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女子サッカーの美しい瞬間 ビジュアルレポート 皇后杯に帰ってきた小林里歌子が復活ゴール 戦力が揃った新ベレーザは「この試合が新しいチームのスタート」

皇后杯 JFA 第44回全日本女子サッカー選手権大会の4回戦、カンセキスタジアムとちぎで開催された第二試合は日テレ・東京ヴェルディベレーザがマイナビ仙台レディースに4−1で圧勝しました。植木理子選手が試合開始から約40秒で見事なヘディングシュートを突き刺し11分、17分、38分に追加点。前半で勝負を決めました。

敗れたマイナビ仙台レディースのキャプテン市瀬菜々選手は「(前半は)点を取られないことを意識しすぎて起点に強く行けませんでした。」と、立ち上がりの消極性を悔やみました。

選手の表情を捉えた48枚の写真で、試合の模様をお届けます。

Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

市瀬菜々選手

カップ戦ならではのスリル、そして敗北、解散、予選敗退のドラマ

皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会は今大会もドラマに溢れています。なでしこリーグ1部のアンジュヴィオレ広島は2回戦で敗退。今シーズン限りの解散が決まっていたため、その試合をもってチームの歴史に幕を閉じました。

2023―24シーズンにWEリーグ参入が決定しているセレッソ大阪堺レディースは、前回大会で準決勝に進出し旋風を巻き起こしました。しかし、今大会では2回戦で静岡SSUボニータと対戦。P K戦で涙を飲みました。静岡SSUボニータは2022プレナスなでしこリーグ2部を優勝。来シーズンはセレッソ大阪堺レディースが卒業したなでしこリーグ1部に昇格して戦います。同じく、前回大会でWEリーグのチームを連続して撃破し準決勝に進出し、カンセキスタジアムとちぎでジェフユナイテッド市原・千葉レディースと戦った日テレ・東京ヴェルディメニーナの姿を本大会で見ることがありませんでした。なぜなら、関東地区予選で敗退していたからです。

マイナビ仙台レディースのサポーター

日本の女子サッカー界随一の名門チームといえば日テレ・東京ヴェルディベレーザです。皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会にも強く過去10年間で5回優勝しています。過去43回のうち34%にあたる15回も優勝しているのです。しかし、前回大会は準々決勝でジェフユナイテッド市原・千葉レディースに0−3と大敗し準決勝のカンセキスタジアムとちぎに駒を進めることができませんでした。準決勝に進出すれば日テレ・東京ヴェルディメニーナと姉妹対決するはずでした。このスタジアムには因縁があります。

日テレ・東京ヴェルディベレーザのサポーター

「そこそこ」では勝ち進むことができないプロの壁

マイナビ仙台レディースの松田岳夫監督は、日テレ・ベレーザ(当時)の監督として皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会を3度制覇しています。女子サッカーを知り尽くした上にJリーグでの監督経験も豊富なプロフェッショナル。1−4という結果を受けて「チームには打たれ弱い面があり苦しい状況になると自分たちを見失ってしまう」と、課題を捉えました。ハーフタイムで高平美憂選手を交代し3バックから4バックに変更。後半は幾分盛り返すことができました。劣勢の原因はシステムだったのでしょうか。

「システムの問題というよりは一人一人の意識の問題です。裏を怖がる、一対一でフリーになるのを怖がる、結果的に動き出しが遅くなる悪循環に陥ったと感じます。自分たちが意志を持ってプレーしなければ何も変わりません。彼女たちが自分たちで変わっていった後半だったと思います。」

國武愛美選手

松田監督は、力がある選手たちが、ハーフタイムというきっかけを経るまで実力を発揮できなかったことを「すごくもったいない気がします」と表現しました。65分に1点を返したシーンは、攻撃に厚みを感じる素晴らしいプレーでした。

「あの状況になって初めて出せたプレーなので、あれを始めから出せるか、覚悟を持ってプレーできるか、個人の部分も大きいです。プロサッカー選手として活動する中で、もっと強い覚悟を持ってやっていかないと変わらないなと感じましたし、選手たちにも感じて欲しいところです。そこそこのことはやれる。でも『そこそこ』じゃダメだということをそれぞれが感じながら、少しずつでも積み上げていくしかないと思います。」

得点者の矢形海優選手は、後半に得られた手応えを口にしました。

「後半は個人としてもチームとしても一対一の強さで相手を潰せていたと思います。攻撃も自信を持って前への意識があったからこそ、自分たちでボールを握った時間が長かったと思います。これを後半から出すのではなく前半から出せるチーム作りをしていかないといけないと思いました。」

