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「考えるな、感じろ」森山泰行さん(ラブリッジ名古屋・ストライカーコーチ) ストライカーの「感覚」とは?伝えないまま自分の人生を終えては悔いが残る

山田仁衣奈選手(朝日インテック・ラブリッジ名古屋)は今シーズンに大きく飛躍した選手の一人です。2022プレナスなでしこリーグ1部で得点者ランキング3位の10得点。ベストイレブンに選出される大活躍を見せました。ストライカーコーチとして指導した森山泰行さんについて、このように話してくれました。

「フォワードにしかわからない感覚を言語化してくれる今までになかったコーチのスタイルなので、すごく新鮮です。マニアックな話ができて、それも面白いです。」

山田仁衣奈選手(朝日インテック・ラブリッジ名古屋)

森山泰行さんは順天堂大学時代から日本代表に招集されていた生粋のストライカーです。J1では215試合に出場し66得点。そのうち23得点が途中出場からの得点で、ゴール前に飛び込む勝負強さと抜群の得点「感覚」が強く印象に残っています。Jリーグが開幕した1993年に名古屋グランパスのクラブ初ゴールも記録しています。

2019年に愛知県で活動するF Cマルヤス岡崎(J F L)にチームディレクター兼選手として加入(現役復帰)。2020年シーズンで引退しました。2022年8月になでしこリーグの朝日インテック・ラブリッジ名古屋のストライカーコーチに就任したニュースは、開幕当時のJリーグを知る人からは驚きを持って迎えられました。朝日インテック・ラブリッジ名古屋は2022プレナスなでしこリーグで6位に食い込む健闘を見せました。パスを繋いでゴールに向かうスタイルが高く評価されているチームです。

ストライカーコーチとは、あまり聞きなれない役職です。どのような仕事なのでしょうか。今回の取材は「ストライカーコーチとは何か?」を知ることから始まりました。どうやら、チームとして守りボールを早く奪うところから得点を奪うまでが森山さんの指導の範囲のようです。

「ストライカーコーチの構築」にチャレンジしている

森山フォワードだけを指導して結果を出すのは難しく、ボールの出し手へのアプローチも重要です。いかに身体を前に向けてボールを受けられるかを考えたポジショニングや相手を剥がすパス交換も監督と相談しながら全体的に指導しています。

ドイツにはストライカーコーチがいるようです。ストライカーはトレーニングの中で培った技術を習慣づけて、どのようにゴール前で発揮するかという特殊なポジションです。日本では「感覚的」とされ「ストライカーは育てられない」と言われ続けてきました。でも、若い人たちに、その技術を伝えないまま自分の人生を終えては悔いが残ると考えていました。だから「ストライカーコーチの役目を果たす」というよりも「ストライカーコーチの構築」にチャレンジしています。

どのような指導をされているのですか?

森山僕のコピーを作るわけではありません。僕の感覚を選手に当てはめるつもりはないです……「考えるな、感じろ(ブルース・リー主演のカンフー映画『燃えよドラゴン』のセリフ)」に近いと思うのですが、言われたことを言われた通りにやると、そこに考えるワンクッションが入ってしまうのでタイミングを逃してしまうことにつながりかねません。

本人がなりたいストライカーに近づけてあげるために「もう少し、こうしたらいいんじゃないの?」とアドバイスをして、本人が答えを見つけらえるようなコーチングを心がけています。なるべく見つけやすくできるように「この角度で侵入してみな」とか「この踏み込みを続けてごらん」とかを伝えています。ポイントはとてもシンプルなので、これに皆が気づくとストライカーがたくさん生まれてしまうのですが(笑)。

押しつけの指導をすると本人を否定することにつながりかねません。まず、本人の素晴らしさ、考え、やろうとしていることを認めていくことが大切です。そして、もう一つのやり方を提示して考えてもらうと良いと思います。

先日の表彰式で山田選手にお聞きしたところ森山さんのことを「良いところを見つけて常に褒めてくださいます。もっと頑張ろうという気になります。優しい方です。」とお話しされていました。

森山昔の僕の尖ったところは、皆さん想像できないと思いますね(笑)。

男女のサッカーに大きな違いはないがシュートの狙い方には違いがある

森山さんは女子サッカーに対してどのようなイメージをされていたのでしょうか?

