WEリーグ参入2023年のセレッソ大阪堺レディースは、どこに向かうのか?セレッソ大阪スポーツクラブ 佐伯真道さんとヤンマーホールディングス 村山勉さんが見据える未来と秋開幕まで
2023年はWEリーグが、また新しいスタージに進む年になります。2023−24シーズンのWEリーグにセレッソ大阪堺レディースの参入が決まったのです。これまで11チームだったWEリーグは12チームとなります。
セレッソ大阪堺レディースは育成に優れたチームとして知られています。2022年11月にスペインで行われた国際親善試合では、なでしこジャパン(日本女子代表)のメンバーに宝田沙織選手(リンシェービングF C)、林穂之香選手(ウエストハム・ユナイテッド)、北村菜々美選手(東京NB)が名を連ねました。3人の選手はセレッソ大阪堺レディースの出身です。10月に行われたM S&A Dカップ2022では、セレッソ大阪堺レディースに所属する小山史乃観選手が17歳で初出場を果たしました。
セレッソ大阪堺レディースは2022プレナスなでしこリーグ1部を4位で終えました。そして今年の秋から、待望のWEリーグへ進みます。関西の名門クラブのレディースチームは、この2023年をどのように過ごし、どこに向かっていくのでしょうか。今回は、一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ レディース事業部長の佐伯真道さんにお話をお聞きしました。そして、インタビュー取材には、セレッソ大阪を支えるヤンマーホールディングス株式会社 スポーツビジネス室室長の村山勉さんにも加わっていただきました。
セレッソ大阪堺レディースは、WEリーグ参入の意義として4項目を掲げています。
1 女性活躍社会のけん引。
2 大阪に女性プロスポーツを根付かせる。
3 セレッソから世界に羽ばたく選手を継続して輩出する。
4 選手の夢の実現。
「育てながら勝っていく」苦労のあった2022年
佐伯—2020年シーズンは、大会レギュレーション、代表選手輩出、新型コロナウィルス対策に対応した難しいシーズンでした。そして、もう一つ、WEリーグに向けての難しさもありました。
若い選手が多い現場は「優勝してWEリーグにいくだろう」という周囲からの期待もあり「育てながら勝っていく」育成と強化の二面性が現場を混乱させたとこところもあります。竹花友也監督をはじめコーチ陣は悔しい思いをしたと思います。日本女子代表、アンダー年代の女子代表に多くの選手が選出されることで代表合宿中に選手が揃わず、勝っていくためには苦しいところもありましたが、その結果、中学生の選手を含め多くの選手が良い経験を重ねる機会を得ました。将来のセレッソの力になってくれると思います。
—「世界基準によるサッカー選手の育成」は順調に見えますが、いかがでしょうか?
佐伯—これは10年以上も先人たちが積み上げてきたものです。優れた素質を持った良い選手が関西全域から集まり、セレッソ大阪堺レディースで育っていきました。2021年シーズンは、最も成長の速度が早かったです。WEリーグがスタートし、多くの選手がWEリーグに参入した別のチームに移籍していったので、これまで試合に出場できなかった選手が出場機会を得ました。2022年シーズンはなでしこジャパン(日本女子代表)に選手が選出されて精神的にも肉体的にも成長を遂げるといった刺激がありました。この一年も育成が上手く進んだと思います。
—試合前のウォーミングアップで、あれほど綺麗に正しくボールが回転するパス交換を見せてくれるチームは、男女を通じてセレッソ大阪堺レディースしかないと思います。あの美しさと正確な技術には驚きます。
佐伯—いやいや、風間技術委員長(八宏:セレッソ大阪スポーツクラブ技術委員長)には「まだまだ」と言われています(笑)。技術的には群を抜いたところはあると思いますが、サッカーはそれだけでは勝てないので。
ヤンマーホールディングスには男女で同じように活躍できる場を提供する責任がある
—さて、村山さん、支える立場のヤンマーホールディングスとして、WEリーグ参入を具体的に進めていくタイミングでお考えのところはありましたか?
村山—学生の選手が多かったということで、当時のセレッソ大阪堺レディースはWEリーグ参入に手を挙げなかったと聞いています。しかし、選手の流出が引き金になってWEリーグ参入を考えるようになり、その具体的な方法を検討していったという流れです。スタジアムと財政基盤がしっかりしなければWEリーグ参入の審査を通過しません。幸い、スタジアムについては長居にヨドコウ桜スタジアムがあり、一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブは指定管理者です。セレッソ大阪堺レディースの試合に使用することができます。ですから、参入を認めていただくためには、ヤンマーグループが財政面で、どこまでサポートできるのかが重要でした。社内での調整を2022年の前半に済ませました。7月に入会申請をするために、ヤンマーホールディングスと一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブが綿密にコミュニケーションをとりました。
佐伯—入場料やM D(グッズ販売)だけで十分な収益を得られるわけではありません。財政面の課題を解決するにはスポンサー収入の確保が重要です。WEリーグの入会審査では、そうした収支計画が現実的なものなのかどうかを判断されるのだと思います。まず、ヤンマーさん(ヤンマーホールディングス)にWEリーグ参入の大義を認めてもらうことが重要でした。
—セレッソ大阪のトップチームは、たとえば、これまでの有力な外国籍選手の獲得について、ヤンマーホールディングスのグローバルな展開も意識されてきたように感じます。レディースチームは、ヤンマーホールディングスの中で、どのような位置付けとなるのでしょうか?
