました。

令和4年度全国高等学校総合体育大会 サッカー競技大会 女子決勝戦 提供:近藤恭子さん(右から2番目)

スピードアップする女子サッカーに審判員が対応するための準備

近年の女子サッカーのスピードアップや強度の強さは、間近でご覧になって感じますか?

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