矢形海優選手

電撃先制点を産んだ日テレ・東京ヴェルディベレーザ・竹本一彦監督からのメッセージ

日テレ・東京ヴェルディベレーザの竹本一彦監督は、このチームを率いて1993年に優勝を経験しています。ブラジルスタイルのショートパスをつなぐ中央突破を武器に1990年から1993年までなでしこリーグを4連覇し名門チームの基礎を作りました。1990年代に成功した、今でいうポゼッションサッカーが長くベレーザのプレーモデルとなりました。2021−22シーズンから、再び監督としてチーム全体の指揮をとっています。

先制点の重要性をあらためて選手にインプット。それが試合開始から約40秒での電光石火の先制点に結びついたのかもしれません。

「立ち上がりに良い形で得点できたことが大きかったです。昨日の新潟L、大宮V、今日の1試合目(浦和)も、試合開始早々に得点したチームが有利に試合を運んでいます。それを選手に話しました。先制点は大事です。2週間前に行われたウチのWEリーグのS広島R戦は無得点だったので、それを払拭する意味でも良い形で得点でき、2点目、3点目、4点目が続きました。」

1分に植木理子選手、11分に北村菜々美選手、17分に小林里歌子選手、38分に植木理子選手が連続ゴール。とるべき選手が得点しました。

村松智子選手

新しい日テレ・東京ヴェルディベレーザのスタート 

植木選手には涙を伴う苦い記憶があります。2022年10月1日に開催された2022−23WEリーグカップ決勝戦で自らが25分、29分と連続得点し、さらに村松智子選手の得点で3−0とリードしましたが84分に追いつかれ、PK戦で優勝を逃したのです。そのため、この試合では、できるだけ早く追加点を奪い、前半のうちに勝負をつけたいと考えていました。

「前半に2得点したところでは『逆に怖かった』です。2点をとってから追いつかれるシーンが多いのでピリピリしていました。3点目、4点目を前半のうちにとれたのは、今までと違ったところだと思います。」

植木理子選手

4−0で折り返した前半。もう、十分すぎるほど大量得点したと考えたファン・サポーターが大半だったでしょう。しかし、竹本監督は違う考えを持っていました。

「5点目がとれないのが課題です。カップ戦で3−0から3−3になってP K戦に持ち込まれたり(2022−23WEリーグカップ決勝戦)、先制点をとっても3−5でやられたり(2022−23 YogiboWEリーグ 第2節)、うちには苦い思い出がたくさんあります。」

竹本監督は、この試合で万全の勝利を目指していたのです。なぜなら、それをできるチーム状態に、やっと辿り着けたと考えていたからです。

「今年は、怪我人や体調不良者の影響でこのメンバーを組んだことがありませんでした。やっと今年のウチの戦力が揃った前半になりました。この試合が新しいチームのスタートとなりました。

一昨日のミーティングで(前回大会で敗れた)ジェフ戦の先発メンバーを書きました。一年前の苦い思い出を話しながら『でもウチら変わっているよ』と話をしました。一年経つとチームが変わっています。小林里歌子は、その試合で怪我をして一年間をリハビリに費やし、今日の試合で先発メンバー入りしました。負けられない試合でした。負ければ皇后杯は終わってしまうし、リーグ戦一本になってしまいます。前の試合で(2022−23 YogiboWEリーグ 第5節)S広島Rに負けたので難しい試合になると予想しましたが、その反面、メンバーが揃ったので『こういうサッカーができる』ということを見せようと考えていました。今日は大きな勝利でした。」

藤野あおば選手

今シーズンの開幕当初は右サイドバックにストッパー経験の豊富な選手を起用。清水梨沙選手がプレーしていた昨シーズンまでとは異なり、変則の3バックに近い布陣となり右サイドの攻撃枚数が手薄になるケースもありました。この試合の日テレ・東京ヴェルディベレーザは非保持時は左右非対称の4−3−3ながら、保持時は左右対称の3−4−3となる陣形を採用。左の北村菜々美選手(MF)と右の宮川麻都選手(DF)がタッチライン際で幅をとって高い位置でプレーしました。小林里歌子選手と藤野あおば選手は中央の植木理子選手からあまり離れず中央でスリートップを形成。右サイド、左サイド、中央のあらゆるレーンから、満遍なく攻撃を仕掛けることができました。相手陣内でボールを奪えば、あまり手数をかけることなく、すぐにマイナビ仙台レディースのゴール前にボールを運びました。

宇津木瑠美選手

「宇津木(瑠美)と小林里歌子が先発メンバーに入って左サイドがスムーズになりました。右に回った(宮川)麻都もプレーの判断が早く1点目のアシストは素晴らしかった。3点目もアシストしています。両サイドが締まる攻撃の起点が増えます。うちの9番(植木理子)、10番(小林里歌子)、11番(藤野あおば)はどこに出しても恥ずかしくないスピードと怖さ、それぞれに持ち味があります。それが前半に出ました。でも、もっと点を取れたと思います。

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