森山FIFA女子ワールドカップ ドイツ2011に優勝した佐々木則夫さんは帝京高校の先輩です。応援していましたし、多くの感動をもらったので尊敬する存在だと思っていました。楠木直木さん(三菱重工浦和レッズレディース監督)、大嶽直人さん(鹿児島ユナイテッド監督、元・伊賀FCくノ一三重監督)、宮内聡さん(ちふれASエルフェン埼玉代表取締役会長)……僕の先輩には女子サッカーに関わる人がたくさんいました。

筋力やフィジカルコンタクトに関しては、男子と女子で、どうしても違いが出てきてしまうと思うのですが、その辺りの不安はありましたか?

森山男子でもトップレベルと下のディブジョンでフィジカルの差はあるじゃないですか。だから、男女が原因での違いはあまりありません。それぞれの特徴に合わせたプレーをすれば良いと思います。求められる良い判断、早い判断ができれば、体格で劣る部分はカバーできると思ってきました。ただ、特にゴールキーパーに関しては、背が1cm高ければ、シュートコースが1cm狭くなります。僕が海外でプレーしたときに、日本では「入った」と思ったシュートに触られたこともあります。だから、シュートのタイミングや狙い方に男女の差がありますね。

すると、今の女子サッカーに合わせたシュートの打ち方があるのですね?

森山僕は、そこまで細かなことを選手に言っていませんが、ボールの置き方については言いますね。置き場所によっては2つのコースにシュートを打つことができます。アイデアによっては2つではなく3つになります。1つのコースならばゴールキーパーはコースを読みやすいと思います。2つのコースを選べるならば、ゴールキーパーの動きを見ながら蹴れるときもありますからね。

褒められると良いプレーが脳にメモリーされる

ご指導されてみて、朝日インテック・ラブリッジ名古屋の選手たちをどのようにご覧になっていますか。

森山才能のある選手たちです。皆、真面目に素直に取り組んでいるので、僕が提案したことをやろうとしてくれます。まずは、ベースを身につければ、あとは自分たちで気づいてやってくれるのではないかと思っています。

手応えを感じていますか?

森山どんどんとよくなっていくと思います。でも、人間がやるスポーツなので、慣れてくるとそれができなくなったりすることもあります。一番良い指導は「良いプレーを褒めること」です。褒められると良いプレーが脳にメモリーされます。成功体験を覚えていれば、今後、必要な場面で潜在意識は引き出されてきます。

山田選手に森山さんのことをお聞きしたら「『今の、足の踏み込みだよね』とか『今のトラップの位置だよね』とか、イメージのところを話せるのが楽しいです」と言っていました。 

森山彼女に、それほど教えることがありません。ただ、調子が良いときのことを覚えておいた方が良いと思うので「今日は違うよね」とか「いつものように身体が乗っていないから上から乗せてみな」とか、ズレているところをもうちょっと修正してもらえるような言い方をします。微妙な感覚です。彼女にはこだわりがあるので、そのこだわりを消さずに上手くいくようにアドバイスします。

良い感覚を再インプットして、常にプレーで出せるようにするのですね。

森山そうです。バロメーターとします。僕が選手としていつもこだわってきたのは「きちんとボールが当たっているか」。いくらシュートがゴールに入っても、当たり方が悪かったりすると納得できませんでした。山田選手もすごいですが、何人も楽しみな選手がいるから育てがいがありますよ。自信をつけてくれたら、来シーズンに得点力は上がると思います。

答えを出すのではなく「答えに導く人」でありたい

森山もっと理解しやすい問いかけをできるようにならなければならないと思っています。僕は「答えを出す人」ではありません。問いかけて「答えに導く人」です。いかに、選手たちが気づいてくれるかが重要です。言われたことよりも、見つけたことの方が自分の宝物になります。みんなが自分で見つけてくれると良いと思います。

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