村山—2022年までと2023年からでは、少し変わるかもしれません。2019年から古澤留衣選手と玉櫻ことの選手がヤンマーグループの社員として働いています。社内には「実業団」的な「同僚を応援しよう」という雰囲気もあります。
2023年にプロ化してからどのようになるかは、これから決まっていくのですが、しっかりとサポートしたいです。
トップチームは「セレッソ×ヤンマー×海外」という取り組みをやってきました。一例として、2022−23シーズンよりブラジルのレッドブル・ブラガンチーノというクラブとプレミアム・パートナー契約を締結しました。その背景には、ヤンマーは、1957 年にグループ初の海外子会社であるブラジル現地法人をサンパウロに設立し、それ以降、ブラジルの人々の暮らしや産業の発展に貢献してきました。また、サッカーにおいても、セレッソ大阪の前身であるヤンマーディーゼルサッカー部ではブラジル出身選手が活躍し、ブラジルのサッカークラブと積極的に交流を行なってきた歴史があります。
セレッソ大阪堺レディースでは、最初から、そのような大きな取り組みまではできないと考えていますが「順を追って」ということになると思います。
ジェンダーの面は強く意識しています。ヤンマーホールディングスは「ダイバーシティ&インクルージョン」を基本的な考え方として表明し、女性社員が多方面で活躍できる職場環境を整備しています。そうした企業活動をする中で「男子はプロチームだけれど女子はアマチュアチームで良いのだろうか?」という声がありました。男女で同じように活躍できる場を提供する責任があると思っています。
セレッソ大阪はヤンマーディーゼルサッカー部の歴史と伝統の上にあると考えています。レディースチームもチームで選手を育てることに力を入れてこられました。10年以上を歩んだセレッソ大阪堺レディースとしての基盤があって、今に至っていると思います。それをサポートできるのはヤンマーホールディングスとして嬉しいことです。
佐伯—ヤンマーディーゼルサッカー部時代からの伝統を受け継いでいることは、よく感じますね。
WEリーグの説明をする機会がもっと増える
—WEリーグ参入について、これまで支えてくださった地域の皆さん、スポンサー企業の皆さんから、どのような反応を得ていますか?
佐伯—大阪市、堺市の皆さんから喜んでいただいています。スポンサー企業の皆さんも喜んでいただいています。この1年間、スポンサー企業の皆さんを回って、WEリーグの説明を続けてきました。だから……私の説明が上手くなりました(笑)。これから、もっと説明する場が増えるかもしれませんね。
—参入記者会見で4点の参入意義を提示しておられました。その2点目は「大阪に女性プロスポーツを根付かせる。」でした。どのようなお考えでしょうか?
佐伯—団体競技の女子プロスポーツチームが大阪市にまだまだ少ないので、セレッソ大阪の担う役割は大きいと思います。セレッソ大阪というブランドを生かしてファンを増やしていきたいです。ただ、WEリーグに参入したから急に入場者数が増えるとは思っていません。
一番は「サッカーで勝つこと」だと思います。トップチームはスタジアムに2万人のファン・サポーターを集めることができますが、その中でもレディースチームをまだ知らない人が多いのが現状です。マスメディア的な発信だけでは限界があります。スタジアム近隣地域のファンを開拓していく活動をしていきたいと思っています。幸い、2月からしばらくは公式戦がないので十分な時間があります。
—ヤンマーホールディングスとしてお考えのことはありますか?
村山—入場者数が少なくメディアから取り上げられることも少ないということでは、セレッソ大阪堺レディースが「大阪に女性プロスポーツを根付かせる」ことにはならないと思います。できるだけ多くのお客様にスタジアムへ来ていただきたいと思います。そして、戦略的にメディアに露出していくことも必要です。テレビで取り上げられたからといって若い世代から支持を受けられるわけではありませんから、念入りなメディア戦略が重要です。
2022プレナスなでしこリーグ1部のホーム最終戦では3千15人にご来場いただきました。ヤンマーグループから声をかけて約500人に足を運んでいただきました。ヤンマーグループとしては、できるだけ社員の皆さんに応援してほしいと思っています。
夢を実現するための体制づくりを進める
佐伯—セレッソ大阪でプロ選手になりたいという選手たちの希望を叶えてあげたいです。
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